【3月1日2巻発売!】勇者パーティーを追放された精霊術士 最強級に覚醒した不遇職、真の仲間と五大ダンジョンを制覇する

まさキチ

第1部 ファースト・ダンジョン『火炎窟』

第1章 追放、そして、再出発

第1話 追放

書籍2巻発売中!

※書籍版とWeb版は別ストーリーです。


   ◇◆◇◆◇◆◇


「ラーズ、今日でオマエをうちのパーティーから追放する」


 一週間に及んだダンジョン遠征帰り。

 行きつけの酒場で乾杯が済んだところで、いきなりパーティーリーダーである【勇者】クリストフにそう告げられた。


「は?」


 あまりに予想外の発言に、俺は思わず聞き返してしまった。

 店内のやかましい喧騒のせいで、俺が聞き間違えたのかもしれないと思った。

 しかし、続くクリストフの言葉がそれを否定した。


「クビだよ、クビ」


 クリストフは表情も変えずに言う。

 金髪で美形の貴公子然とした整った顔立ちのクリストフ。

 彼が無表情で告げたのは、突き放すような冷酷な言葉だった。

 俺を見る視線も、とても長年連れ添った仲間に向けるものではなかった。


「理由は?」


 突然クビ宣言されても、俺には理由が思い当たらない。


「ここ一月ほど、攻略が滞っている」

「ああ、そうだな」


 俺を含むメンバー五人でパーティーを組んで五年間。

 俺たち『無窮(むきゅう)の翼』は、破竹の勢いでダンジョンを攻略してきた。一ヶ月前までは……。


「その原因はオマエだ!」

「そうだッ。この無能がッ!」


 クリストフの言葉に【剣聖】バートンが怒鳴り声で追随する。


「どういうことだ?」


 確かにクリストフが言うように、この一ヶ月間、俺たちのダンジョン攻略は停滞している。

 だが、その原因が俺にあると言われても、承服しかねる。


 俺は自分の役目は果たしているつもりだ。

 突然、無能扱いされても納得できない。

 だから、俺は問い返した。


「ラーズ、オマエは戦闘中なにをしてる?」

「はっ? 精霊術を使ってお前らをサポートしてるだろ」


 俺の職業はレアジョブである【精霊術士】だ。

 あいにく精霊術でモンスターを攻撃することは出来ないが、使役している精霊を駆使して味方をサポートし、敵の足を引っ張り、戦闘をコントロールする――それが支援職である【精霊術士】の戦い方だ。


 精霊術の使い手というのは、俺以外の存在を聞いたことがないほどのレア中のレアジョブだ。

 過去には何人かいたようだが、それは書物の中でしか確認できない。

 だから、他人を参考にすることは出来ないが、それでも、俺なりに自分の役目は果たしてきたつもりだ。

 しかし、クリストフとバートンは俺の働きに満足していないようだ。

 二人がかりで交互に俺を非難してくる。


「そのご自慢の精霊術とやらは、実際どれだけの効果があるんだ?」

「後ろに隠れて、こそこそやってるだけじゃねえかッ!」

「正直、オマエの精霊術とやらが役に立っているとは思えない」

「役にも立たない精霊術なんていらねーんだよッ!」

「それにオマエは直接戦闘が出来ない。だから、俺たちはオマエを守らなきゃならない。戦闘に貢献できないだけでもお荷物なのに、俺たちの足まで引っ張ってるんだ」

「オマエがいなきゃ、もっと楽に戦えるんだよッ!」


 淡々と告げるスラリと引き締まった身体に端正な顔立ちのクリストフと、岩のような巨体で怒りに赤く染まる禿頭のバートン。

 対照的な二人に畳み掛けられた俺は、しかし、その言い分を受け入れることは出来ない。


 俺の精霊術は役立たずじゃない。

 それに精霊術士は後衛職だ。

 前衛の後方に位置取り、モンスターとの直接戦闘を避けるのは当然のことだ。

 そう言い返したいところだが、今の二人に言っても聞き入れないだろう。


 確かに、精霊術は間接支援であり、その効果は目に見えず、分かりづらい。

 なぜなら、精霊術士以外の人間には精霊が見えないからだ。

 例外はレアスキルである【精霊視】を持っている人間だけ。

 しかし、【精霊視】の持ち主はレアジョブである精霊術の使い手よりもさらに稀有な存在。

 当然、パーティーメンバーも誰一人持っておらず、精霊術の効果は俺にしか目に見えない。


 使役者である俺は、精霊術が確実に効果を発揮していることを知っている。

 間違いなく俺の精霊術によって、仲間の力は底上げされ、敵は弱体化されているのだ。

 しかし、パーティーメンバーはそれが俺の精霊術によるものだとは思っておらず、単に自分たちが強くなったからだと勘違いしている。

 そして、何度言っても、俺の意見を聞き入れようとはしなかった。


 彼らが自分たちの力を過信するのには、理由がある。

 俺以外の四人は皆、強力なジョブを得ている。

 だから、強くなったのは俺の支援のおかげではなく、ジョブの力ゆえと誤解しているのだ。


 彼らの誤解を指摘し、丁寧に説明すべきなのだろうが、そんなことはもうさんざん繰り返してきた。

 どのみち、今のヤツらは聞く耳を持っていない。


 俺はこの二人と言い合ってもムダだと思い、残りのメンバーに視線を向けた。

 激昂する二人とは対照的に、パーティーメンバーである女性陣二人は黙って俯(うつむ)いたままだ。

 どうやら、この追放話は出来レースのようだ……。


 黙り込んでいる俺に、クリストフはさらに追い打ちをかけてくる。


「なあ、ラーズ。オマエいつまでジョブランク2で遊んでるんだ?」


 ジョブランク。

 人は冒険者を始めるときに、神からジョブを授かる。

 スタートは皆、ジョブランク1のジョブだ。

 そこから始まり、ダンジョンに挑み、経験を積み上げていくことによって、ジョブランクが上がっていくのだ。

 ジョブランク2で一人前の冒険者。

 ジョブランク3ともなれば、一流の証。

 ジョブランクは最大が3で、ここに到れるのは極ひと握りの選ばれし者。

 噂では、その上のランクがあるなどと言われているが、眉唾ものだ。


 現在、このパーティーでジョブランクが2なのは俺だけだ。

 他のメンバーはジョブランク3。

 四人ものメンバーがジョブランク3というパーティーは破格だ。

 そのせいで、俺たちパーティーは周囲からも注目を浴びる期待のパーティーとなったのだ。


 半年前までは五人ともジョブランク2だった。

 そして、半年前にダンジョンをクリアした際に、俺以外のみんなはジョブランク3になったのだ。

 そこから、歯車が狂いだした――。


 最初のうちは、「ラーズもすぐに3になるよ」と励ましてくれていたメンバーたちも、やがていつまでたってもジョブランク3にならない俺に苛立ちを感じ始めたようだ。

 直接貶してくるのはバートンだけだったが、他のメンバーからの冷ややかな視線は俺も感じていた。


 ジョブランクという引け目がある分、俺は自分に出来ることに全力を注いできた。

 精霊術を駆使して、索敵を行い、モンスターを誤誘導し、仲間を支援する。

 直接戦闘は行えないが、それでも、自分なりにきちんとパーティーに貢献してきたつもりだ。

 みんなに追いつける日を信じて、懸命に頑張ってきたんだ。


 だが、ジョブランクという客観的な指標を出されると返す言葉がない。

 精霊術が役立たずと言われたら反論できるが、ジョブランクが2であるという事実はどうしようもないからだ。


「俺たちはこんなところで立ち止まっているパーティーじゃない。遥かな高みを目指すんだ」

「オマエ抜きでなッ!」

「俺たちに必要なのは火力だ。役立たずな支援魔法じゃない」

「ジョブランク3の奴をなッ!!」


 お前たちに必要なのは、火力じゃなくて連携だ。

 そう言いたくなったが、俺は口をつぐむ。

 今まで何度も提言したけど、一切聞き入れられなかったからだ。

 口うるさく注意する俺のことを疎ましく思っていたに違いない。

 それも今回の追放劇の一因だろう。


「幼馴染だからということで今まで置いてやってたが、もう我慢がならん。オマエをクビにして火力職を入れることにした。分かったか」

「……………………」


 俺は無言でクリストフを睨みつける。

 コイツと俺は同じ村で生まれ育った幼馴染だ。

 一緒に棒きれを振り回し、一緒に街へ出て、一緒に冒険者になり、一緒にパーティーを立ち上げた。


 コイツは俺に劣等感を抱いている。

 それは俺も知っていた。


 だが、俺は信じていた。

 いつか成長して、負の感情から解き放たれると。


 何度も忠告したし、態度でも示した。

 しかし――俺の思いはクリストフには届かなかったようだ。


 恨み、妬み、怒り、怨み。


 クリストフが抱えていた負の感情は、俺が思っていたよりも遥かに大きかったようだ。

 そして、【勇者】というジョブがコイツを悪い方向へと加速させてしまったのだろう。

 【勇者】というジョブを得て増長し、世界で自分が一番偉いと勘違いしてしまったのだ。


 もっと早く、強く手を打つべきだったのかもしれない。

 鬱陶しく思われても、根気強く対話を続けるべきだったかもしれない。

 ぶん殴ってでも、止めるべきだったのかもしれない。


 だが、いずれにしろ、もう遅すぎた。

 すべては――手遅れだった。


「まあ、ラーズ先生にも、言い分はあるんだろう」


 バートンが嫌らしい笑みを浮かべる。


「――だったら、多数決で決めればいいじゃねえか。なあ、それが一番平等だろ?」


 バートンは蔑みを込めた視線を向けてくる。

 この瞬間、俺の追放は決定的になった。


 茶番だ。決を取るまでもない。


「ああ、バートンの言う通りだな。他の2人の意見も聞かないとな。まず、クウカはどう思う?」


 クリストフが【聖女】クウカに振る。


「……私はクリストフさんの意見に従います」


 純白の聖衣を身に纏い、清楚な振る舞い。

 まさに聖女そのものといった雰囲気のクウカは、クリストフを熱い眼差しで見つめたまま、俺とは視線も合わさずに断言した――俺への追放宣告を。


 クウカはクリストフに惚れており、完全にヤツのイエスマンだ。

 だから、最初からこの答えは分かっていた。

 クリストフとバートンの2人が俺の追放を決めた時点で、もうそれは決定事項になっていたのだ。


「これで3人。決まったな。まあ、一応、ウルの意見も聞いておこうか」


 クリストフが【賢者】ウルへ尋ねる。

 フード付きのローブを纏う、幼い少女にしか見えない小柄な体躯のウル。

 彼女はバートンに問いかけられ、ようやくテーブルに広げていた魔道書から顔を上げた。

 いつもこの調子で、この大事な話し合いの場でも会話に加わらず、我関せずとマイペースを保っていた。


「パーティーの不和は望ましくない。こうなってしまった以上は、ラーズと一緒に冒険を続けるのが望ましいとは思えない」

「だとよ」


 ウルは無感情に語る。まるで、他人事かのように。

 どうやら、このパーティーに俺の味方はいないようだ。


「つーことで、満場一致の決定だ。ラーズ先生の新しい門出をお祝いしないとな」

「じゃあ、乾杯するか」


 フザケたことを抜かすバートンに、クリストフが合わせる。

 こんな屈辱的な乾杯があるだろうか。


「ほら、主役のラーズ先生がグラス持たないと始まらねえぞ」


 煽ってくるバートンに、俺は拳を固く握り耐える。


「どうやら、ラーズ先生は嬉しさのあまり動けないようだから、俺達だけで乾杯すっか」

「ああ、そうみたいだな」


 プッと吹き出したクリストフがこちらを見る。

 長年の憑物が落ちたかのような、清々した顔だ。

 そんなに俺を追い出したかったのか。


 俺が怒りに震える中、「かんぱ〜い」と4つのグラスがぶつかる音が虚しく響く。


「おい、ラーズ。オマエの実力じゃ、ここは無理だ。大人しく『始まりの街』からやり直せ」

「冒険者を廃業するって手もあるぜ」

「まあ、オマエが冒険者を続けたって、他の冒険者に迷惑かけた上、どっかで野垂れ死ぬのは明らかだ。バートンが言うように廃業した方がいいかもな」


 静かに口元を歪ませるクリストフとガハハハと笑い声を上げるバートン。


「拠点の私物は好きに持って行っていい。それが手切れ金だ」

「明日の朝、俺たちが起きるより前に、どっか行けよ。二度とそのツラ見せるんじゃねえ」


 無表情のクリストフの瞳は暗く濁っていた。

 ああ、そういうことか。

 俺はようやく理解した。

 この茶番劇に隠れたクリストフの真意を。


 精霊術が役立たずだとか。

 ジョブランクが2だとか。

 支援魔法じゃなくて、火力が必要だとか。


 すべてどうでもいい後付けの理由だ。

 追放の本当の理由はそんなところにはない。


 ただ単に、クリストフは俺に復讐したかったんだ。

 アイツのちっぽけなプライドを満たすために、俺を陥れたかっただけなんだ。


 バートンはそのデカいガタイに反して、臆病な小心者だ。

 常に自分が強者であることを確認しないと、安心できない小物だ。

 そして、ヤツがその手段として選ぶのが弱い者イジメだ。

 反撃できない相手を虐げ、自分の優位性を確認する。


 今回は、その標的に俺が選ばれただけだ。

 そして、俺を追い出した後は、また、新たな標的を探すのだろう。

 その対象は誰になるのか――。


 クウカはクリストフに惚れている。

 クリストフの敵は、彼女の敵だ。

 それくらい、クリストフを盲信している。まるで、狂信者のごとく。

 俺がジャマでしょうがなかったのだろう。


 そして、清らかな見た目に反し、彼女は残忍な性格をしている。

 クリストフ以外の相手には、どこまでも冷酷になれるのだ。

 今回もクリストフを焚きつけることで、嗜虐心を満たしたのだろう。


 ウルはとある目的があってダンジョンに潜っている。

 どうやったら一番早く、そして、効率的にそれを叶えるか。それだけしか頭にない。


 一度パーティーに亀裂が入った以上、彼女はもう俺に価値を見出していないのだろう。

 彼女以外の三人が追放に賛成している以上、彼女の意見は関係ない。

 だったら、波風立てないように賛成に回る。

 そういう打算で動いたのだろう。


 だから、俺を切り捨てたのと同様、必要なくなればこのパーティーも簡単に切り捨てるのだろう。

 次は彼女が切り捨てられるのか、彼女がこのパーティーを切り捨てるのか。どっちが先だろうか――。


 うちのパーティーのメンバーはみんな、人間性に難がある。

 仲の良い友人になれるかと言われたら口を閉ざさざるを得ないが、それでも、良き冒険者仲間にはなれると、俺は信じていた。

 そのために、最大限の努力をしてきたつもりなのに……。


 どうやら、俺の思いは誰にも届かなかったようだ。

 仲間だと思い込んでいたのは、俺だけだったようだ。


 すでに、四人は俺がこの場にいないかのように無視し、満面に笑みを浮かべ、宴を始めている。


 ――これ以上、この場所にいるのは耐えられない。


 俺は自分のマジック・バッグを掴むと、黙って酒場を後にした。


 こうして俺はパーティーを追放された――。





   ◇◆◇◆◇◆◇


 次回――『チンピラとの遭遇』。


 追放されて、チンピラに絡まれる。

 ふんだりけったりだね!


   ◇◆◇◆◇◆◇


【6月30日発売】


 書籍第1巻、雨傘ゆん先生の素晴らしいイラストで発売されます。

 書籍版はweb版から大幅改稿、オリジナルバトル追加してますので、web読者の方でも楽しめるようになっています。

 2巻も出せるよう、お買い上げいただければ嬉しいです!


お楽しみいただけたら、フォロー、★評価お願いしますm(_ _)m


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