30 ダズウッド陸軍大佐夫人ブリジットが語る②

 ただ時々特定できる場合があるんですよ。

 それは従軍看護婦が行方不明になった場合。

 夫がその件で結構疲れた顔になっていたことがありましたわ。

 何と言っても、行方不明になったのは、貴族の令嬢だったのですから!

 クリミア戦争でのナイチンゲール女史からずいぶん経ってますから、まあ案外あったんですよ。

 裕福な家庭の女性が、看護婦として従軍するということ。

 ただ大概はそこで病気にかかって帰国するか、亡くなったりですね。

 いくらノブレス・オブリージュと言ってもですね、そもそもの鍛え方が違うというものなのですよ。

 ああそう言えば、例のオールコット女史も、看護婦として従軍したけど腸チフスにかかったんでしたっけ。

 で、問題はその貴族の女性が行方不明になったんですよ!

 ところが、しばらく後になってから、やや遠く離れた戦場で、女の軍人が居たのか? という問い合わせが来たそうなんですね。

 ただ向こう側でも不思議がっていたのですよ。

 まあ確かに、死者を隠すのに一番いいですわね。あの場は。

 ただ女性の遺体はさすがに難しかった様ですわね。

 じゃあ誰がどうして? なんですのよ。

 その令嬢は特に病気でも何でもなかったのです。

 だから死んだから処理した、ということはあり得ませんわね。

 だいたいそんなことすれば、あちらのご実家から苦情とかいうか問い合わせというか。

 まあ夫が困ったのもその辺りだったのですよ。

 その令嬢のご実家から、どういうつもりか、探してくれ、までが途中。

 そして見つかってからはどうしてくれる、ですね。

 そんなちまちましたことに、夫の立場から何か言える訳ないじゃないですか。

 そもそもそういう階級の、従軍看護婦というのは普通の看護婦からしたら、取り扱いに困るものなんだ、と。

 プロパガンダに使うにしても、もう少し何とかしてくれ、という感じだったそうですよ。

 まあ後で判ったことと言えば、その令嬢が何でそこにやってきたか、とその結果だった訳ですが……

 令嬢、実のところ妊娠していたのですよ。

 そしてその相手を追いかけて、従軍したらしいんです。

 ただその相手にはそこまで責任を取る気が無くて……

 となれば、後はおわかりではございません?

 結局はその相手が誰だったのか特定できた訳ではないのですが、そういう場所に行ったことで、簡単に殺しやすくなるということはございますわね。

 ああ、私は視察に行ったことがありますのよ。

 でも、それ以上のことはしませんでしたわ。

 だって私が行くことで手間が増えるでしょう?

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