第151話 商会強襲

 薄暗い倉庫の中。

 沈黙の中に、ノミネスが機械を操る音だけが流れる――。


「なあ、ヴェントン。ボウタイは冒険者絡みの事件を扱ってるんだよな?」

「ああ」

「そのボウタイが動くってことは?」

「ああ。その通りだ」


 相手は大規模な非合法組織。

 それなりの武力も持ち合わせているはず。

 戦力としては、冒険者や元冒険者がうってつけだ。

 さっきの【1つ星】だけでなく、高位の冒険者が絡んでいることだろう。


「目星はついている。なかなか尻尾を現さなかったが、ようやくこのときがきた」


 ヴェントンがわずかに目を細める。

 遠く遠く虚空を見つめるその先には、いったいなにが見えているのだろうか。


 それ以上の会話はなく、時が流れ――。


 やがて、音が止み、ノネミスが手を止める。


「できたよぉぉ!」


 あっけらかんとノネミスは言い放つ。

 緊張感のかけらも感じられない。

 思わず苦笑してしまう。隣のシンシアも同じだった。


「それで、どうだった?」

「うん。黒幕がわかったよ。それはねぇぇぇ――」


 浮かれ気味なノネミスがもったいつけるように、三人を見回してたっぷりと間をもうける。


「はやく言え」

「あははっ。せっかちだねぇぇ。黒幕はローガン商会だよぉぉ」

「やはり、そうか……」

「けっこう頑張ったんだよぉぉ。通信先の魔道具はダミー経由だったしぃぃ、所持情報もいんぺいされてたしぃぃ、それとぉぉ――」

「わかった。もういい」


 ほっといたらいつまでも続きそうなノミネスの講釈をヴェントンがさえぎる。



「もうぅ。私じゃなかったらできなかったんだからねぇぇ。もっと、ほめてほめてぇ」


 ヴェントンはまったく取り合わずに、問いかける。


「拠点は?」

「商会の本店だよぉ。場所分かるよねぇ」

「ああ、把握済みだ」


 『ローガン商会』の名前が出たときも、ヴェントンに驚きはなかった。

 きっと候補のうちのひとつ、それも、有力な候補だったのだろう。


 と、そのとき、入り口から小柄な女性が入ってきた。

 くすんだローブに身を包み、目深にフードをかぶっているせいで、顔つきまでは見通せない。


「本部長。報告があります。……この二人は?」

「ああ、彼は『精霊の宿り木』のラーズとシンシアだ。この件の協力者だ。気にすることはない」


 彼女はチラとこちらに視線を向けたが、ヴェントンの言葉に従い、報告を始める。


「はっ。倉庫の所有者が判明しました。ペーパーカンパニーを介してますが、大元はローガン商会です」


 こちらからも、同じ名前が上がった。

 これはもう、クロとみて間違いないだろう。


「えへへへぇ。ビンゴぉぉぉ!!!」


 場に似合わない声に、報告してきた女性は不快気な視線を投げかかる。


「マレ、よくやったな」

「はっ」


 ヴェントンの言葉にマレと呼ばれた小柄な女性が、雰囲気をほころばせる。

 だが、それは一瞬だった。

 すぐに緊張した空気を取り戻す。

 俺とシンシアも合わせて襟を正す。

 この場で緩んでいるのは、ノミネスひとりだけだった。


「準備は?」

「我々もクラウゼ殿下の部隊も、準備万端です。いつでも突入可能です」

「そうか、急ぐぞ」

「はっ」


 会話を終えたヴェントンが俺たちの方を向く。


「二人はどうする?」

「ここで降りるようじゃ冒険者は務まらないからな」

「ええ、私も最後まできっちり見届けるわ」

「なら、戦力として数えさせてもらおう」

「あはははっ。私は荒事はキライなんで、お留守番してますねぇぇぇ。いってらっしゃいぃぃぃ」


 ノミネスのせいで、いまいち締まらなかったが、俺とシンシアはボウタイの二人に続いて、倉庫を後にした。


「急ぐぞ。ついて来れるよな?」


 来れなきゃおいてくぞ、と暗に告げる。


「場所を教えてくれたら、先に行って待ってるぞ」

「ほう」


 ヴェントンが口元を緩めた。

 精霊の使い手として、ナメられるわけにはいかない。

 俺は全員に精霊の加護を付与する。


「これで、もっと速くなる」

「ほう」


 何事にも動じることがなさそうなヴェントンを、少しは驚かせられたようだ。


「じゃあ、行くぞ」


 先頭を駆け出すヴェントン。

 俺たちはその後に従った――。





   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】

 マレはドライ編に登場した、ヴェントンの部下です。


 次回――『商会強襲2』

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