第155話 地下一階1

 狭い階段を下り、地下一階に到達する。

 薄暗い明かりだったが、俺たちが降り立つと同時にその明かりも消え、真っ暗闇に包まれた。


 ヴェントンが小声でささやく


「セイス、皆に暗視魔法を」

「いや、その必要はない」

「ラーズか?」

「ここは任せてくれ」


 ボウタイメンバーの腕がどれほどかはわからない。

 ただ、一般的な暗視魔法では昼間のように明るく、とまではいかない。

 俺は火精霊に呼びかける。


『火の精霊よ、皆のまなこに宿り、暗闇を見通す力を与えよ――【炎眼フレイム・アイズ】』


「「「…………」」」」


 火精霊の力があれば、昼間同然の視界を確保できる。

 しかし、さすがはボウタイだ。

 驚いている気配は伝わっているが、誰一人動揺していない。

 もちろん、声を上げる者もいなかった。


「助かる」


 ヴェントンが短く告げる。


 シンシアとステフにはいつも通り、四属性のフルエンチャントをかけている。

 だが、ボウタイには【炎眼フレイム・アイズ】だけに留めておいた。


 精霊の加護は強力な分、普段とは身体感覚が大きく異なる。

 慣れていない彼らでは、逆にパフォーマンスを落としかねない。

 それに彼らはエンチャントなしでも十分に強い。

 全員が【2つ星】以上の能力はありそうだ。


 火精霊のおかげで、視界を取り戻す。

 ヴェントンが言った通り、地下一階は倉庫になっていた。

 広い倉庫だ。


 倉庫内は積み荷が所狭しと並んでいる。

 それもほぼ満杯だ。

 天井付近まで荷物が積み上げられている。

 人ひとりがギリギリに通れるくらいの狭い通路がひとつ開いているだけ。


 普通の倉庫ではない。

 明らかに侵入者を迎え撃つための場所だ。


「伏兵が潜んでいる。油断するな」


 ひっそりと闇に紛れ、俺たちを待ち構えている気配が伝わってくる。

 だが、視界が確保されているので、敵が望んだほどの効果はない。

 それに――。


「23匹よ」


 シンシアが【精霊知覚】で得た情報を伝える。

 ヴェントンはシンシアに鋭い視線を向ける。


「だそうだ。敵を倒したら、大声で伝えろ」


 ボウタイのメンバーは武器を短剣と短杖に持ち替えている。

 この狭い場所では、大きな武器は使い物にならない。


 シンシアがメイスを、ステフがスティレットを構える。

 俺は右手にミスリル・ダガーを、左手に氷の短剣だ。


「ウノ、ドス、トレスが先頭、シンシアはその後で探知情報を前衛に伝えてくれ」


 ボウタイの三人が前に出て、シンシアが続く。


「その次はクアトロ、シンコ、セイス。敵の制圧を」


 さらに、三人が続く。


「最後尾が俺、マレ、ラーズ、ステフ。四人で地下二階を目指す。可能なら、シンシアも合流してくれ」


 皆がヴェントンの指示にうなずく。

 そんな中、シンシアが声を上げた。


「ちょっと、いいですか?」





   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】

次回――『地下一階2』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る