第402話 宗教侵略

 ルディがアルセニオたちと会ってから三日後。

 ルディはレインズを連れてハルビニア国の王城へ行き、クリス国王と財務大臣のバシュー公爵に会っていた。

 レインズを連れて行ったのは、ルディの身分が平民だったから。

 さすがに平民の子供が一人で国王に会うのは難しく、レインズは保護者的な立場で連れてった。

 そして、笑顔のクリス国王と不機嫌顔のバシュー公爵と軽い挨拶を交わしてから、本題の新通貨について説明したところで……。


「そんな事、出来るかぁーー‼」


 ハルビニアの王城にバシュー公爵の怒声が響き渡った。




 老人とは思えない大声に、ルディが目をパチクリとしばたたかせた。


「ご老人、お元気ですね」

「小僧! 人を年寄り扱いするんじゃない!」


 ルディが声を掛けるとバシュー公爵が怒鳴り返し、この場に居るレインズとクリス国王が笑いを堪える。


「貴様はルーン教に喧嘩を売るつもりか‼」

「でも僕が言っている事、今すぐじゃねーけど、数年後には問題として浮上するですよ?」

「ぐぬぬ……」


 ルディの指摘にバシュー公爵が苦虫を噛みしめる。

 経済に詳しいバシュー公爵も、ルディの言っている問題点は理解していた。


「たから儂は、カッサンドルフの侵略に反対したんじゃ!」

「それは攻略する前に言いやがれです。今更言ったところで、後のお祭りわっしょいです!」

「まあ、二人とも落ち着け」


 ルディとバシュー公爵が言い争いを始めそうになったので、クリス国王が止めに入った。




「ルディ。確かにお主の考えは間違っていないと私も思う」


 クリス国王がそう言うと、ルディがうんうんと頷く。


「だが、バシュー卿の言っている事も正しい」


 今度はバシュー公爵が当然とばかりに頷いた。


「国教にはしていないが、我が国にもルーン教の信者は数多く居る。そこにルーン教が定めた通貨以外を普及したら、ルーン教が敵に回る」

「陛下はルーン教の信者なのですか?」

「この国の貴族と王族は全員、洗礼を受けているぞ」


 クリス国王の返答に、ルディの頭の中で嫌な予感が湧いた。


「レインズさんもですか?」

「もちろん子供の頃に入信している。そうしないとルーン教徒からの抗議があるからな」

「…………」

「ローランド金貨、私が子供の頃は確かルーン金貨と言ったな……」

「待ちやがれです‼」


 それを聞いた途端、ルディがクリス国王の話を途中で止めた。


「ルディ、さすがに今のは失礼だぞ」


 クリス国王の話を遮るのは無礼にあたる。

 レインズが叱るけど、ルディはそれどころではなかった。


「ローランド金貨は昔、ルーン金貨と言ったですか?」

「あ? ああ、その通りだ。バシュー卿、あれは何年ぐらい前だったかな?」

「そうですな。十年以上前、確か……ルーン教がローランドに本山を移動させた時期と同じだったか?」

「あちゃーーです」


 バシュー公爵の話を聞いてルディが頭を抱えた。




「さっきから何を困っているのだ?」


 クリス国王が質問すると、ルディが深くため息を吐いてから理由を説明した。


「陛下……ハルビニア、十年以上前からローランドの宗教侵略、受けてやがるですよ……バイバルス、何てことしやがったですか……」

「宗教侵略? なんだそれは?」

「言葉通り、宗教を使った侵略です。最初は平民に宗教を広めて徐々に信者を増やすです。そして信者が増えたら、国の支配階層にも信者を増やし始めるですよ。そうするとどーなると思うですか?」

「……まさか!?」


 クリス国王だけでなく、全員がルディの話を理解して顔を青ざめた。


「そのまさかです。宗教が広まった国は総本山のある国に侵略できなくなるです。何故なら、信じている神に攻撃するのと同じだからです」

「…………」

「だけど逆に宗教の総本山のある国は、たった一言『破門』と言うだけで、聖戦という名目で侵略できるです」

「しかし、今回の戦いでは何も起きなかったぞ」


 クリス国王の反論に、ルディが頭を左右に振る。


「そりゃそーです。聖戦は国家総動員になるですよ。敵の国を亡ぼす覚悟がねーと、バイバルスも迂闊に発動だせねーです」

「だが、本当にそんな事ができるのか?」


 今度はバシュー公爵が質問してきた。


「ローランド金貨、元はルーン金貨と言っていたです。だけど、総本山が移動してローランド金貨に名前変えたです。もうその時点で、バイバルスはルーン教を支配下に置いていたですよ」

「……うーむ」


 ルディとは敵対しているバシュー公爵も、この件に関しては危機感を感じた。


「貨幣の名前変えた理由は何でしょーね? 宗教色を隠したかった? バイバルスがルーン教を支配した時に、ルーン教の権威を落とすために名前を変えた? さすがにそこまでは分からねーです」

「問題は我が国のルーン教をどうするかが先だ。ルディ、何か案はないか?」


 ルディが考えていると、クリス国王から解決方法を問われた。


「んー? そーですね……宗教絡むと新通貨は無理です。だから、こっちでも同じ金貨を作るです」


 せっかく考えた新通貨のデザインが全て無駄になった。

 その事を考え、ルディがため息を吐いた。


「金貨は勝手に作れん。ルーン教では名目上、金貨に祈りを捧げている。勝手に作ったら破門の口実にされるぞ!」


 ルディの提案をバシュー公爵が直ぐに却下してきた。


「なるほどです。だったら根本から変える必要あるですね」

「根本じゃと?」


 ルディの言う根本が何か分からず、全員が眉をひそめた。


「そーです。陛下、ハルビニアでルーン教の新しい宗派を作るです」

「……は?」


 常識の外れたルディの提案に、クリス国王が口をあんぐりと開けた。

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