第30話
オアシスは人が多く、大通りはちょっと空いた満員電車のように絶えず人が動いていた。ある人は会話をして、またある人は重そうな荷物を運んでそれぞれが各自の時間を過ごしていた。彼女は太陽を見上げて言った。
「さてと……宿を探しましょう。巡るのはそれからよ」
「そうだね。でも、どうやって?」
「多くの人が行き来しているから、聞き回るほうが早そうね」
「キュー」
彼女の提案で、片っ端から声をかけていった。他人に対する警戒心が薄いのか、人々はにこやかに応じてくれた。応答が終わると返ってくるのはどこから来たのか? という質問だった。
「遠くから歩いてきたんです」
「それはそれは! お疲れ様でした」
「ありがとうございます」
「ところで……」
「はい?」
「あのお嬢様はどこの方ですか? すごくお綺麗ですね」
彼女のことに関してはよくわからない点が多いが、褒められているのを聞くと自分のことではないにも関わらず、なんだかくすぐったくて思わずニヤけてしまった。
「そんなにニヤニヤしてどうしたの?」
「いや、別に? それより今日の宿は見つかったの?」
「えぇ。今どこにしようか迷っているの。ショウは?」
「君と同じだよ。話を聞く限りどこも良さそうだね」
「キュー!」
カミャードも嬉しそうに鳴いて、体を揺らしている。引き続き、聴き込みを続けていると突然、頭上が暗い影で覆われ、声を上げる暇もなく体ごと宙に浮かされた。かろうじて首の自由はきいたため横を振り向くと彼女も何者かに持ち上げられていた。しばらくもがいていると、体が上下に揺れはじめた。
「に、逃げろ!」
「キャー!」
体の下では人々が焦りと戸惑いの狭間で揺れ動き、四方八方に走り、散らばっている。あっという間に、ごちゃごちゃだった通りは人がいなくなり背筋が凍るような不気味さを曝け出した。
「キュッ! キュキュッ!」
「大丈夫よ!」
「キュー! キュー!」
危険を察知したカミャードが彼女のリュック内で暴れ始めた。平常心を取り戻させようと彼女は懸命に声かけをしているが、今のカミャードは焦りと恐怖で何も聞こえていないのだろう。リュックが破れるのではないかと思うくらい暴れているのが見えた。その間にも眼下の景色は変わり、白く透明感のある砂地から石畳になっていた。上下運動が終わり、二人ともぶら下がる形になった。
「ウッ!」
合図なく、僕らは地面へ落とされた。硬い地面は、疲れた体に容赦のないダメージを与えた。カツカツと硬い音がだんだんと近づいてきたため、顔だけ上げる。その人物は王冠をかぶっていた。僕らを見るなりニヤッと口を曲げた。彼女は目を見開いた。
「あ、あなたは!」
「フッフッフ……これはこれは高貴な王妃様じゃないか」
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