俺の先祖は魔法使いだったようだ

青羽真

俺の先祖は魔法使いだったらしい

プロローグ

 我々の先祖が書いた書物を読んだことはあるだろうか?日本だと徒然草や枕草子が有名だろう。海外の例も挙げるなら、旧約聖書や新約聖書といった経典を読んだ事がある人もいるかもしれない。

 その中には超常現象がまるで「史実」かのように登場する物もある。左遷された人物の恨みが祟りとして降りかかった等の記述がそれに当てはまる。そういった記述を読んだ時、我々は呆れに似たものを覚える。科学技術が進んでいないから仕方がないとはいえ、「昔の人は何を言っているのだか」と思うだろう。

 しかし、それら超常現象は本当に先祖の妄想や勘違いだったのだろうか?どうして我々は科学を信奉し、超常存在を排除しているのだろうか?

 かつて、欧米では魔女裁判という物があった。これは超常存在を迫害し、それらの歴史を絶つ行為の典型例と言えるだろう。もっとも、これは関係ない人々も巻き込む大きな騒動となってしまったが。


 ともかく、我々は超常存在を迫害してきたのだ。この歴史は未知なる存在への恐怖感や嫌悪感が引き起こした物だろうか?それとも、誰かが意図的にそう仕向けたのだろうか?その答えを知る者はいない……。



 日本全国で都市化が進み、計画的に設計された街並みが地図を埋めてゆく。ここ高六丘たかろくおか町も10年前は瓦葺かわらぶきの家が大半を占めていたが、今やそのほとんどが新興住宅地に置き換わっている。

 ほとんど・・・・という事は逆に言うと、一部では昔ながらの家も残っているという事だ。高六丘町は名前の通り六つの丘が存在しているのだが、その中でも一ノ丘と二ノ丘の間に存在する朝水あさみず区は特に昔ながらの街並みが保存されている。

 朝水区は湧水わきみずが湧き出す地区である。一ノ丘と二ノ丘に降った水が濾過されながら浸透し、澄んだ地下水が出来る。それが地上に噴き出すのが朝水区という訳だ。

 湧水と共に生活を送ってきた昔ながらの街並みはちょっとした観光地となっており、都市化の波に飲み込まれなかったのだ。


 俺の爺ちゃん「あかつき 和太琉わたる」が住む、ここ「あかつき家」はそんな朝水区の中にある家の一つである。一応、電気・ガス・水道は通っているが、家の外壁は木造であり気密性に欠けており、冬は火燵こたつから出られない。逆に夏は風通しが良くクーラーや扇風機が無くても快適に過ごす事が出来る。しかも、中庭には湧水が湧いており、天然のプールで遊ぶことが出来る。

 そんな家には、夏になると家主の孫たちが頻繁に遊びに来る。俺こと「和也かずや」と従妹の「紗也さや」は高校一年生。俺の姉「慧子けいこ」は大学一年生である。


 三人の仲は凄く良く、今まで喧嘩したことなど片手で数えられる位しかない。だから、この日の暁家から悲鳴と罵声と人が叩かれた音が聞こえてきたのは珍しい事なのだ。




 俺が縁側でパプリカを食べていた時のことだ。


「かずにぃ! かず兄! 来てー!」


 と、家の中から聞こえてきた。紗也の声だ。彼女はついさっき、お風呂に向かったところである。脱衣所で何か問題が起こったという事だろう。

 虫でも出たのだろうか?俺は急いで風呂場に向かった。


「どうした! 何があった?」


 脱衣所の扉を開け、中を除く。

 すると風呂場の扉が開き、湯気の中から紗也が現れた。


「成功したの! 見てて! 『アクアクリエイト』!」

 器状にした手の平に向かってそう唱えた紗也。すると、さっきまでは空だった手の平の中に、どこからともなく水が現れた。

 そんな奇跡ともいえる現象が目の前で起こっている。本当ならじっくり観察したいところだが、俺の視線は別の場所に固定されていた。


「ちょっと、かず兄? ちゃんと見てた?!」


「あ、ああ。もちろんじっくりと見させてもらったぞ……」


「本当に?」


「ああ……」


 一応対話をしている俺だが、意識は全く別の場所にあった。

 紗也の家族と俺の家族は隣どうしであり、俺達は兄妹のように育ってきた。だが、戸籍上の関係性はあくまで従妹。四親等離れた彼女を異性として見ても誰も咎めないだろう。

 だから、紗也の一糸まとわぬ姿に目を奪われてしまった俺は決して悪くはないだろう。最後に紗也と一緒にお風呂に入ったのは小学校三年生の頃だっただろうか。その頃とは全く違う、魅惑的な曲線美を湛えた彼女の姿は俺の記憶に鮮明に焼き付いた。


「かず兄? どうかした?」


「ごちそうさまです!」


「……? ……!! いやあぁーー! 変態! スケベ! かず兄のバカァーー!」


 次の瞬間、頬に激痛が走った。紗也の本気のビンタが炸裂したのだ。


 もう一度大事なことだから言っておこう。暁家から悲鳴と罵声と人が叩かれた音が聞こえてきたのは珍しい事だ。決して、和也はラッキースケベを引き寄せる体質という訳ではない。

 あまりの衝撃を受け、意識が飛びそうになりながら、俺は今までの事を振り返っていた。事の発端は一学期の中間考査が終わった日だった。



「おーい、三人とも居るか?」

 爺ちゃんが中庭に向かって声をかけた。


「「「いるよー」」」

 俺達三人の孫は元気よく返事をした。俺と紗也は試験が終わった解放感に浸りながら泉に足を浸けてスイカをかじっている。姉さんはというと、縁側に座り、ノートパソコンで何やら作業をしていた。

 そんな俺達に向かって和太琉は話をする。


「知っての通り、朝水区の外は開発が進んでいるだろう?」


「だな」「そうね」「そうね」


「その一環で、うちの蔵を近いうちに取り壊してほしいと市長さんに言われてね」


「へえ」「ふーん」「そうなんだ」


「せっかくの機会だし、蔵の片付けをしてほしいんだ」


「「「は?」」」


「取り敢えず、収納されている物を蔵から運び出してほしい。よろしく頼むぞ」


「ええ……」「そんな……」「嘘……でしょ……」


 俺達は絶望の表情を浮かべていた。



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