3 考古学系歴史学専攻大学教授夫人エレノアが語る③

 だから正直、その助手学生と結婚するって聞いた時、私も夫ももの凄く――控えめに言って、飛び上がるほど驚いたのよ。

 だってその彼、爵位無しよ。

 そりゃ爵位持ちの次男三男もそうだけど、そうじゃなくて、実家自体が爵位無しなのよ。

 ただ、もの凄く羽振りはいいところみたいなのね。

 妹の結婚式ときたら、まあ呼ぶ客筋もドレスも料理もたいそうなもので!

 だからね、ちょっと言われたのよ。

 妹は成金の金に釣られたんだ、って。

 ……ま、正直私もそう思ったのだけどね。

 だって妹は、私達三姉妹の中で一番常に可愛い可愛いと言われてきた子なのよ。

 楽器や刺繍は今一つだけど、ダンスはもう、よくあの靴でくるくるくるくる回れるな、というくらい軽やかなステップで!

 絶対あの子は社交に長けた、できるだけ地位の高いひとと結婚するんだろうな、と思ってたのよ。

 ところが、ですもの。


 で、一方で夫の方も訳がわからない、と言っていたのね。

 というのもこの元助手学生、研究一筋で女には全く目もくれないタイプだったの。

 その研究で、夫が一歩先に行っているということで、何というか、尊敬してます! 付いていきます! って感じで研究室の夫をお世話していたみたいね。

 だから彼自身も結婚は遠いけど、この助手学生も怪しいなあ、そもそも自分の世話ができるくらいなら奥さんとか欲しくならないかもなあ、とか思っていた訳。

 なのに、うちの妹よ!

 一応二人、出会ったのはあのパーティだって言うの。

 私達が仲良くなっているのを見て、感心だか呆れていたんですって。

 なるほどねえ、と私達、その時は呑気に構えていたのよ。


 そのうち、軍の要請があって、若手の優秀な実地に生かせる研究者を貸して欲しいってことで彼、南の方へ向かうことになったの。

 私も当然付いて行ったわ。

 興味もあったし、結構長期間だからって。

 まあ軍の仕事だからね、遺跡はついでで、基本的には文化と言語なのよ。

 で、結構あっちこっち飛ばされた訳。

 まあ大変だったわよ。

 水やら日差しやら食べ物やら、女は顔を隠せとか。

 でもあれ、あの地では理にかなっているのよね。

 だって、あっちでは下手に顔を出していちゃ女は危ないってことだもの。

 さてそこで私達驚いたわ。

 私達、まず最初の赴任地に行ったら、妹夫妻がもう先に居たのよ。

 何でも支社を作るとか何とかで。

 その時は良かったわ。

 やっぱり身近なひとが居るとありがたいでしょ。ただでさえ同郷の女なんて少ないんだし。

 だけどそれが、一度ならともかく、行く先々に居たらどう? 

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