第18話 光と影

 中世には、「光」のことも、「かげ」と言いました。


 中世の「かげ」という言葉は、


【確かに存在すると感じられるのだけれど、実体がなく、つかむことができないもの】


 ……を意味したのです。

 その意味では、光も影も、どちらも、「かげ」だったのです。


 「おもかげ」という言葉も、(あなたの顔の感じが、私の心には確かに感じられるのだけれど、実際には、つかむことができない)……という、茫洋としたフィーリングです。


 「景(かげ)」という漢字について考えてみますと、「日」冠に「京」、イメージ的には「太陽の都」といった感じで、強い光が集まったようすが思い浮かびます。このように「景」という漢字はもともと、「光」や「日光」という意味なのです。


 「影」という漢字も同様で、彡(さんづくり)の部分は「ピカピカした美しい輝き」を表しているそうで、「景」に「彡 = 美しい」という意味を加えて、「美しい光」という意味です。


 それが、後世になるにつれ、物体の後ろにできる影ぼうしや、暗さ(陰)のみが、「かげ」と言われるように、変わっていったのです。

 ……「影」という漢字の意味が「美しい光」だなんて、現代のわれわれの感覚からは奇異に思われますが、時代の経過によって、意味が変化していったのです。


 「火影ほかげ」は「火の光」、「月影」は「月の光」という意味です。



 中世の『竹取物語』を読んでみると、こんなシーンがあります。

 帝が、かぐや姫を、むりやり手篭めにしようとします。

 その時、かぐや姫は自分の体を「かげ」に変えて、防ぎます。

 かげ――つまり、【確かに存在すると感じられるのだけれど、実体がなく、つかむことができないもの】に変わるのです。

 見えはするのだけれど、触れられなくなって、帝は思いを遂げられません。

 抱きしめようとするのだけど、すりぬけてしまう……(笑)

 ……けっこう中世の人も、SF的なシナリオを発想していたのだなぁと、おもしろく感じます。

 月(宇宙)からやってくる軍隊、月にかえってゆく姫、体をホログラムに変化させる、など、『竹取物語』はSF小説といって過言ではありません(笑)

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