第162話 サージェントの回想3
「リードリッヒ、サポート頼むぞ」
リードリッヒの魔力が尽きる前に、倒しきらなきゃない。
俺が倒さないと――。
「私を信じてッ!」
「リードリッヒ……」
「私は守ってもらうだけのお姫さまじゃないわ。一発くらいなら、なんとかできるわよ。私を信じてよッ!!」
痛切な叫びだった。
頭をガツンとやられた。
――俺はリードリッヒを信じていなかった?
彼女は後方職で、俺は前衛職。
俺が守りながら、倒すしかない。
そう思っていた……。
いつから、それが当たり前だと思うようになったんだろうか……。
サード・ダンジョンの頃はそうじゃなかったと、今さらながら思い出した。
あの頃は、みんながお互いを信じ、支えあってきた。
だけど、『水氷回廊』に潜り続けるうちに、相手のせいにするようになっていったんだ。
攻略が進まないのは、アイツが足をひっぱっているから……。
そう考えるようになっていた。
連携が乱れると相手を責め、射線に入った仲間を詰り、皆、自分勝手に動くようになっていったんだ。
俺もそうだ。
回復が少しでも遅れるとリードリッヒを怒鳴りつけ、戦いのジャマにならないように引っ込んでいろと疎外した。
いや、きっと、俺だけじゃない。
皆が皆、仲間を信じられなくなっていたんだ。
――そこに与えられたのが、この試練だ。
「すまなかった。ずっと、俺が間違っていた。リードリッヒ、信じるよ」
「サージェント……」
「やり直そう。間違える前のあの頃から、やり直そう」
「ごめんね、私も悪かった。私もやり直したいわ、あなたと」
リードリッヒの瞳から涙が一筋流れる――。
抱きしめたかった。
思いっきり抱きしめたかった。
俺が愛するリードリッヒがそこにいた。
いや、彼女はずっといたんだ、俺の隣に。
それに俺が気がつかなかっただけだ。
「よし、二人で協力して倒そう。信じてるぞ」
「ええ、わたしも、信じてるわ」
リードリッヒとの間に、なにかが繋がった。
久しぶりのなにかが。
懐かしいなにかが。
わかる。
今なら、わかる。
背中越しでも、わかる。
リードリッヒの考えが伝わってくる。
「さあ、2対1だっ。かかってこい」
「倒してやるわよ」
アイス・マジシャンは同じように3発の氷塊を撃ち出す。
俺はそのうちの2つを斬り裂き、1つは無視して、アイス・マジシャンに斬りかかる。
首元に放った一撃はさっきよりも深い傷を与えた。
そして――。
リードリッヒは魔力を通した杖で氷塊を弾き、軌道をそらした。
氷塊はリードリッヒをとらえられず、壁に衝突する。
リードリッヒは後衛職だが、彼女も【3つ星】だ。
これくらいは、こなせて当然。
そんな当たり前のことすら、俺は忘れていた。
――それからは順調だった。
氷塊の一部はリードリッヒに任せて。
激しく立ち位置を変えて、撹乱し。
曲剣でダメージを蓄積していく。
これが俺たちの強さだ。
忘れていた強さだ。
二人でもこれだけ強いんだ。
五人全員が信じ合えれば――『最果てへ』はまだまだ強くなれる!
ピンチに陥ったアイス・マジシャンは同時に飛ばす氷塊を3発から4発、4発から5発と増やしていく。
だが、今の俺たちにはどうということはなかった。
アイス・マジシャンは徐々に弱っていく。
全身にヒビが入り、動きも緩慢だ。
倒すまであと一歩。
「次で決めるっ!」
「待ってッ!!!」
飛び込もうと一歩目を踏み出そうとしたところで、リードリッヒがストップをかけた。
「どうした? あと一撃だぞ?」
制止させられたことで、俺は苛立ちを覚えた。
「待って、サージェント。様子がおかしいわ」
「おかしい?」
リードリッヒが言う通り、アイス・マジシャンは異変をきたしていた。
その全身が紫色に染まっている。
最後に起死回生の一撃でも放つつもりか?
だったら、余計、急がないと。
「大丈夫だ。これでトドメだッ!」
「ダメよッ!!! 待ってっ!!!」
止めるリードリッヒを振り切るように、俺は曲剣を振り下ろした。
トドメを刺すための全力の一撃だ。
「死ねええええええッ!」
◇◆◇◆◇◆◇
次回――『サージェントの回想4』
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