第34話 色々アウトな新居
ソラリスが来てから12日後。
完成したばかりの豪華な2階建ての丸太小屋から少し離れた場所で、ナオミは家を見上げて自分の頬をつねった。
……痛いな。コイツは紛れもなく現実だ。ルディが家を作ると言い出して、見取り図を見せてもらった時はまだ信じられなかった。
いや、違う。ただルディが面白い事をするからつき合っただけで、その後の事なんて何も考えていなかった。
だけど、実際に完成した丸太小屋。いや、もうこれは小屋じゃなくて豪邸に、本当に住んで良いのか不安になった。
「私がしたことなんて、丸太を乾燥しただけだぞ」
建築作業の大半はルディが命じたドローンと複合型重機だった。
ナオミが乾燥した丸太をドローンが1ミリも狂わず寸断してから塗料を塗り、乾燥したら複合型重機が碇石の上に丸太を積み立て始めた。
そして、あっという間に丸太の壁が出来たと思ったら、すぐさまドローンが事前に作成していた屋根を乗せた。
しかも、ドローンとソラリスは複合型重機が壁を作っている間、内装を作成しており、気づいた時には家具も揃えた家が出来ていた。
ナオミは作業の邪魔になるからという理由で、まだ一度も家の中には入っていなかった。
「現実を受け止めて……覚悟を決めるか」
ナオミはゴクリと唾を飲むと、外階段を上って家の扉を開けた。
すると、前に彼女が住んでいたボロ小屋が余裕で2つ入れるほどの、広いリビングが目の前に現れた。
そのリビングには、深緑色の豪華なソファ、その奥にも豪華な6人用の木製食卓テーブル。部屋の隅には立派な暖炉があり、内装を見ただけでナオミが立ち眩んだ。
「マジかぁ……これ、実家の別荘以上に豪華だぞ……」
若いころのナオミは貴族だったので、落ちぶれる前までは別荘を持っていた。だが、目の前のリビングはそれ以上に豪華だと思う。
リビングと隣接しているキッチンを覗けば、ルディの要望で広いシステムキッチンがあった。
「…………」
ナオミの感想に言葉はない。ただ、あり得ないと無言で視線を逸らした。
リビングを通り過ぎて水回りを見れば、豪華な風呂場に、汲み取り式の洋式水洗トイレがあった。
風呂場はシャワーの他にも5,6人ぐらい入れる浴槽があった。この浴槽はナオミが持っているスマートフォンで、何時でもお湯が貯められる。
それと、1階のトイレの他に、普段使用する自動洗浄水洗トイレが2階にあった。これはナオミの我が儘で作らせたから忘れてはいけない。
1階の客室のドアを開けるとダブルベッドと机があり、机の上にはナオミが見た事のない筆記用具が備わっていた。
机に近づいてペンを取り、インク瓶を探すがどこにも見当たらない。
もしかしてと思い紙にペンを走らせると、インクを付けていないのに文字が書けた。
紙もまずいが、このペンはもっとヤバイ……。ペンを戻してベッドに腰掛ける。すると、ベッドのスプリングでナオミの体がふわっと浮かんだ。
ベッドもアウト。ナオミは立ち上がると、無言で客室を出た。
その後も作業部屋を覗けば、広さと便利さに驚き、書斎を見て機能美に驚き、自分の部屋に入った時には、彼女の目からハイライトが消えていた。
ちなみに、彼女の自室にはベッドと机の他にも、4人用のソファーとテーブル、それに加えて小さなクローゼットがあった。
クローゼットがあっても、入れる服がないぞ……。何もないクローゼットにため息を吐いていると、彼女のスマートフォンが鳴った。
画面を見れば相手はルディからで、すぐに電話にでる。
「どうした」
『ししょーどこですかー?』
「自室に居る」
『今、家に着いたです。ししょーの服作るから、リビング来いですよ』
ナオミが窓ガラスから外を見れば、いつの間にか揚陸艇が広場に着地していた。
ルディとソラリスは、宇宙船ビアンカ・フレアの前に建てたベースキャンプの撤収作業をしていて、帰ってきたところだった。
「……スマン、聞き取れなかった。もう一度言ってくれ」
『ソラリスがししょーの服作れです。だけど好み知らぬから聞きてぇです』
服? もしかして私の服? チョット何言ってるのか分からない。
『……ししょー?』
「……分かった今降りる」
『待ってろです』
電話が切れたスマートフォンをじっと見つめる。
「酒飲んで全部忘れたい」
ナオミは呟いてため息を吐くと、リビングへと向かった。
ナオミがリビングに行くと、ルディがソファーに座って待っていた。
「コーヒーをどうぞ」
「ああ、ありがとう」
ナオミがソファーに座ったタイミングで、ソラリスがルディと彼女にコーヒーを渡すと自分もルディの隣に座る。
ナオミはコーヒーを飲んで一服すると、話を切り出した。
「して、私の服を作ると言ったな」
「新居祝いです」
ルディの返答にナオミが顔をしかめた。
「お前は何時も唐突だな」
「唐突ちゃうよ、ずっと思っていたのです。ししょーって今、服何着持ってろですか?」
「……2着」
「毎日洗って替えてろですか?」
「……週1で」
顔を背けて答えたナオミに、今度はルディが顔をしかめた。
「1週間着っぱなし汚ねぇです。週末の方ちょっと臭うですよ、女としてそれはどうかと思えです」
「……臭う」
臭いと言われて少しショックを受ける。
「ソラリス、お前もそう思えですよね?」
「経済的でございます」
ルディに話を振られたソラリスが即答。
「お前に聞いたのがバカでした」
その返答にルディがため息を吐いた。
「それで、どんな服を作るつもりだ?」
ナオミの質問に、ルディが得意げな顔になって話し始めた。
「色々考えたのです。最初、この星の一般的な服考えたです。だけど、なんとなーく、ししょーに似合わないから却下したです」
「いや、そこは却下しないでくれ」
ナオミが右手を左右に振って話にツッコむと、ルディが何を言っているんだと驚いた顔をした。
「だってししょー奈落の魔女、二つ名あるですよ。それなのに普通の格好…舐められろです」
「今まで顔が半分火傷してたから、顔を見ただけで皆から恐れられてたよ」
「でも今のししょー、普通な顔です」
「……まあな」
「だったら、顔の代わりに服で威嚇しろです」
そこまで言うと、ルディはプリントアウトしたファッション誌をナオミに渡した。
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