第31話 三途の川で、待ち合わせ!? 2

 前回からつづきます。


 今日は『源氏物語・真木柱』のお話です。


 光源氏は、玉鬘たまかずらという美少女を養育していました。好き者ですから、ひそかに自分のものにしようと、狙っています。


 ところが思わぬことに、玉鬘は、《髭黒ひげくろの大将》と結ばれてしまいます。


 源氏は、玉鬘のもとに行って、歌を詠みかけます。



  おりたちて みはみねども 渡り川


   人のせとはた 契らざりしを



 ……私は三途の川に降り立って、その水を汲んでみたわけではありませんが、そこが、自分が渡る瀬ではなく、まさか他人(髭黒)が渡る瀬だとは、思いもしませんでした。


 裏の意味、


 ……あなたと深い関係にはなれなかったけれども、よもや私をさしおいて、あなたが他人を夫(せ)にするなどとは、約束しなかったはずですが――?

 私があなたの最初の男になろうと思っていたのに……!



 玉鬘は返して、



  みつせ川 わたらぬさきに いかでなほ


   涙のみをの あわと消えなん



 ……三途の川を渡る前に、どうにかして、やはり、あなたと私が流した涙の水脈みおの泡のなかに、この身を沈めて、消えてしまおうと思います。


 裏の意味、


 ……私は望んで、あの髭黒に抱かれたわけではないのです。



 髭黒の背に負われる前に、三途の水のなかに消えてしまうと言う、玉鬘。

 それを聞いた源氏は、


「水のなかに消えてしまおうとは、おさならしいお考えですね。そんなことはできません。三途の川というのは絶対に渡らなければならない場所なのです。だからせめて、その時になったら私があなたのお手を引いて、お助けいたしましょう」


 と、笑顔をつくり、冗談を言う。

 玉鬘の心が髭黒にないと知って、少し心が軽くなる源氏。


 三途の川を女性を背負って何度も往復しなければならない源氏は、その最中に、ひとり溺れる玉鬘の手を引いて、助けてあげるくらいはできるのではないか、と、冗談ながらに考えたようです。(←けっこう、三途の川をなめてる笑)


 そして川岸には、源氏が背負ってくれるのを待つ女性たちが、並んで待っているのでしょう。


 深い急流を、女性を背負いながら、こわ~い鬼たちに追われながら、はたして光源氏に、玉鬘の手を引いて助けている余裕はあるのか……。


『源氏物語』がもし仏教説話だったら、「三途の川で、苦難の重労働にいそしむ光源氏」という、あわれで滑稽なエンディングだったかもしれません(笑)

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