第443話 異世界ライフはクソ喰らえ!

 ルイジアナはチーズがあれば、里で暮らすエルフの食事が良くなると考えた。美味しいし。

 そこで、昼食のオーツ麦のガレットを食べた後、チーズについてルディに質問した。


「ルー君、質問です」

「なーに?」

「このチーズというのは、何処で買えますか?」

「今はどこ行っても手に入らねーです」


 ルディはルイジアナの質問に答えると、腕を組んで困った表情を浮かべた。

 ミルクなら馬でも、牛でも、人間のオッパイからでも、哺乳類から絞れば手に入る。

 だが、ミルクから乳製品を作るとなると、まだこの惑星では難しかった。


 まず、畜産業があまり発達していない。

 飼育されている家畜の殆どが馬であり、他の家畜は飼育されていなかった。これは、交通の主流が馬車なのが理由。

 それと、馬乳は成分の問題で、馬乳酒は作れるけどチーズは作れない。

 牛は存在するけど、力仕事などの労働力に使われている。村に一か二頭飼われているぐらいで、乳製品にして販売するだけの数が足りていなかった。


 次に、ミルクから乳製品に加工する技術がない。

 この惑星の人類は1200年前に不時着して、800年前に一度文明が滅んでいる。少しだけ技術は残っているけど、宇宙の文明を知っているルディからみれば、この惑星の文明はどこかチグハグな進化を遂げていた。

 それに、宇宙の畜産はオートメーションで機械化されている。この惑星に不時着した軍人に畜産業ができるとは思えない。おそらく不時着した当時は大変だっただろう。


 最後にルディが特に気になっていたのは、食文化の衰退だった。

 乳製品の製造に発酵は欠かせない。だが、山羊、羊が惑星に存在せず、畜産業が未発達だったので壊滅的だった。




「どーしようかなーです……」


 農業だけではタンパク質が不足する。それを補うのに乳製品の存在が重要なのはルディも理解していた。


「なければ作ればいいじゃないか。お前なら作れるだろ?」


 ルディが考えていると、ナオミが口を開いた。


「別に家で食べるだけなら、何十年分もあるから作る必要ねーです。作るとしたら、産業まで発展させねーと意味ねーですよ」

「あのー。それって里のエルフで何とかできませんか?」

「フォレストバードは鳥だから乳出ねーですし、畜産業は森じゃできねーです」


 ルディの返答にルイジアナが落ち込んだ。


「一応、ムフロンからでも作れそうですけど、あっちは人手が足りねーです。ルイちゃんは森のエルフの人たちのために、チーズが欲しいんですよね?」

「はい」

「それだと運搬の距離が遠すぎるです」


 輸送機を使えば一日で運べるけど、ルディは他人のために使うつもりはない。ルイジアナもその事は理解しているので、何も言わなかった。


「まあ、僕も乳製品の必要性は感じているです。後で何か考えとくですよ」

「よろしくお願いします」


 ルディが言うと、ルイジアナは頭を下げた。




 後片付けはドローンに任せて、ルディたちは再び森の中を移動していた。

 そして、二時間ほど歩いて、エルフの道に辿り着く。


「後は道沿いに進めば、ダの集落に着くですよ」


 ルディの話にルイジアナが安堵する。

 森で暮らしているエルフといえども、突然場所の分からぬ森の中では迷子になる。彼女は無事にエルフの道に到着できて、一安心していた。


 15分ほど休憩してから、エルフの道を進む。

 先程歩いていた森の中と比べて、エルフの道は歩くのが楽だった。


「前回来た時はマソの怪物のせいでおっかねー森と思ったけど、化け物だらけの魔の森と比べて、ここは良い森ですね」


 エルフの道を歩きながらルディが言うと、ルイジアナは自分の事のように嬉しく笑った。


「雪の大森林は冬が厳しいので、魔族がそれほど生息してません。気をつけるのは熊とか猪ぐらいです」

「ゴブリンとかほぼ全裸です。アイツ等を見ていると、開放的かも知れねーけど、モラルについて小一時間説教してーです」


 ルディの冗談に、ルイジアナとナオミが笑った。




 ルディたちはエルフの道を進み、夕暮れ近くになってドローンが来ると、野営の準備を始めた。


 ルディがテントを張り、ソラリスは少し離れた場所でトイレを設置する。

 夕食は焼肉と旬野菜の焼きびたし。

 焼きびたしは、茄子、カボチャ、ミニトマト、パプリカ、おくらを焼いてから、酸味のある醤油出汁に一晩浸したのを持ってきた。


「美味しいです」


 語彙力のないルイジアナが、焼きびたしのおくらを食べて絶賛する。

 ナオミは焼肉を食べながら、ビールを美味しそうに飲んでいた。


「しかし、お前と出かけると、旅をしている気分にならぬな」


 ナオミが焼きびたしの茄子を食べ、満足そうな笑みを浮かべながら肩を竦めた。


「スローライフは文明がないと楽しめねーですよ。そのためには僕、全力です!」


 異世界ライフなんてクソ喰らえ!

 不便な世界で苦労するぐらいなら、宇宙から何でも持ち込んで楽してやる。

 ルディは自分で作った焼きびたしのパプリカを食べて、にんまりと笑った。

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