第5話 ショコラの街へ

 シロップの街を出て北へ進んで行く。道が整備されているから迷わなくて良いからとても助かるね。

 ただ、シロップの街からショコラの街までも1日掛かるらしいんだよね。私の足だと1日半くらいって感じなのかな。


「まおちゃん。今日もお外でお泊りになっちゃうけど、ごめんね」

(我に任せておけ!)

「私も起きていた方が良いのかな?」

(ユアは寝てたら良いぞ)


 まおちゃんがこちらを見上げてふるふるっと揺れた。私は寝てて良いらしい。なんだか至れり尽くせりで申し訳ない。

 私がまおちゃんの為に出来る事は何だろう。沢山支えて貰っているから、何かお返しをしたい。守って貰って、お金も稼いで貰っていて、私に出来る事が何もない。

 私に出来る事を考えてみよう。ステータスも思い浮かべてみる。


「あっ、お料理っ!」

(ん、どうした?)

「まおちゃん。今度お料理とかお菓子が作れるようになったら作るからね!」

(ユアの料理か。それは楽しみだな)


 まおちゃんは、嬉しそうにぽよんと揺れている。私でもまおちゃんの為にしてあげられる事があって良かった。次のショコラの街では、少しゆっくり出来るかもしれないから、お料理も出来たらしたいな。それにショコラの街は港町みたいだから、食べ物も美味しいかもしれないからとても楽しみだ。


 その後まおちゃんは自分でぽよんぽよんと飛び跳ねて進んでいる。まおちゃんの後ろをついて歩いていて、あまりの可愛さについつい笑顔になってしまう。

 跳ねる度にふるるっと揺れるのが、とてもとても癒されるのです! いくら歩いても大丈夫なくらい、癒されます。


「まおちゃん。そろそろお昼ごはんにしようか?」


 そう言うと、くるりとまおちゃんが勢い良く振り返った。


(食べるぞっ!!)


 とても嬉しそうな感じに見えるのは、目が付いたからかな? まおちゃんがぽよぽよと跳ねて、安全に食べられる場所を探してくれた。木の下に座ってまおちゃんに宿で貰ったごはんを出して貰う。水筒も出して食べる準備をする。


 包みを開けてみると、宿でまおちゃんと半分こして食べていたからか、明らかに2人前入っている感じだ。パンに沢山具が挟んである、ボリュームたっぷりのパンが2つ入っている。


「1個ずつあるね」

(うまそうだな!)


 まおちゃんに食べさせてあげようと思ったら、身体を変形させて両手でパンを掴んでいる。自分で食べられるらしい。


「まおちゃん、器用だね」

(目が見えるようになったからな)


 一口でも入りそうだけど、ゆっくり味わって食べているのが微笑ましい。しかも、美味しいのかふるるっと嬉しそうに揺れるのがかわいくてかわいくて、見ているだけでとても幸せな気持ちになる。

 美味しそうに食べるまおちゃんを見て和んでいたけど、私も食べよう。具がたっぷり挟んであるパンは、とても美味しかった。


「美味しいね~。でもボリュームたっぷりでお腹がいっぱいだよ」

(なんだ、残りは我がいくらでも食べてやるぞ!)

「まおちゃん、まだ食べられるの?」

(もちろんだ)


 あーんとお口を開けたので、残り物で申し訳ないけれどお口に入れてあげた。ご機嫌で食べてくれたので良かった。残すのは嫌だけど、8歳の身体にはボリュームがありすぎて無理だったんだよね。

 まおちゃんにお礼を言い、お口の周りを拭いてあげる。拭くときにほっぺたもぽよんぽよんするのが、可愛すぎて思わずむぎゅっと抱きしめちゃった。


「よし。お腹もいっぱいになったし、元気にしゅっぱーつっ!」

(うむ、行くぞ)


 まおちゃんの後ろを歩きながら、何を作ってあげられるかを考える。街でほとんどお買い物が出来ていないから、この世界に何があるのかが分からないんだよね。今まで食べてきたものを考えると、玉ねぎとかにんじんとかのお野菜類は普通にあった。お肉も何かは分からないけれど、牛、豚、鶏っぽいのがあったと思う。


「あっ、お米がなかったかも?」

(ん、どうした?)


 突然振り返ったまおちゃんにびっくりしたけれど、声に出ていたらしい。お米をまだ見てないから、王都でも良いから探したいかな。


「ごめんね。独り言言っちゃった」

(なるほどな)


 まおちゃんは一度ぽよんと跳ねてから、また前を向いて先へ進んで行く。調味料はお醤油っぽい物がある気がする。お味噌はあるか分からないから、街に着いたら色々なお店に入って調べてみよう。

 他の調味料はスパイスなんかも、何があるか見てみたいな。


 ご飯はそんな感じで大丈夫だろうから、後はお菓子だね。バターとかお砂糖がどれくらい高い物なのかが問題かな。1回分だけでも買えると良いんだけどなぁ。高くても、まおちゃんにお菓子を作ってあげたいよね。


 途中で休憩をしながら歩いたけれど、夕方になってきた。やっぱり1日じゃつかなかったね。


「まおちゃん。そろそろ野営する場所を探して貰っても良いかな?」

(ふむ。我がいるから、どこでも良いのだがな)


 まおちゃんがぽよんぽよんと跳ねながら進んで行く。大きな木の下で、まおちゃんがこちらを振り返った。ここの木の下で良いみたいだ。


「今日は買ってきたパンを食べようね」

(そうだな)


 まおちゃんがお口を開けると、私の膝の上にパンがぽんっと現れた。水筒も出して一緒にパンを食べる。


「このパンも美味しいね~。いくつか買ってあるから、明日の朝も食べられるね」

(そうだな。人間の食べる物は、どれも旨いから楽しいな)

「そういえば次に作るサメのぬいぐるみは、ショコラの街へ着いてからで大丈夫?」

(ああ、問題ないぞ。やつがいるのはその街の海だからな)


 着いてからで大丈夫みたいだから、明日街へ着いて時間があったら手芸屋さんへ行こうかな。欲しい物を考えていたら、お金があまりない事を思い出してしまって、思わずポロリと涙がこぼれた。


(ユアっ!? どうしたのだ?)

「まおちゃん……」


 まおちゃんが慌てて私の側に来てくれる。思わず抱っこしてむぎゅっと抱きしめる。冒険者登録は出来た。だから居場所が落ち着けばお仕事をして、何とか暮らしていけるかもしれない。

 だけど、私には魔法を撃つ事も、剣で戦う事も出来ない。まだどんな依頼があるか分からないけれど、冒険者としてどうやって生きていけるのかが分からない。


「ごめんね、まおちゃん。私、この先どうしたら良いんだろう。職業が封印術師って知られたら、また追い出されるかもしれない。冒険者ギルドでお仕事を受けられるかも分からないし、でも、お金を稼がないと宿にも泊まれないよね」

(不安になるのも無理はない。ユアはまだ小さいからな。それに封印術師は人間界で使える者がいなくなっているはずだからな)

「まおちゃんは、私の側にいない方が良いのかな」

(何を言っておるのだ。我はユアの側にいるに決まっているであろう。我が守ってやるから安心するがいい)


 まおちゃんは私にすりすりっと頬ずりしてくれた。ふわふわのもふもふで少し癒された。


「でも、まおちゃんに美味しいものとか食べさせてあげられないかもしれない。それでも一緒に居てくれるの?」

(ああ、もちろんだ。ユアは我が守ってやる。だから安心すると良い。それに、ショコラの街でダンジョンでも行けば大丈夫であろう)


 まおちゃんはぽよん! と力強く跳ねて一緒に居てくれると言ってくれた。ホッとしてまた涙があふれてしまった。まおちゃんのお陰で、一人じゃない安心感はとてもある。本当にありがたい。


「まおちゃん、ありがとうね。これからもよろしくね」

(うむ、任せておけ!)


 そのまままおちゃんを抱きしめていたらいつの間にか眠ってしまった。


(金なら、こやつらのドロップ品を売れば多少は大丈夫であろう。ユアが小さいからか、狙っている魔物どもが多いからな)

(魔王である我がいるのに、困ったものだ)

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