第一章

第一話 勝利の味は少々苦い…?

わたし奴隷どれいになるか、それともわたしにそのパンをわたすか、いの回答かいとうふたつにひとつよ

いまここでえらびなさい」


昼食ちゅうしょくである


仕方しかたないな、このパンはおまえのも…」

「よくったわね

これであなたは今日きょうかられて奴隷どれいよ」


これはぐったりとソファーによこたわる土切つちきり美咲みさき呆然ぼうぜんくす鈴木すずき蒼真そうま会話かいわである

会話かいわうにはすこ一方的いっぽうてきではあるが…


ことはじまりは数十分すうじっぷんまえさかのぼ



授業じゅぎょうわりのチャイムが

それは激闘げきとうはじまりのゴングである


東ヶ丘ひがしがおか学園がくえん名物めいぶつげパン


あるものいのちし、あるもの知恵ちえかぎりをくし

つかったものすべてを

のがしたもの運動場うんどうじょうまで砂集すなあつめにいそしむという都市伝説としでんせつんだ名物料理めいぶつりょうりである


冗談じょうだんはさて


これをのがせば今日きょう昼食ちゅうしょく

勿論もちろんほかものべるなどナンセンスのきわみでしかない


学生食堂がくせいしょくどううごめひしめく有象無象共うぞうむぞうども鈴木すずき蒼真そうまげパンにかってばす


最後さいごのパン!」


勝利しょうりもといげパンをてんかかげ、会計かいけいませると

教室きょうしつもどる…

はずであったのだが、そこで一人ひとり少女しょうじょはい

自分じぶんよりすこひくいだろうか…


くろ長髪ちょうはつをした少女しょうじょはこちらを一瞥いちべつすると学食がくしょくをあとにした


「そんなにあのことになるかい?」

そうこえけたのは売店ばいてんのおばちゃんであった

「はい」

「だっはっは!

正直しょうじきなのはいいことだけど、それはちょいと犯罪者はんざいしゃ思考回路しこうかいろのそれにしかえないよ」

「あなたがさき提案ていあんしたんでしょうが…」

はなしながらも売店ばいてんのおばちゃんは会計かいけいゆるめない

「ま

もし興味きょうみがあるならついてったらいいじゃないかい

もしかしたら面白おもしろことになるかもしれないしね」

「は、はぁ…」


ここで面白おもしろいこととは鈴木すずき通報つうほうされるということだろうか

いまやろうとしていることはストーカーの所業しょぎょうなので通報つうほうされても文句もんくえないが

それを面白おもしろこと形容けいようするのはいささ無慈悲むじひであるようにもおもえるが


その思考しこう辿たどまえ鈴木すずき興味きょうみ先程さきほど少女しょうじょもどされる


そこで鈴木すずき犯罪者はんざいしゃ才覚さいかく片鱗へんりんせた


あとをつけてみるか…」


学食がくしょくけて職員室しょくいんしつほうかい、そこもとおぎる


少女しょうじょはいったさき保健室ほけんしつであった


ピシャリとめられてしまった保健室ほけんしつとびらひらこうかひらくまいか

まよったのは一瞬いっしゅんだった


鈴木すずき一気いっきとびらける


そしてすぐさまはいったのは

はらかせ、ぐったりとよこたわる土切つちきり美咲みさき姿すがただった



しいならはじめからしいとえばいいのに…」


結局けっきょくげパンは半分はんぶんにしてけた

どちらも空腹くうふくたされず、どちらもすくわれない方法ほうほう


何故なぜわたしはあなたにものわなければならないのかしら?

そんなはじさらすならいっそんだほうがマシよ」

「おぅおぅひどいようだ

それじゃあぬもきるもご勝手かってに」


初対面しょたいめんというのに大層たいそういようである

これでも土切つちきりけっして悪気わるぎはないのだというのだから

それは最早もはや本人ほんにん特技とくぎえよう


ただし、ここでわらないのが土切つちきりである


主人しゅじんわたしにそんなくちをきくとは

仕置しおき必要ひつようなようね

…ということ両方共りょうほうともわたしいただくわ」

「ということでじゃないわ!

おれ餓死がしさせるか!?」


土切つちきりばしたをすんでのところかわし、すぐさまのこったげパンをくちほう


「その所業しょぎょう万死ばんしあたいするわよ」

ずはそのくちわるさをあがなってもらおうか?」

「…、よくえる奴隷どれいだこと…

まぁいいわ

今日きょうゆるしてあげるけど、つぎいわ」

「はいはい、ありがたきしあわせ」



これで今日きょう昼食ちゅうしょくわったわけだが

パン半分はんぶんだけというのはいささ心許こころもとない


保健室ほけんしつをあとにした鈴木すずきふたた売店ばいてんもどることにした


昼食ちゅうしょくげパン以外いがいくちにするなどナンセンスとかだれかがのたまっていたような記憶きおくもあったが

栄養えいようバランスをかんがえると

げパンだけということ常識外じょうしきはずれとうしかない


くるまぎれの論理ろんり自分じぶん納得なっとくさせ

しかしもうものくちれる時間じかんすらこと確認かくにんすると

フルーツ牛乳ぎゅうにゅう自動販売機じどうはんばいき購入こうにゅうする


それをろうと体勢たいせいかたむけると、背中せなかから予想外よそうがい衝撃しょうげきくわわる


「いてっ!」


鈴木すずき脳天のうてんはそのまままえ自動販売機じどうはんばいき直撃ちょくげきした


「す…すまんすまん…」


あたまかかえながらうしろをかえるとリーゼントが特徴的とくちょうてき少年しょうねん苦笑にがわらいをしながらあたまいていた

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