第4話 勘違いはしません
始業日だったため、早めに下校時間となる。
「ちょっと職員室に用事あるんだけど、終わるまで待っててよ。一緒に帰ろ?」
「別にいいけど」
「ふふん。もうアタシの魅力にメロメロだな?」
「今の会話でどういう思考過程を挟んだらそうなるんだ?」
「うっさい」
理不尽な言葉を浴びせられ、肩を竦める。
待ち時間は一人で教室にいることにした。
バッグから取り出したライトノベルのページをめくる。
「相変わらずいい趣味してんなあいつ」
萌夏から借りてきたやつだ。
オタクカルチャーを嗜む彼女は、ラノベやアニメ、ゲームなんかを趣味に持っている。
この本の内容は異世界モノで、馬鹿にされていた実は最強な主人公がざまぁするという、最近よく見かけるタイプ。
基本こういうのってリアルが上手くいってない奴が読みそうなのに、流石は猫被り陽キャである。
はぁ……
もっとラブコメにいるような妹が俺も欲しかった。
献身的に尽くしてくれて、毎日『お兄ちゃん起きて!』『お兄ちゃんご飯できたよ!』って言ってくれるような妹が欲しい。
萌夏もルックスだけなら十分だが、嫌味な一言が多過ぎるのだ。
「そういやあいつ、さっき廊下にいたな。こりゃ今晩は質問攻めか」
萌夏には瑠汰のことを話していない。
そもそも俺は元カノの存在を他言したことがない。
理由は単純に、ネットで知り合った女の子と付き合うという行為が卑しく感じられたから。
周りの奴らが同じ学校の人と純愛をする中、俺はネットか……なんて思うと喋る気になれなかった。
しかしながらどうしたものか。
既に転校生の噂は学年を飛び越えて学校中に広まっていると見た。
瑠汰は可愛いし、話題性は抜群。
そんな奴と俺みたいなのが一緒に居たら疑念も抱かれるに決まっている。
「マジで双子の妹なんかロクでもないな」
あいつが学校で俺の事を避けるのと同様に、俺もまたあいつとは距離を置きたい。
‐‐‐
「いや~待った? 結構遅れちゃった」
「今来たところ」
「って、違うだろ。アタシ達はカップルか。そもそも待たせたのは事実やろがい」
「お前がわけわからん質問してきたんじゃねーか」
ただノッてやっただけなのに。
と、満足げに頷く瑠汰を連れ立って下校を始める。
人通りの多い場所に出ても、案外視線は集めない。
転校生というのは学校内にいるから目立つのであって、外に出てしまえば大したことないのだ。
仮にこいつが本来の髪色と瞳の色のままなら、ここでも注目を集めたかもしれないが。
「瑠汰の引っ越し先はどこなんだ?」
「ちょっと離れたところにあるマンションに一人暮らし」
「へぇ……え? 一人暮らし?」
「うん。お父さんウザいから」
「……」
瑠汰の父親の職業はY〇uTuber。
特にゲーム実況を主な活動としているため、常に在宅しているわけだ。
確かに年頃にもなればウザったらしく思えるかもしれない。
それにしても、母親の転勤で引っ越ししたというのに、その両親と暮らしてないのは不思議だな。
「これで一人でゲームし放題。プレイ中にお父さんに横からダメだしされることもないしね」
「そりゃ災難だったな」
「で、鋭登はどうなの?」
「何が?」
「妹と仲が悪いって言ってたじゃん。二年前」
「あ……」
萌夏に瑠汰の存在は話していなかったが、こっちには妹の話をしていたんだっけか。
当時は毎晩連絡を取り合っていたため、膨大な会話の記憶が上手く整理できない。
「まぁぼちぼちって感じだよ」
「ふーん。双子って言ってたけど、高校でようやく離れられたんでしょ? よかったな」
「……」
何気なく放たれた言葉。
俺は返答に困る。
萌夏と俺の関係を知っている人間が光南高校内にいるのはマズい。
瑠汰を信用していないわけではないが、万が一情報が洩れたら俺も萌夏も面倒なことになりかねない。
今ここで瑠汰に全てを話すのはとてもリスキーで、俺一人の判断で勝手にできる範疇を超えている。
「どうしたの固まって」
「いやいや、久々にお前と話せて嬉しいなーと思ったんだよ」
「ちょ、おま……何言って」
「仮にも美少女JKが『ちょ、おま……』とか言うな」
良い意味でもう少し自分の容姿に見合った言動をしてほしいものだ。
「でも確かに良いよな。またこうして君と一緒に話せる日が来るなんて夢みたい」
「そんなに嬉しいのか?」
「ちょ、ちょちょちょちょっと今の無し。全然喜んでなんて、ないんだからな! 勘違いすんなし」
「はいはい」
そこまで否定しなくてもわかってるよ。
俺達は別れた元カレカノ状態なわけで、瑠汰が俺の事を未だに好きでいてくれてるなんて勘違いはしないさ。
未練たらたらな恥ずかしい男ではないんだ俺は。
しかし昔から変わらないが、ツンデレのテンプレみたいな台詞が多い奴だ。
これで三年前は金髪ツインテというありがち設定までついてたと思うと強キャラだよな。
でも待てよ。
付き合ってた時と同じという事は、今も俺の事を好きでいてくれてるのか? こいつは。
ツンデレって事はデレてるってわけだし。
隣をちらっと見る。
瑠汰は小首をかしげ、そして気まずそうにはにかんだ。
「ジロジロ見んなよ~」
「ごめん」
意識すると俺まで恥ずかしくなってくる。
いやいや、ないない。
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