第2話 屈辱の就任式
「父上。『色欲』のルクス、参上しました」
「うむ」
低く威厳のある声が、薄暗い謁見の間に響いた。
ここは魔族・ヴァーンズ一族と、その配下の魔物たちが住まう居城。
僕こと、ヴァーンズ家三男・ルクスは、父であり一族の当主・ダンテの座る玉座の前に膝まづいている。
当主の横には母・ドナティが静かに立っている。そして僕の背後には、一族配下の魔物たち——その中でも特に幹部級の実力者たち――が
視線を交わす父と僕以外、一様に目を伏しているが、皆が僕の一挙手一投足に注目しているであろうことは気配で伝わった。
「今日呼んだのは他でもない。
「はっ、ありがたき幸せ」
「フン―—」
父は小さく鼻を鳴らした。
「貴様も知っての通り、魔族は『一定のレベルに達する』か『
「……面目次第もございません」
僕は深々と
「魔導学院では、座学の成績“は”優秀であったと聞いている。――しかしだ。配下のモンスターたちを
「は……」
ますます低くなった僕の頭は、すでに固い石の床に付きそうなほどだ。
「よって、今の貴様にはまったく期待をしておらん。せいぜい人間どもに殺されぬよう、用心することだ。戦うことが怖ろしければ、早々にダンジョンを手放し、魔王城の図書館司書にでもなることだ。――ドナティ、ルクスをダンジョンに案内してやれ」
「はい――」
母が静かな声で応えると、僕に向かって「来なさい」と短く告げて謁見の間を出ていく。僕は父に礼をすると、慌ててその後を追った。
背中に、配下の魔物たちの侮蔑の視線を感じながら――。
◆◆◆
「……母上、申し訳ありませんでした」
誰もいない廊下の先で母に追いつくと、僕は頭を下げた。
今日、父から厳しい言葉を聞くであろうことは、あらかじめ予想が付いていた。単に僕が不甲斐ないからなので、それ自体は致し方ないことだと思っている。
しかし、優しい母にまで残念な思いをさせていないか、それがずっと不安だった。そのため、自然と口をついて出た
ガバッ! ナデナデ。
母は不意に僕の頭を胸に抱くと、優しく撫で始めた。
「ちょっ! 母上っ――!」
豊満な胸に埋もれて危うく窒息するかと思いながら顔を上げると、母がさきほどとは打って変わった柔和な表情で僕を見た。
「もう~、この子ったら気を使い過ぎるんだから。いいのよ。パパはね、配下の魔物たちの手前、厳しい態度を取っていただけよ。『魔王の右腕』と呼ばれる魔族の名門・ヴァーンズ侯爵家の当主が、いくら自分の息子相手だからって、甘い態度で送り出すわけにいかないじゃない?」
「そうは言っても、僕に“強さ”がないのは事実ですし……。兄上や姉上、それに弟の『
母は「も~」と頬を膨らませると、再び「これでもか」と僕の顔を胸にうずめてくる。く、苦しい……。
「あの人はね、『今のルクスには期待できない』って言ったのよ。『これから強くなればいい』ってこと。後の言葉は『人間に殺されないように用心しろよ』とか『本当に無理そうならダンジョンなんてやめて帰ってこい、司書の仕事の斡旋くらいしてやるぞ~』って、文字通り受け取ればよかったのよ」
そ、そうなのかな……。父は魔王様の側近として、普段はずっと魔王城に出向いているため、めったに顔を合わせることがない。幼い頃からそれはずっとだ。なので、僕はいまだに、父がどういう人物なのか掴みかねている。
「それにしても、ちょっと意地悪な言い方だったわよね。あとで特大ヤットコ(ペンチ)でお尻の肉がちぎれるまで挟んで、お仕置きしてやるんだから~」
うん、違った。僕は母という人物もまた、掴みかねていたみたいだ。そして、奥さんに尻肉をちぎられてていいのか、パパン。
僕がフッと小さく吹き出すと、それを見た母も微笑んで、ようやく僕を解放した。
「さあ、それじゃあ早速、あなたがこれから治めるダンジョンに向かいましょう!」
そう言って、母は僕の手を取った。
◆現在のステータス
名前:ルクス・ヴァーンズ
性別/年齢:男/18歳
職業:なし
レベル:5
HP:15
MP:20
BP:8
装備:布の服
スキル:なし
★★★ 次回 ★★★
『第3話 幼なじみとの再会』、お楽しみに!
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