23 エッセン文学博士夫人マーゴットが語る②
ほら私達のドレスって重いでしょう?
ねえローズマリー様、そちらのものとは大違い。
だけど足はよく動きましたのよ、シャーロット様、そんなにつぼまっておりませんもの。
裾をわさわさとさせて、ひたすら踊り狂う娘というのは案外おりましたのよ。
ところでそのお嬢さん、少し東洋趣味のお友達がやっぱり居ましてね。
そこで東の清帝国の女性の写真を見せてもらったのですよ。
貴重なものだ、ということでね。
するとびっくり。
もの凄く足が小さいんですの。
細いズボンの下の足は、自分達が高いかかとの靴を履いたのと同じくらいで。
それで歩けるの? と聞いたらしいんですが、さすがにそこまで知ってる者は無かった様で。
さあそこでお嬢さん、何故かその写真にある様な靴が履けないものか、という思いに取り憑かれてしまったのですね。
まあブリジット様とか、後にはご存じでしょうけど、向こうの女性のそれって、ほんの小さな娘の頃から足をまとめにまとめて、足自体を靴の様な形に変形させてしまうんでしたわよね。
だけど当時の彼女はそんなこと知りませんから、伝手をたどって向こうの靴を取り寄せて、それに近い形のものを作らせるんですね。
そしてそれに自分の足が入らないか、と努力する訳ですよ。
無理に決まってるじゃないですか!
向こうの女性だって、あの足は、歩くも踊るも無し、逆に歩かせないためのものだったということですのよ。
だけど彼女はその小さい足で踊ったらさぞ可愛らしいだろうな、と思ってしまったんですって。
だったらそれこそ、バレエを習った方が良かったのですよ。
だってあれでしたら、足そのものでなくてつま先だけで踊るでしょう?
そりゃあ足首を見せるなんて、はしたないとは思いますけど、……その後彼女がしたことに比べれば。
私は先ほどアンダーソンの赤い靴の話をしましたでしょう?
童話って残酷ですわね。
でもグリムの方など、昔むかしの話の採話ですから、もっとえげつないものもあるんですのよ。
灰かぶりにしたって、足が小さくない姉達が靴を合わせるにどうしました?
お妃になればもう歩かなくていいよ、と指だかかかとだかを切ってしまうんですよ?
まあそれで血がにじんであふれて気付かれるんですがね。
ええそう。
赤い靴ですのよ。
彼女、何処かで一本ネジが飛んでしまったのですね。
とっても綺麗な纏足靴を真っ赤に染めてしまった、ということなんですよ。
……見つかった時には、赤い靴に見えたんですって。
元々は刺繍が美しい、淡い色の靴だったのに、と……
結局それ以来、彼女は踊ることは全くできなくなったってことですのよ。
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