第24話

 肉体から離れてどのくらい長く彷徨っているのだろうか。人魂の揺れる様子を見ていると段々可哀想に思えてきた。前にいる彼女にバレないようそっと手を合わせた。


「なかなか止みそうにないわね……」


「そうだね」


「仕方ないわ。ここで一回休みましょう。お腹も空いてきたわ」


 彼女がそう言った瞬間、僕の腹が返事をするように長く鳴った。それを聞いた彼女はフフっと軽く笑い、袋に入ったキャリブをリュックから取り出して僕に手渡してくれた。


「少ないけれど、お腹の足しにはなるはずよ」


「ありがとう」


 僕が食べている間、彼女は動き回り何かを探していた。


「うーん……」


「どうしたの?」


「乾いた木の枝を探しているのだけれど……どれも駄目ね。この雨のせいで濡れて使い物にならないわ」


 確かに、激しい雨は入り口をも濡らし散らばっている枝はそのせいで湿り気を帯びていた。また洞窟の中は薄暗く、植物が育つにはあまりにも厳しい環境である。


「何に使うの?」


「肌寒いから火を焚きたくて」


「なるほど……。うーん……どうしようか」


 しばらく考えたあと、僕は一つの解を見出した。ただ、それはあまりにも無礼であり失礼極まりないことだった。普段なら絶対言わないがこのときばかりは僕もどうかしていたらしい。彼女に、わかった! と言いそれを話すと駄目よ、と強く言われてしまった。


「火を焚きたいんだよね?」


「ええ。そうだけど、でも」


「火種がないんだよね?」


「ま、まぁそうよ。そうだけど……」


「このまま放置しておいても腐るだけだし……申し訳ないことは重々承知の上、提案してるんだけど……どうかな?」


 ひとしきり考えたあと渋々といった様子で彼女は頷いた。


「でも、使用前にきちんと頭を下げて死者を敬うのを忘れないで」


「わかった」


 ここは僕一人でやろうと思い、彼女を置いて一人奥へと再び歩く。やがて、水晶から反射された微弱な紫色の光が見えたため、極力下を見ないように歩いた。死への誘いはあの一回で充分だ。


「ウッ……」


 思った通り、臭いは奥へ行けば行くほど充満していて、刺激は無慈悲にも僕の目や喉を突き刺し、たちまち視界はボヤけ、じんわりとした喉の痛みから咳が止まらなくなった。薄く目を開けて少しずつ歩みを進める。一番新しそうなものに近寄って頭を下げて今からの使用を許してほしいと丁寧に謝った。


「オェッ……」


 遺体とはいえ元は生きていた人間だ。それを解体するのは気が引ける。しかし、これは僕が自ら立候補した仕事でもあるため、中途に終わるわけにはいかない。背負っていた長剣を抜き、切り落とす。時折、人魂が興味を示し寄ってきたが見えないふりで乗り切った。


「僕は、肉を切っている。僕は肉を切っている、僕は……」

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