第396話 和睦の提案
『ルディ君が直接電話に出るのは……初めてじゃないかな?』
カールの問いかけにルディが頷く。
『何時もは暇しているししょーにお願いしてるですけど、今、ししょーはバベルと戦ってぶっ倒れているです』
『おい、奈落は無事なのか?』
ルディの報告にカールが心配して質問する。
『チョット無茶しやがったですけど……生きてるから大丈夫ですよ』
ルディはそう言うけど、実際はマナ回復薬の摂取によって脳出血した可能性があるため、ナオミは夜間のうちに彼女の家に緊急搬送されていた。
『ほう、君がルディ君か。息子夫婦が世話になったな』
『カールさんのお義父さんですか? 初めましてです』
ロイメル将軍はルディの見た目から孫を見るかの様な表情を浮かべて頭を下げる。
その丁寧なお礼にルディも頭を下げた。
「それでカッサンドルフの状況はどんな感じなのかな?」
そろそろ本題に入ろうとラインハルト国王に促されて、ルディは昨日までの出来事を全員に説明した。
「手違いで10万人の敵兵士を殺したか……」
ルディの話にラインハルト国王が唸る。
それは彼だけでなく、ロイメル将軍とカールも同じだった。
『なんかその言い方だと、悪魔になった気分です』
『まあ、ローランドの兵士からしてみれば、実際に悪魔だろうな』
カールのツッコミに、ルディがむくれて頬を膨らませた。
「私が思うに、バイバルスは想像以上の敗戦で後がない」
ラインハルト国王がそう言うと、カールとロイメル将軍が頷いた。
『どーいう事ですか?』
その理由が分からずルディが質問すると、ラインハルト国王が説明を始めた。
「ローランド国は奴隷国家だ。国民の8割が奴隷身分で、市民権を持っていない」
『それは僕も学んだです。ローランド国の人間の大半は、公有奴隷で国の財産。だから、奴隷を殺したら国有財産に損害を与えたで罪になる。ヘンテコで面白い政治です』
ルディの頭の中では、平等で公正な社会を目指す社会主義に似ていると考えていた。
「うむ。バイバルスは奴隷出身で、奴隷の生活を保障している。それ故、奴隷からの支持率が高い。だが、今回の敗戦で奴隷からも不満が出るだろう」
『指導者の支持率低下は、所謂国家に対する不満です』
「その通りだ。今年のローランドは奴隷の不満を抑えるのに手一杯だろう。しかも、そろそろ農耕期が終わる。農耕地帯のカッサンドルフを奪われたローランドは急いで食料の確保をしなければ、秋になったら苦しむはずだ」
『つまり、戦争どころじゃねーって事ですね』
「正解だ」
ルディの答えに、ラインハルトが頷いた。
「という事で、こちらは敵の状況を見て和睦を結ぶ事にする」
ラインハルト国王の提案に全員が頷いた。
「だが問題がある」
『ベルードだな』
今も征服されている街の名前をカールが口にする。
「そうだ。ベルードの街が奪われたままでは、和睦の条件にベルードを寄越せと言われるだろう」
『そうなると、奪回する必要がありますな』
ロイメル将軍がそう言うと、ラインハルト国王が頭を左右に振った。
「いや、もっとシンプルにいこう。ルディ君」
『なーに?』
「ハルビニアはまだ戦争を続ける気かね?」
『どーですかねー? 既に十分な成果は得ているです。さすがに陛下ももうやらねーと思うけど、貴族の考えまでは知らぬですよ。でも、これ以上戦う言うなら、僕は協力しねーです』
「反戦派を何とかした次は好戦派を押さえるか。クリス国王も大変だな」
『そのために陛下、戦時中なのに国内で経済戦争ぶちかましやがったです。おかげで大変でした』
クリス国王が仕掛けた経済戦争は表に出始めており、借金までして物を売っていたハルビニア南部の貴族は損害が出ていた。
「ふむ。何をやったのか興味はあるけど、今は置いておこう。ルディ君。和睦の交渉にハルビニアとの和睦も含めたい。クリス国王に打診してもらえないか?」
今もまだ戦争中な状況のローランド国とハルビニア国。
その二つの国が和睦を結ぶ前に、レイングラードが盟主となって有利な条件で和睦を結ぶ。
これがラインハルト国王の考えだった。
『なるほどです。それなら、ローランドも嫌と言えねーですね』
ルディはラインハルト国王の考えを理解して、これが最適な落とし所だと同意した。
「さて、ルディ君」
『まだ、何かあるですか?』
「あるんだな。君から借りているスマートフォンをもう少しだけ貸してほしい」
ラインハルト国王のお願いに、ルディが顔をしかめる。
『何に使うか次第です』
「ローランドとは3年の和睦を結ぶ予定だ。その間に我が国は周辺諸国を纏めて、連合国家を建国する」
『……は?』
『……マジ?』
ラインハルト国王の話を始めて知った、ロイメル将軍とカールが驚く。
「もし再びローランドが攻めて来たら、今のままでは太刀打ちできない。そこで、今回の勝利をネタに周辺諸国を全て纏める」
『……3年で?』
「3年でだ」
カールの問いにラインハルト国王が頷くと、ロイメル将軍とカールが頭を抱えた。
『また兄貴の無茶ぶりが始まった……』
『しかも、それが間違ってないのが腹立たしい』
頭を抱える二人にラインハルト国王がほくそ笑む。
『つまり、戦争に使うですか?』
「できれば会談だけで何とかしたいところだが、絶対に合意しないだろう国が1つある。そこだけは戦う必要があるだろう」
『うーん』
ラインハルト国王から説明されても、ルディはスマートフォンを戦争で使われるのは不満だった。
『ルディ君。兄貴が戦争する国は腐敗していて、国民に対する税金が高いんだ』
カールはルディが嫌いな事が何かを知っていて、それをネタに交渉。そして、見事にハマった。
『それなら許可するです』
ルディが手のひらを返して許可を出すと、カールとラインハルト国王が安堵した。
「ルディ君、ありがとう」
『税金高けーの、許せねーだけです』
「……うむ。肝に銘じよう」
ルディの話に、ラインハルト国王が冷や汗を掻いて頷いた。
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