第124話

 俺はラクダを爪で切り分け、〖灼熱の息〗で火を通す。

 三つの頭も俺は喰わないが、玉兎は喰うだろう。しっかり焼き上げておこう。

 玉兎もちょっとはダイエットを……と考えていたが、今日くらいはいいだろう。

 コイツと顔を合わせるのは、今日が最後になりそうだからな。


 さっきの咳、俺の〖竜鱗粉〗のせいだと考えて間違いないだろう。


 ラクダに〖病魔の息吹〗吹きかけてやったときは状態が〖呪い(小)〗となっていた。

 それに比べて玉兎の状態は〖通常〗のままだ。

 しかし、だからといって無害とは思えない。


 恐らく今は〖呪い(小)〗の手前の状態なのではなんじゃねぇだろうか。

 このまま一緒にいれば悪化し、死に至る可能性もある。

 以前〖呪い〗の説明を〖神の声〗に聞いたとき、毒よりも治療の手段が限られているが、代わりに初期段階であれば呪術者から距離をおけば回復する、という答えが返ってきていた。

 別れるのなら、今すぐのタイミングが好ましいだろう。

 

 だから、食事が終わったら、それでもうお別れだ。

 結局、住処は掘ってもらえなかったか。

 んなことよりも、今となっては数日連れ添った仲間と別れることになるっつう方がキツいけどな。


 俺がラクダに吐いた〖病魔の息吹〗が掛かってたのか、〖竜鱗粉〗のせいなのかはわかんねぇが、この様子だと、ニーナにも数日の内で病魔の影響が出始めるだろう。

 その前にどっか安全なところに連れてってやれたらいいんだけどな……。


 ニーナは嫌がってたけど、いざとなったらあの壁に囲まれてるところに連れて行くしかねぇな。

 モンスターのうじゃうじゃ出てくるこの砂漠よりはよっぽど安全だ。

 そうならないように〖人化の術〗でどうにか話を聞けたらいいんだが。


「ぺふっ?」


 俺の様子を訝しんでか、玉兎が近寄ってくる。

 悪いな、玉兎。

 この辺でお別れだ。


「ぺふっ! ぺふっ!」


 俺の意図が完全に読めたわけではないだろうが、それでも目を見て何かを察したのか、ぺしぺしと怒ったように耳で足を叩いてくる。

 数分それを続け、玉兎は疲れたのか耳をだらりと垂らし、落ち込んだように目線を落とす。


 大丈夫だよ。

 お前くらい強かったら、この砂漠でも喰いっぱぐれることはねーだろ。

 だから、そんな悲しそうな顔すんなって。


「ぺふぅ……」


 サボテンの皮に座っているニーナが、俺達の様子を不安気な顔つきで見ていた。

 俺と玉兎のやり取りに不穏なものを感じたのだろう。


 ラクダの調理が終わる。

 とはいえ今回は塩がないのでただ火を通しただけなんだが、焦がさないように加減するのがなかなか難しいんだよな。


 サボテンの皮を切って皿代わりにし、その上に肉を乗せる。

 玉兎用とニーナ用、二つ用意する。俺は余ったのを直で喰うから皿はいらん。

 白い脂身の多そうなコブ肉も皿に添え、玉兎の方には頭を三つおまけしておいた。


 もらっていいのかどうか不安気にしているニーナに対して首を動かして勧め、自分も肉へと口をつける。

 ラクダ肉は牛肉に風味が似ていた。

 ちょっと臭さがあったが、この程度は慣れちまったからな。


 かなり美味いとは思うんだけど、玉兎のことを思うと、どうにも食欲がわかねぇ。

 玉兎が喰っている様子を眺めてやろうと顔を上げると、玉兎と目が合った。


 飯を前にして喰わねぇってらしくねぇな。

 頭がやっぱしグロテスクだったか?

 がぶっと喰いついちまえよ。結構美味しいぞ。


 俺が目で促すと、玉兎はゆっくりと肉を食べ始める。


「にゃ……あ、あの、ドラゴンさん、タマちゃんと何かあったのですかにゃ?」


 ニーナは自分から声を掛けておきながら、俺が顔を向けると一気に身体が硬くなった。

 やっぱこの身体威圧的過ぎるよなぁ……。

 今でも俺、不意打ちで自分の姿見たら失神する自信あるわ。

 その気になったら爪で人間の首を一瞬で狩れちゃうだろうしな。


 つーかタマちゃん?

 ひょっとして玉兎のことか?


 ニーナと玉兎、結構打ち解けてたからな……。

 ニーナのことも、玉兎に任せた方が良かったりすんのかな。

 いやでも、玉兎は自分の身体守るのが精一杯だろうし……つっても俺は俺で病魔のタイムリミットがあるんだよな。


 珍しく、玉兎は食事を残した。

 玉兎も自分の体調が悪く、それが俺のせいであることを本能的に察知できていたのかもしれない。

 表情もどことなく暗く、これから俺がどうするつもりなのかわかっているような様子だった。


「タマちゃん?」


 ぼんやりと空に目をやりながら考え事をしていた俺は、ニーナの声につられて玉兎を見る。

 玉兎はぶるりと身体を震わせたかと思うと、急成長していく。


 進化が来たか。

 最後に、玉兎がどうなるかだけ見せてもらおう。


 玉兎の身体が膨らみ、砂色の毛が辺りに散る。

 毛の色素が抜けて、白になった?

 いや、薄いピンク……白寄りの桜色とでもいったところか。


 あの色だと砂に隠れ難くないのか?

 俺としてはちょっと不安だぞ。


 ソフトボール、小さめのスイカと来て、今度はひとひとり座れそうなクッションくらいはある。

 最初が手乗りで次が小玉だったから、今は中玉兎か?


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

種族:桃玉兎

状態:通常

Lv :1/30

HP :39/47

MP :2/34

攻撃力:18

防御力:20

魔法力:26

素早さ:22

ランク:D


特性スキル:

〖隠匿:Lv2〗〖食再生:Lv3〗

〖念話:Lv1〗


耐性スキル:

〖飢餓耐性:Lv4〗〖毒耐性:Lv3〗〖過食耐性:Lv2〗

〖不浄耐性:Lv2〗〖呪い耐性:Lv2〗


通常スキル:

〖穴を掘る:Lv3〗〖灯火:Lv4〗〖死んだ振り:Lv1〗

〖鞭乱舞:Lv5〗〖丸呑み:Lv2〗〖体内収集:Lv2〗

〖魅了:Lv2〗〖喰い千切る:Lv2〗〖レスト:Lv2〗

〖クリーン:Lv1〗


称号スキル:

〖砂漠のアイドル:Lv3〗〖共喰い:Lv1〗〖寄生Lv上げ:Lv3〗

〖大喰い:Lv4〗〖突然変異:Lv--〗〖悪食:Lv1〗

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 桃……この世界に桃、あるんだな。

 中には何もつかねぇのか。

 ま、そんなもんか。


 ランク、次はD-かと思ったが、Dまで飛んだか。

 黒蜥蜴と猩々と同レベルだぞ。やっぱパワーレベリングやべぇな。

 出会ったときと比べてかなり逞しくなってやがる。

 レベル上げたらグレーウルフ倒せるってことか。

 ちょっと想像できねぇわ。


 強敵は穴掘ってやり過ごせるし、これならここでも生きられるな。

 達者に暮らせよ、玉うさ……あん?


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

耐性スキル:

〖飢餓耐性:Lv4〗〖毒耐性:Lv3〗〖過食耐性:Lv2〗

〖不浄耐性:Lv2〗〖呪い耐性:Lv2〗

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 な、なんだ〖呪い耐性〗って。

 おい〖神の声〗! 桃玉兎の詳細を出してくれ!


【〖桃玉兎〗:Dランクモンスター】

【不浄の地で幼体期を過ごした玉兎が、環境に適応するため変異した個体。】

【基本的にどんなものでも食べられる。】

【紅い玉兎が生息する地は大抵人の暮らせるところではないため、見かけたらすぐに逃げること。】

【一説では、他の生物に危険信号を送るために紅くなるとまでいわれる。】


 チビの間からずっと俺といたから耐性がついたってことなのか?

 だったら一緒にいても……つうか、不浄の地!?

 不浄の地って俺か? 俺のことなのか!? 汚くはないだろ、なぁ!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る