第8話 見つけたこと


 夕食は各自で用意して部屋で取ることになった。


ヤーガスア側の予想より早く俺たちが到着したせいで、厨房の準備が出来ていないらしい。


何のための先触れだったのかな。


まあいいさ。


 領主館は三階建てで、俺たちのような他国からの要人は三階に集められている。


他の階にある客室よりも倍以上の広さがあり、従者や護衛の部屋と繋がっているので、要人一人に付き三部屋以上が用意されていた。


「じゃ、始めるよ」


俺は基本的にはクオ兄の料理しか食べないので、部屋に簡易厨房を作ってしまおうということになっている。


もちろん、領主の許可は得ているぜ。




 まず一番広い部屋の一角を衝立で区切り、人目につかない場所を作っておく。


そこを魔道具を使っての結界で箱のような部屋を作り、床や壁に防火の対策を取る。


窓で換気しようと思ったけど、それだとどうしても他の部屋から苦情が来そうなので、結界内に光魔法の浄化の魔道具を設置した。


小赤の瓶の中みたいだけど、これで匂いや煙の心配も要らない。


料理人が遠慮なく快適に調理出来るようになっている。


 館の家具を傷付ける心配はないけど、汚れなどを気にする者もいるだろうと思って、俺は組み立て式の丈夫な台や棚も持ち込んでいる。


そしてクオ兄が持ち歩いている数々の調理器具がそこに並ぶ。


「結構贅沢な仕様だと思うが、大丈夫なのか、コリル」


出来上がった設備を見て、双子公子が目を丸くした。


 一見、いつもの別館より小さな厨房だが、魔道具が多いので維持するには膨大な魔力が必要になる。


「魔力なら問題ありませんよ」


俺は三年以上前と比べると、何故か魔力がかなり増えた。


一気に大量の魔力を使うとさすがに体調を崩すけど、一定量を長く使う分には魔力を枯らした事はない。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 出発前に俺の魔力を見た長老の話では、


「おそらくじゃが、魔力の回復が早いのであろうな」


と、いう。


「えっ、それじゃ、使用魔力の少ない魔法なら、ほぼ魔力の心配無く使えるってこと?」


使ってる間に魔力量が元に戻るんだよね。


「そういうことになるのう」


うおお、チートだ、チート。


 それから色々と魔法を使ってみて、魔力の減り具合を調べたけど、王宮全体に防御結界張っても減った感じがしなかった。


どんだけ魔力量あるんだろう。


数字で見えないのがもどかしいけど、やべえな、俺。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「というわけで、魔力量の心配は要りません」


設置してある魔力補充用魔石を、予備も含めて常に満タンにしておける。


「他の人には内緒です」


って、言ったら、呆れ顔のズキ兄に、


「誰も信じないと思うよ」


って、言われた。


テヘッ。




 領主館といっても領主夫妻は別館に住んでいる。


防犯のために張る結界は、範囲が狭いほうがより強固になるからね。


こちらの建物は来客や執務用の部屋があるだけだ。


ピアも別館にいる。


クオ兄が料理をしている間、俺は窓から庭の奥にある別館を眺めていた。

 



 その時、ブガタリアの部屋に来客があった。 


「あ、あのズォーキ様はいらっしゃいますか?」


あれ?、ピアだよな。


何で他人行儀な態度で、しかもズキ兄を名指しなんだ?。


「ズォーキ様の婚約者様を夕食に招待しておきましたが」


さすがギディ。


「でも、何かあったようですね」


俺に座っているように言って、ギディとズキ兄が護衛としてピアのいる扉に近寄って行く。


「お邪魔するのだ」


は?、なんか、子供の声がしたぞ。


タタタッと軽い足音がしたと思ったら、俺の目の前に明るい栗色の髪をした女の子がいた。


ピンクのヒラヒラしたドレスを着ている。


俺の顔をじっと見て、


「あなたがブガタリアの王子?」


と、訊いて来たのは六歳か七歳くらいの女の子だ。


妹たちと同じくらいだろうか。




 俺は一旦立ち上がり、


「はい。 ブガタリア国第二王子コリルバートでございます。


姫様のお名前をお教えいただけますでしょうか」


と、簡略した礼を取って話し掛ける。


小さくても女性は女性。


「褒める」「優しくする」「丁寧に扱う」


それが俺の女性に対する基本姿勢だ。


 女の子はジロジロと俺を見回し、何も答えずにピアの側に走って行った。


「見て、ピア。 やっぱりイヤらしそうな王子だわ!」


俺は固まる。


ねえ、これ、どういうこと?。


俺はギギギと音がしそうな動きで、顔をピアに向けた。




「失礼ですよ、マルマーリア様」


絶句していたピアがようやく動き出す。


「何よ、ピアの婚約者を紹介してくれるんでしょ。


こんな王子じゃなくて良かったわ」


肩を震わせて笑いを堪えていたズキ兄が、しゃがみ込んで女の子に話し掛ける。


「こんばんは、姫様。 初めてお目に掛かります。


私がピアーリナの婚約者、ズォーキです。


ズキとお呼びください」


マルマーリアという名の姫は目をキラキラさせてズキ兄を見ている。


金髪に茶色の目の優しそうな騎士。


公子だから作法も完璧。


うん、俺なんかよりよっぽど王子ぽい、っていうか、そもそも公子は身分的には王子と同等だったわ。




 俺はズキ兄と女の子を横目で見ながら、ドサリとソファに座る。


慰めるようにギディが俺の側に立つ。


「お食事の準備が出来ました」


クオ兄の声に俺たちは動き出す。


エオジ班の部屋にも届けなきゃいけない。


公子の従者であるリドイさんがエオジさんに連絡するため出て行った。


 ズキ兄はピアを部屋に入れる。


女の子?、知らん。


「申し訳ありません!」


廊下を、誰かが叫びながら走っている。


リドイさんが、エオジさんと少し痩せた侍女服の若い女性を連れて来た。


「マルマーリア様、このようなところに。


ピアさん、皆様、大変失礼いたしました!」


勢いよく、何度も頭を下げている。


「誰?」


不機嫌そうな俺を見てエオジさんがため息を吐く。


「とりあえず、中へ」


仕方なく、侍女を部屋の中に入れた。




 どうやら他国から来ている姫様らしい。


ピアと仲良くなって、ずっと付き纏っているそうだ。


侍女は身体を縮こませて、ぺこぺこと謝りっ放しである。


「ピアさんは婚約者様とお食事だからと申し上げたんですが」


侍女が姫様を睨む。


「私は全然構わないもの」


姫様は空気が読めないらしい。


「あっそ」


俺の一言で空気が凍る。


「クオ兄、食事にしよう。


皆んな、今日は一日移動で疲れてるんだから、早く食べさせて休ませたい。


エオジさん、運ぶのを手伝って。


ギディはこの部屋の配膳を頼む。


もちろん、ピア嬢はこちらが招待した客だ、座っていただいてくれ」


「はい、すぐに」


クオ兄が用意したワゴンに料理を載せていく。


「クェーオ様、ありがとうございます、いただいていきます」


エオジさんが礼を取り、リドイが運ぶのを手伝う。


「ピア、こちらへ」


ズキ兄はピアをテーブルに案内する。


ギディは黙ってテーブルをセッティングし始めた。




「それで」


俺はピアと一緒にテーブルにつこうとした少女に冷たい視線を送る。


「お前は今すぐ出て行け」


そう言ってツンツンを足元に出す。 


「きゃあああ!」


驚いた少女は侍女に抱き付いた。


「お帰りはあちらだ」


俺は廊下への扉を指差す。


「な、何よ!、女の子を食事にも誘えないの!。


その気持ち悪いのを早く片付けなさいよ」


「黙れ」


俺は片手を少女に向けて魔力を纏わせる。


「も、申し訳ございません!。


すぐに出て行きますので、お許しください!」


真っ青になった侍女が慌てて少女をかかえる。


ペコリと深く頭を下げると、暴れる少女を連れて出て行った。




「なんだ、やれば出来るじゃないか」


あの侍女は姫様を甘やかしているわけではなさそうだ。


「コリル様、人が悪いですわ」


ピアが呆れている。


魔力を纏わせたのはわざとで、使うつもりなど全くなかった。


俺は礼儀知らずは嫌いだからな。


「ピアが分かってくれれば、俺はそれで良いよ」


ニコッと笑うと皆んなが目を逸らした。


エ、ナンデ?。


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