第67話 ガンダルギア金貨

「ところでルディ君」

「なーに?」

「実は困ったことがある。金がない」

「……?」


 カールの話にルディが首を傾げた。


「カール、家族居るのに貧乏ですか? だらしねえ大人です」

「いや、違う。それは誤解だ! ニーナを助ける時に荷物を全部置いて来たから、今は一銭も無いんだ」

「ああ、そういう事ですか」


 金がないと聞いて軽蔑したルディだが、ニーナを搬送する時の慌ただしい状況を思い出して、カールの言い訳に納得した。


「ルディ君に頼むのは筋違いだと思うけど、君から奈落に金を貸してもらえるよう頼んでくれないか?」

「それは構わねえですが、ししょー貧乏よ」

「……そうなのか?」


 カールはナオミが冒険者だった頃、彼女が大金を稼いでいたのを知っており、貧乏と聞いて首を傾げた。


「そーなのです。それに、ここでの生活、金の必要がねーです」

「でも、毎晩の食事に使う食料や高価な調味料は、金が掛かるだろう」

「あれは……あぶく銭みてえなもんです」


 ナイキの倉庫には、ルディが開拓惑星に届ける予定だった、食料と資材が積んである。しかも、宇宙の高度な技術により、何百年も劣化せずに保存していた。


「あぶく銭?」

「気にしたら、股間に爆弾埋めて、金玉3個にするですよ」

「それは勘弁してくれ!」


 ルディの冗談をカールが慌てて拒絶する。


「カールはどうでもいいですが、ニーナが貧乏、母親大変です。僕、お金いらねーから、恵んでやるです」


 この1カ月の間、ハルは月や小惑星、他の惑星を調査しており、そこから金、カルメルタザイト、アルミニウムなどが大量にあることを発見していた。

 その宇宙の鉱物を採掘すれば、この惑星の経済が10回ぐらい余裕で崩壊するだけの偽造が可能。

 ルディからしてみれば、カールたちの旅費を恵む程度、どうでも良かった。


「その申し出はありがたいが、本当に良いのか?」

「誰にでも恵む、経済崩壊するからヤダよ。だけど、人間嫌いのししょー、ニーナが好きだから今回は特別です」

「またルディ君には借りができたな。一体どうやって返せばいいのやら……」

「だったら、はざーん覇斬教えろです」

「覇斬?」

「そうです!」


 ルディは頷くと腕を振り回して、一度だけ見たカールの覇斬のモノマネを始めた。


「アレ、かっけーです。僕、使えるなりたいのです。はざーん、はざーん!」

「よし、分かった。ルディ君が使えるようになるか分からないが、教えよう」

「やったーです!」


 カールから教えてもらえると聞いて、ルディは小躍りしていた。




 ルディとカールが1階に戻ると、ドミニクたちが心配そうにカールの様子を伺った。


「そんな不安そうな目で見るな。金なら何とかなった」

「いや、そっちの心配もあるけど……。父さん、本当に爆弾を埋めたのか?」

「ああ、ここに入ってる」


 ドミニクが話し掛けると、カールは自分の心臓部分を叩いて、心配させないように笑い返した。


「みんな、大丈夫よ。ナオミとルディ君がそう簡単に私たちを殺すわけないじゃない」

「確かに俺たち家族を助けてくれたから、信用してるけどさ」


 ニーナの話にションが反論すると、彼女が叱り飛ばした。


「だったら信用しなさい!」


 ニーナに叱られて、三人の息子たちが口を閉じた。


「ルディ君、ドミニクたちがごめんなさいね」

「気にしてねえです」


 ニーナの謝罪にルディが気にしないと頭を左右に振る。そして、カールに渡す金を取りに姿を消した。


「それで、お金はどうなったの?」

「俺が覇斬を教える報酬に、ルディ君がお金を払うことになった」


 フランツの質問にカールが答える。それを聞いてションが首を傾げた。

 彼は他人のマナを感知する事ができる。それ故、ルディの体内にマナが全くない事に気づいていた。


「だけど、ルディにはマナがないぜ」

「え、そうなのか?」


 ションの指摘にカールが目を見張る。

 魔法が苦手な彼は、ナオミの弟子だからルディにもマナがあると勘違いしていた。


「……ルディが覇斬を覚えなかったらどうするんだよ」

「……どうしよう」

「俺たちに振るな」


 頭を抱えるカールにションがツッコミ、その様子をニーナが笑った。


「大丈夫よ。ルディ君なら許してくれるわ」

「母さん、ルディ君を信用してるんだね」


 フランツに話し掛けられてニーナが微笑む。


「当然よ。だって命の恩人だもの、信用しなくてどうするの? それに、ルディ君とナオミは私たち家族以外で、一番信用できる人だと私は思ってるわ」


 ニーナがそう言うと、フランツが頷いた。


「まあ、覇斬を覚えられなくても俺の剣術を教えるから、それで納得してもらおう」


 カールが自分に納得していると、二階からルディが袋を持って戻ってきた。




「この国の通貨、価値知らんです。これだけあれば十分ですか?」


 ルディから袋を受け取ると、カールが予想していたよりもずっしりと重かった。思わず眉をしかめる。

 そして、袋を開けて金貨を一枚を取り出した途端、カールだけでなくニーナですら息を飲んだ。


「……ガンダルギア金貨」


 カールの呟きに、名前だけは知っているけど見るが初めてのドミニクとションが目を見開く。

 フランツだけはガンダルギア金貨の価値を知らず、みんなが驚く様子に首を傾げていた。


 ガンダルギア金貨。

 800年前に魔物の襲撃により滅んだ、古代文明で使用されていた金貨。この惑星で唯一製造発行しているローランド国の金貨と比べて、3倍の価値があった。

 ナイキがエデンの星に来たばかりの頃、ハルは隠れて両替商を調べていた。その時に偶然、両替商がガンダルギア金貨の取引を偶然していた。

 当時はガンダルギア金貨の価値が分からず、ハルはルディが惑星に降りる際、ガンダルギア金貨を渡していた。


「……ルディ君、これはどこで?」

「言えぬです」


 まさか偽造したとは言えず、ルディが黙秘する。


「まあ、言えるはずないな」


 これだけのガンダルギア金貨を持っていると他人に知れたら、襲われる危険がある。

 カールはそう呟くと、袋からガンダルギア金貨を10枚だけ取って、残りをルディに返した。


「それだけで良いですか?」

「これだけあれば、馬車を買って、帰りに少し良い宿屋に泊まりながらでもおつりがくるぜ」

「そうですか」


 ルディが返された袋をポケットにしまった。


「それじゃ、覇斬を教えよう」


 そう言ってカールが立ち上がる。


「その前に、昼飯です」


 やる気だったカールが、ルディの返答に調子を崩してズッコケた。

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