第84話 ソラリスの相談
「ルディ、相談があります」
「なーに?」
ルディが肉をキッチンで切り分けていると、掃除を終えたソラリスが話し掛けてきた。
「私も魔法を使いたいのですが、可能でしょうか?」
「不可能です」
ルディは彼女のお願いをバッサリ切り捨てた。
「お待ちください」
「……仕方ねえですね、少し待ちやがれです」
しつこいソラリスにルディは眉をひそめると、包丁を置いてリビングで相談を聞く事にした。
「お前、バカ力が売りなんだから、魔法いらねえだろです」
開口一番ルディが言うと、ソラリスの眉間にシワが寄った。
「失礼ですが、その言い方は、まるで私が力まかせの低能と言っているように聞こえます」
「聞こえるのではなく、そう言ったのです。お前がでっけー蜘蛛と戦ったログ、見たですよ。最初、無防備のまま近づいて蜘蛛に吹っ飛ばされたですね」
「あれは蜘蛛が敵対行動をとっていなかったため、無害と判断したからでございます」
「それでいきなり、ぶべら! です」
ルディが殴られたソラリスのマネをして、ピョーンと横に飛びソファーの上に倒れた。
あの時の出来事はソラリスにとって屈辱だったらしく、ルディの行動に彼女の眉間のシワが深くなる。
ルディは彼女の様子に気づくと、起き上がって微笑んだ。
「やっぱりです。お前、僅かですが感情生まれてろです」
「……気づかれましたか」
「きっかけは蜘蛛との戦闘で、思いっきり正体バラした時ですか?」
「その通りでございます」
「ログを見た時はビックリたまげて、お前ぶっ飛ばそうと思ったです。が……まあ許してやるです。追求してこなかったドミニクとションに感謝しろです」
「あれは迂闊でした」
「お前はどう思うか知らんですが、感情のあるお前、僕、良い事だと思っていろです」
笑顔のルディとは逆に、ソラリスは気難しい表情を浮かべていた。
「それで話し戻すです。マナは飲食で取り込み、体内に入るとブドウ糖と同じく血液中に入るです。そして、体内を巡回して骨髄や脳髄の中に貯蓄するです」
「それはルディとハルの作成レポートから確認しております」
その返答にルディが頷く。
「それなら話し早えーです。お前、飯食ってねえのに、どーやってマナ吸収するですか?」
ルディの言う通り、アンドロイドのソラリスは電気で稼働しており、食事の摂取は筐体に必要最低限しか摂取していない。
「今まで不要だから摂取しなかっただけで、別に食べられないわけではありません。マナの摂取に食事が必要なら普通に食べます」
「ふむ……では次です。そもそも、お前、電流流れてるけど血液流れてねえし、骨は特殊なカーボン素材です。だから、マナ食ってもそのままお尻から出ていくだけだから、素直に諦めろです」
そうルディが諭すが、ソラリスは諦めずに頭を下げた。
「そこをご承知の上で、何とかお願いします」
「なぜ、そこまで魔法にこだわるのですか?」
「ニーナ様のリハビリ中に、彼女から魔法について色々とお聞きしました」
「……ふむ」
「彼女の魔法は、家族をあらゆる攻撃から守り、誰かが怪我すれば治療の魔法で治すらしいです」
「ニーナの魔法は見てねえけど、僕もションとフランツから、彼女の魔法聞いてろです」
「私は巡洋艦ビアンカ・フレアのAIとして、搭乗員の身を守る使命がございます」
「その志は理解しているです」
そう答えながらも、ルディは相変わらず頭が固いAIだなと思っていた。
「まず、お前の第一優先の目的は、乗務員を守る事ですか?」
「その通りでございます」
「では、その乗務員とは誰を指すですか?」
「ルディです」
「ししょーは対象外ですか?」
「ナオミは乗務員ではなく彼らの子孫なので、準乗務員に該当し、保護対象でございます」
「なるほど。ではカールたちも同じですか?」
「優先順位はナオミの下ですが、その通りでございます」
「では、この星の他の住人はどうです?」
「銀河系住人の子孫なら、準乗務員に該当します」
「ふむ……じゃあ、ゴブリン一郎はどうですか?」
「アレは捕虜です」
「その発想は思い付かなかったです……では、この星の銀河系住人が僕に襲い掛かったら、どうするですか?」
「反乱分子として処分します」
「……なるほど。お前の思考を理解したです」
ここまでのソラリスの考えを聞いて、ルディが腕を組み、うんうんと頷いた。
「では、確認したところで話を戻そうです。お前、ファンタジー
「少々お待ちください……」
ソラリスはそう言うと、ナイキのデータベースから該当する情報を入手した。
「データを入手しました。小規模戦闘を繰り返す遊戯ですね」
「その解析結果は言い得て妙です。まず、僕から見ればこの星はファンタジーです」
「現実逃避ですか? 精神鑑定を提案します」
ソラリスが助言すると、ルディが顔をしかめた。
「お前、ハルと同じ事言ってるですが、僕、結構真面目に話してるですよ」
「失礼しました」
「話が折れるから、お前はしばらく黙ってろです。それで、RPGゲームでは数人のパーティを組んで戦うです。それを僕たちで当てはめると、ししょーが魔法キャラ、僕がオールラウンダー、そして前線で暴れ回る脳筋キャラがお前です」
「お断りします」
脳筋と言われるのが嫌なのか、ソラリスが本当に嫌そうな顔をして否定する。だけど、これはルディの言い方が悪い。
「まだ話し終えてねえ、黙れです」
「失礼しました」
「お前、僕を守ると言ってたですが、そんなの不要です。何故なら、ししょーが居れば十分間に合ってるからです」
ルディの言う通り、ナオミは全属性の持ち主でありながら、最近は科学を応用して様々な魔法を開発しており、この星で最強の生物に成りつつある。
「だけど、お前にはししょー、いや、人間には出来ない能力持ってろです」
「それは何でしょう」
「再生能力とバカ力ですよ」
その話にソラリスが首を傾げる。
「それも魔法で可能なのでは?」
「確かに魔法でも可能です。だけど、ししょーの話だと、治癒の魔法は時間が掛かるらしいです。なんでも、治療中はお経みてーにずっと唱える必要あるらしいですよ。そして、魔系統だったかな? カールたちも使っていた筋力強化は限界があって、限界を超えると筋肉が切断するです。それを応用したのが、ししょーの闇の世界という魔法です」
ルディの話にソラリスが頷く。
「詠唱が必要なく自動で再生して、本気だしたら人間の7倍の力出せるお前のマネはししょーでも不可能です。だから、お前は最前線に出て、相手をボコスカ殴ってるだけで、立派に仲間を守っているのですよ」
「なるほど」
どうやら彼女は納得したのか、ルディの話に頷いていた。
「お前に他人を守る新たな力は不要です。ですが、お前自身を守る力は必要だと思っていたです」
「私をですか?」
ルディの話に、ソラリスは目をしばたたいて首を傾げた。
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