14 サングス商会夫人イヴリンが語る⑤
で、まだ帰っていなかった警察がそのまままた捜査に入ったの。
「またですか」
って、警部は苦虫噛みつぶした様な顔になったって聞いたわ。
「しかも同じ毒」
これじゃあまだ事件が続くのじゃないか、って警部は嫌な気持ちになったらしいわ。
そこでもう、奥様も義姉様もずいぶん怖がっちゃって。
立て続けに大の男二人が同じ毒で殺されるんですもの。
で、とうとう奥様、兄上にも来て欲しい、って頼む訳。
だけど兄上の方は仕事が忙しいからなかなか行けない、一区切りついたら行く、ってなかなかにべも無い応答しかしてこなくて。
義姉様はそんな奥様を慰めるのよ。
確かにいつも兄上は忙しい、自宅にもそうそう帰ってこないんだ、って。
この義姉様というのが、奥様と殆ど同じ歳なのね。
兄上とは結構歳が離れてるんだけど。
家同士の結婚ですもの。夫婦となっても時間や話が合わないことはよくあるこことよ。
義姉様は特に嫁いだ時期に若かったものだから、当初とっても兄上の忙しさに寂しく思ったみたいね。
そういう時には色んなお友達を招いて騒いだり、何かと一人でもパーティに出席したり。
そうでもしなくては寂しいという時期が結構長かったらしいのよ。
とは言え、さすがにもうこの時にはそういう時期を通り過ぎた様だけど。
そうね、十何年か前、この義姉様は身体を壊してしばらく奥様の様に別荘で静養していた時期があるのね。
その時とこの奥様がだぶるのかもしれなかったのかも。
でもその時身体を壊したせいか、義姉様は結局御子に恵まれなかったの。
兄上は諦めて妾を入れて子供を産ませたわ。
それが今の跡取りらしいんだけど。
でももし自分に子供が居たら、という気持ちは奥様とよく似ていたみたいね。義姉様も、あの青年のことは非常に気にしてらして。
手に文字を書けば通じるとなると、もの凄く嬉しそうに「会話」をしようとした様なのよ。
ところがその義姉様が、次に死んだのよ。
やっぱりストリキニーネでね。
……いえ、正確には、ストリキニーネで苦しがった義姉様が自分にのしかかってくる、と思ったあの青年が、訳も判らずそばにあった暖炉の火かき棒で殴ってしまったせい、かしらね。
誰が自分にのしかかったのか、青年には判らなかったんでしょう。
青年はそういう、自分に近寄る気配には敏感だったから。
相手が誰であれ、急に襲いかかってきたと思ったのじゃないかしら。
だから警部さんも、この時は青年の正当防衛だ、と言ってくれた訳。
まあ一方で、そこでともかく青年をかばった奥様に対して「物好きだな」という印章は強く持った様よ。
だって無論毒で死ぬことは判ってはいたにせよ、それでも相手をそんな、勢い良く…… な相手にね……
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