46 13人目の「私」が語る⑧

「ああ、もうあと三人なんですね」


 シャーロットはつぶやいた。


「イヴリン様、私言わなかったけど、一つ思いついたことがありましたわ」

「何かしら」

「毒のありか」

「毒のありか? ストリキニーネの?」

「ええ、青年の身体から見つからなかった、ということですけど、もし彼がかつては目が見えていた、ということなら…… 片目を義眼にしていたという可能性は無かったかしら、と」


 イヴリンは押し黙った。


「何故そう思うのかしら」

「夫の関係で過去の毒に関する事件を調べたことがあったの。イヴリン様、貴女のそれは、配役が少しずれてらっしゃる。殺された義姉様というのは、実は居ないのでは?」


 はあ、とイヴリンはため息をついた。


「ええ。それがおわかりなら、そう。義姉は死んでないのですわ。そしてあの青年は、私の不義の子。私の不始末を兄がずっと隠していたのですわ。そして義姉が不憫がって世話をしていた子。だからあの子はあのきょうだい達を知っていたのですわ。あの子は義眼の中にストリキニーネを隠していて、それで皆を殺し、私も殺し、自分も死のうと思ったのでしょう。ただあの子にとって、誰よりも恐ろしい人間が一人居たんですよ。それが兄です」

「何故兄上が」

「お義姉様はあの子を実の子の様に可愛がっていたのですわ。それが兄にはどうにもたまらなかったのでしょう。ただでさえ妹が犯した罪の子だというのに、自分の妻の愛情まで、とそれで兄はおそらく、あの子を亡き者にしようとしたんですわ。おそらくその時、ぎりぎり見えていた片目も見えなくなって。それで義姉様はおそらく、私の近くに彼を逃がしたんですわ。私が静養しているところに。そして私がそういう彼を見過ごすことができないだろうことを知っていて。ただ誤算があったの」

「誤算?」

「私はあの子の育ってからの顔も知らなかったのよ。だからあくまで他人として接していたの。だけど何人かがあの毒で殺された時、もしや、と思ったの。あの子は嗅覚がとても優れていたわ。だから人の固有の匂いに敏感だった。その中で嗅ぎ覚えのある相手が居ると知ったの。そう、それは自分を殺すだろう、兄につながると思い込んで」

「そうね」


 私はそれに付け加えた。


「そして貴女も殺された。毒で。貴女はあの話の中で殺される順番を変えていた。貴女は義姉の役だったのでしょう?」

「ええそう。そしてその後は? やはりあの子は湖に身を投げたのかしら?」

「残念ながら。彼は貴女が死んだということで、とうとう貴女の兄の出番となったの。そして警察に捕まり…… あとは判るでしょう?」

「ええ、それをどうしても私は見たくなかった。だからこそ、あの子が私に差し出した毒を飲んだのかもしれない」

「毒だと気付いていたの?」

「何となく、兄につながらあのきょうだいが殺されるなら、私も殺されるだろうとは思ってましたの。それで殺されるなら仕方がないと。やはり苦しかったですけど。あの子はどうやって死んだのです?」

「さあ、それは本人に訊いた方が」


 私は暗闇を指した。

 そこには何も無い。

 だがイヴリンは笑みを浮かべ、そこに腕を広げて飛び込んでいった。

 後には闇が残った。

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