第7話 ダークエルフは性格悪い
トリスタンさんの勧誘に失敗した俺は次なる一手を考えていた。
早急にダンジョンポイント(DP)を増やさないと、王様に献上する酒が手に入らないのだ。
これはすごく困る。
それは俺が提案したダンジョン福祉施設化計画の頓挫を意味し、王宮前に出来てしまった俺のダンジョンの滅亡をも意味する。
即ち、ダンジョンマスターである俺の死というバッドエンドだ。
これだけは何としても避けたい。
「なあ、オカマ……じゃなくてペトラさん。イゾルデを一時的に返品できないかな?」
イゾルデとは先ほど召喚した看護婦型ゴーレムのこと。
ちなみに、エロいナース服着用。
姿形は人間と変わらない。むしろ、俺の職場にいた女性職員より人間らしい。あの人達……怒ると鬼子母神だったし。それに比べてイゾルデは素晴らしい出来映えだと思う。
これを返品するのは正直イヤだ。
俺の願望がこもったせいか、すげえ俺好みの造形なんだよね。胸も大きいし。ココ重要。
でも、背に腹は変えられない。
今、考えるべきは献上品のことだ。
DPで90もしたイゾルデを返品できれば、予定していた酒が全て手に入ると思う。
「あらん、アスカちゃんったらワガママねえ。お姉さん困っちゃうわあ。暗黒神様のお決めになったルールで返品不可よう。アスカちゃんのいた日本でもチェンジはダメなことあったでしょう? さんざん弄んで用がすめばポイッなんて女の敵よう。後でバキュームフェラの刑よん」
オカマのダークエルフが、なぜか鼻をフンと鳴らし怒った表情で俺を見る。
いやいや、イゾルデはゴーレム。召喚モンスターだからね。それに、弄んでねえから! そして、刑が重すぎる! 俺的には極刑だぞ?
「とにかくう、返品は不可よん。でもう、アスカちゃんが女の敵だと分かった以上称号を変更しなきゃねえ。これからわあ、イシダ・ジュン〇チ・ダンジョンマスターって呼ぶわあ」
俺の名前は石井飛鳥イシイアスカな。石田〇一さんのことはソッとしといてあげて。コロナとかで大変そうだったし。
しかし、まあ、そうでしょうね。レシートもないし返品は無理か。そもそもレシートなんかもらってねえしな。
「ああ、どうすりゃいいんだ!」
「もう、アスカちゃんったら無計画なんだからあ。避妊とDPのご利用は計画的にしなきゃダメよん」
「あんたが召喚しろって言ったよね? あと、避妊は全く関係ないよね?」
「あらん、妊娠は女の責任って逃げるタイプ? もう、本当にジゴロなんだからあ。でも、そんなアスカちゃんがダ・イ・ス・キ・よん」
変な言い方やめろ。
その時、俺と毒舌秘書のやり取りを聞いていた騎士隊長のトリスタンさんが会話に加わってきた。
「なあ、ちょっと良いか。ダンジョンは人間が死んだ時だけじゃなく、魔法を使ったり激しい感情の爆発からでも魔力を吸収するんだよな? そして、DPに変化すると」
「ええ、そうよん。ダンジョン内で死ねばあ、その人間の最大ヒットポイント(HP)と最大マジックポイント(MP)の合計がDPとして加算されるわあ。魔法を使わせればあ、使用MPがDPとして加算されまるのう。感情の爆発はマチマチのようねえ。はっきり言って、さほど期待はできない量よん」
ほう、トリスタンさんの質問に答えるオッサン毒舌秘書が興味深いこと言ってるな。
ダンジョンってそんな風になってんだ。
トリスタンさんも顎に手を当て感心したように頷いている。
こんなこと普通の人間なら初耳だよね。
でも、俺には少し気掛かりな事が……
「なあ、ペトラさん。俺のステータスにHPはあったけどMPは無かったよね。何でだろ?」
すると、オカマ毒舌ダークエルフは可哀想な人を見る眼差しを俺に向けるとこう言った。
「うううっ、可哀想なアスカちゃん。あなたの魔、即ち魔力はゼロなのう。だからあ、MPもゼロになるのよう。少しでも魔力があればあ、MPが記載されるんだけどう、無いものは表記されない仕様みたあい。こんな事は前代未聞なのう。お姉さん、あえて触れないでいたんだけど……自分から地雷原に踏み込むなんてえ、アスカちゃんはひょっとしてドエム?」
「マジで言い方!」
くそ、やっぱり普通じゃねえのか俺のステータスは。
すると、トリスタンさんがニヤリと笑うと俺にこんなことを教えてくれた。
「この間、世界神様の神殿に寄進してきたんだが、その時ステータスも見てもらってね。私のHPは527、MPは188だったよ」
「ほう、HPが527でMPが188なの? ヒットポイントはベテラン戦士以上の数値、マジックポイントは高位魔法使い並の数値ねえ。なるほど、イケメン騎士ちゃんは魔法剣士というわけねん。その若さで騎士隊長なのも納得なのよん。ねえ、アスカちゃーん、彼を今殺せば715のダンジョンポイントが手に入るわあ。チャレンジするのも一考の価値有りと思うわよん」
「おまっ、ちょっ、本気で言い方! それに逆立ちしたって勝てんわ。俺のHPは22だぞ。MPはゼロだ。格闘技だって体育の授業で柔道した経験だけ。俺に何を期待してんの?」
「もう、アスカちゃんったら女性だけでなく戦いにおいても童貞なのう? もう、可愛いんだからあ。じゃあ、お姉さんが後で優しく教えてア・ゲ・ル」
このダークエルフはいつか殺す。
ヤられる前にヤってやるぜ!
「うふっ、あたしはいつでもお相手OKよう。だけどう、お姉さんのHPは280。MPは110なのん。犯していたつもりが、いつの間にか犯されていたなんて事にならないよう頑張ってねえ 」
笑いやがった。
ていうか、また思考を読みやがったな。こいつは本当にムカつくわ。でも、俺もちょっと体鍛えようかな……
あっ、俺達のくだらない会話を聞いてトリスタンさんが笑ってるよ。
「すみません、お見苦しい所をお見せして」
「アスカ殿、君は本当に面白い。ダンジョンマスターはこの世界では魔王と同義語。そのくらい、恐れられている。しかし、君のような普通の人間がダンジョンマスターにいるとはな。この情報だけでも国王陛下を説得できるかもしれん」
え、本当ですか。超嬉しいっす!
「もう、イケメン騎士ちゃんは勘違いしてるわあ。あたしのアスカちゃんは普通の人間じゃないわよう。だってえ、エロさが規格外なんだもん。初めてのモンスター召喚でえ、イゾルデみたいなエッチなゴーレムを産み出せるのは稀有な才能よん。童貞なのにここまでスケベ全開にできるとは知らなかったわあ。将来はきっとドーテーキングと呼ばれるかもう」
相変わらずのペトラさんの毒舌。
ていうか、将来も童貞なのかよ!
それだけは嫌だ。
だいたい、俺そんなにエロいか?
確かにイゾルデはエロいけども。
もしや、こっちの世界の男って性欲少ないのかな……
真面目に悩んでいるとトリスタンさんがさらにこう言ってきた。
「だが、やはり献上品があった方が国王陛下を説得しやすくなるのも事実だ」
そりゃそうですよね。
同級生が会社のプレゼンに使う資料を、グラフ化したり一覧表にしたりと工夫してましたもん。
手に取ってみれば説得もしやすいか。
「そこでだ、私が協力するのでDPを増やして日本の酒を手に入れないか?」
「え、それってつまり?」
「ああ、私が魔法を使うことで協力しよう」
「あ、ありがとうございます。本当にありがとうございます!」
なんていい人なんだ。
俺は深々と頭を下げたよ。それなのに……
「でもう、イケメン騎士ちゃんが死んだ方が貢献値は高いのよう? どう、一回死んでみない?」
秘書がこれだよ。
マジで言い方!
何なんだ、このダークエルフはよう。
「ははは、それはお断りする」
トリスタンさんが苦笑してかわしてくれた。
本当にこの人が人格者で良かったよ。
短気な人ならお手打ちじゃね?
「やれやれ、仕方がないわねえ。じゃあ、お姉さんも魔法を使ってDPに貢献するわあ。有能な秘書としてえ!」
「はあ? ペトラさんも魔法が使えんの?」
「もちろんよう。ダークエルフは有能な魔法使い。これは一般常識なのよん」
いや、知らんよ。
ていうか、早く言え。
トリスタンさんにお願いするまでもねえじゃんか。
俺は異世界に来てまだ何時間かしか経ってねえけど、確信したことが一つあるわ。
「ダークエルフは有能で超美人って事ねえ。もう、アスカちゃんったら嬉しいことを思ってくれちゃってえ。アスカちゃんにならあたしの初めてをあげてもいいわあ。こんな女を好きなように犯せるアスカちゃんは世界で一番の幸福者よん」
ダークエルフがニヤリと笑って俺に言った。
うん、違うよ。有能で美人って所から間違ってるよね。
ペトラさんは男。オカマのオッサンだから。
あんた、童貞の俺には重すぎるわ。
それに、思考を読むのやめてもらえませんかね?
マジで。
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