第6話 ホワイトウルフ討伐

 「ダメ! 街に駐在している騎士と魔法使いになんか頼んだら、お金がかかるの! 特に貴族出身の騎士と魔法使いが怪我でもしたら、莫大なお金を請求されちゃう!」

 「なんだそれ……もう何のためにこの街に駐在してんの? あいつらは?」


 話を聞いてて、呆れてしまった。

 国民を守る役目もあるから、王家から給料を貰ってるわけだろ?

 駐在している街で、色んなことを頼まれる度に金請求するとか、わけが分からねえ。


 「あの〜? ちなみに僕は……?」


 一応勇者であるはずの自分ではなく、何故か俺に必死にホワイトウルフの討伐を頼んでいるキャロを見て、あれ? 自分は何をすれば? とアザレンカは思ったのだろう。


 キャロさん? 忘れてません? みたいな感じで聞いたのだが……。


 「何!? 今それどころじゃないの!」

 「あ、はい……」


 キャロの物凄い剣幕に気圧され、アザレンカは俺の背後へと隠れた。

 ……一応、勇者だろ。

 宿屋の娘に完全敗北してるんじゃないよ。


 はあ……仕方ないなぁ……。


 「ホワイトウルフは、どこに多くいる? 優先的にそこへ行くから」

 「ほ、本当!? 討伐してくれるの!?」

 「アザレンカもいるし、大丈夫だろ」

 「ありがとう! プライス! ホワイトウルフは、肉やお酒が一杯置いてある酒場周辺に沢山いるって! じゃ、ごめん! よろしくね! 宿の中にある食料をお母さん達と一緒に隠さないとだから!」


 そう言うとキャロは、慌ただしく部屋を飛び出して一階へと降りていった。


 「……行ったか」


 キャロが出ていったことを確認した俺は、ベッドの下に隠した聖剣を手に取り、そして腰に下げる。


 「おお……カッコいい……似合うね」

 「似合うね……じゃねえよ。ほら、俺の使ってた剣やるから使え」

 「え! 良いの!? その片手剣高いうえに、元騎士王から貰ったやつじゃん!」


 俺が使っていた片手剣は、元騎士王……俺の祖父であるバリー・ベッツが、現役の頃使っていた代物だ。

 イーグリット王国内で最高級と称される剣の素材を、イーグリット王国で一番の刀鍛冶に託して、作らせた剣だというのでメチャクチャ高い。


 ……本来だったら、あげたくねえよ。

 なんなら、金に変えたいまでもある。

 市場に出せばマリア金貨二枚分は下らないから、もしもの時は売れって爺様にも言われたし。


 この国の通貨は鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、そしてイーグリット王国女王マリア・イーグリットの顔が刻まれているマリア金貨がある。


 銅貨が鉄貨十枚分、銀貨が銅貨十枚分、金貨が銀貨百枚分、マリア金貨が金貨十枚分だ。

 ちなみに俺が今泊まっている宿屋が朝食と夕食付きで一日銀貨二枚だ。


 マリア金貨が二枚あったら、この宿屋に千日間泊まることが出来る。

 つまり、この片手剣を金に変えれば三年近くのんびりしていられるのだが……まあ、聖剣が俺の物になっちゃったし……となると、アザレンカにあげるしかないよね。

 安物持たせるわけにもいかないしさ。


 「さあ、アザレンカ。防具も着けたし、剣も腰に下げたか?」

 「準備バッチリ! ってか、何この剣! 軽い!」

 「そりゃ、良かった。じゃ、行くぞ」

 「うん!」


 二人とも準備が出来たので、いつものようにアザレンカが俺に抱きつく。

 周りからしたら違和感だらけのこの行動にもう慣れた。


 ……何故アザレンカが俺に抱きついているのかというと、これから俺が使う転移魔法テレポーテーションは、魔力の消費が激しいので、魔力量が無尽蔵と言えるぐらいあるアザレンカに抱きついて貰うことにより、俺の魔力消費を抑えるためだ。


 元々この旅の予定は、魔法はそれなりに色々な魔法を使えるが、魔力量が並程度にしかないという俺の致命的欠陥をアザレンカがカバーする。

 逆にアザレンカは氷魔法しか使えないので、折角の無尽蔵の魔力量が生きない。

 だからアザレンカの魔力を使って俺が色んな魔法を使って、サポートする……ってはずだったんだけど。


 大きく予定が変わっちゃったなあ……。


 「テレポーテーション」









 ◇

 








 「よし、着いた……って、想像以上だな」

 「うわ……凄いね」


 キャロに教えられた通り、ホワイトウルフが多くいるという酒場周辺に来たが……。

 今の季節は、夏に限りなく近い春だぞ。

 それなのに……。

 

 ホワイトウルフの吐く氷のブレスのせいで、道や酒場などの店舗が、所々凍結していた。

 しかも、気温も低くなっていてかなり寒い。


 「グガァァァァァ!!!!!」


 おっと、着いて早々一匹。


 ザシュ。


 「使いやすっ……えっ、プライスの使ってた片手剣、聖剣より全然使いやすいんだけど……」


 抜けない聖剣という、実質呪いのような物から解放されたアザレンカは、襲い掛かってきたホワイトウルフを軽々と討伐していた。

 

 初めて見たぞ。

 ホワイトウルフの頭部と胴体が一瞬にして離れ離れになったの。


 「その調子なら大丈夫だな。大体……ここにいるホワイトウルフは、五十匹程度か……?」

 「助けながらだよ、街の人を」

 「分かってるよ」


 ……アザレンカ、やっぱりお前は勇者だよ。

 たとえ、聖剣が抜けなくても。

 自分をバカにしてた連中を助けながらやろうとしているんだからな。

 俺なんか、勝手に自分で避難してろって思ってたよ。


 心の中で、そう思いながら。

 俺は聖剣を抜いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る