カレシカノジョの恋人クッキング
辺理可付加
カレシ飯編
プロローグ
ここは学校法人KADOKAWA学園グループ・私立埼玉カクヨム高等学校の家庭科室。
放課後で授業も無ければ、家庭科部は二十七年前に廃部になって久しいのでフリーになっている家庭科室。
「自由なスピリットと際限の無いクリエイティビティを育む為に、何モノも少年少女の行く道を妨げてはならない。オンマイロード!」
の校是が示す通り普通の高校とは違って(しかし夢の中の高校にはありがちな)屋上だけでなく焼却炉と女子更衣室以外なら校長室の机の引き出しまで常に鍵が開いている本校の、その類に漏れず鍵が開いている家庭科室。
その中に四人の男女がいる。彼らは一つのテーブルに重役会議のように座っている。と言っても四人しかいないが。
彼ら四人にはよく遊ぶ馴染みのグループであるということ以外に、もう一つ共通点がある。
「ようお前ら、今日集まってもらったのは他でもない。以前から告知していた通り、俺達でささやかな料理大会を開催するためだが」
たった今発言した青年、重役会議で言うと会長の上座の位置に座っているのが
スラッとした体型に涼しげな顔立ちで女子人気が高い学校の王子様でありながら「立てば炸薬座ればボカン歩く姿はただのバカ」というアホやってはヒャッホウしている系男子である。
そのため知人からは概して「
そして持ち前の発想力とお祭り大好き精神で今回の料理大会を企画したのも彼である。
「今回の遊び……じゃねぇ、企画の趣旨は理解してるよな?」
「なんだっけ、カノジョっぽい料理を作るんだっけ」
夏介の問い掛けに答えた青年、夏介を時計の十二時とすると三時の辺りに座っている彼は
「なんかエラくざっくりしてますね。その言い方だと肉じゃがみたいないわゆる家庭的料理を指してるみたいに聞こえます」
恭の発言にそうコメントするのは三十七分辺りに座っている少女、
「うむ! 厳密には『己が恋人をイメージ、テーマとした料理』を作る催しであるな!」
オペラみたいに胸に手を当てて話す九時方向の金髪彼女は
「そういうことだ。お前ら、しっかり考えて来たんだろうな?」
夏介が一同と目を合わせると、あるいは苦笑いしあるいは胸を張った。それを見て彼は満足気に頷く。
「うっし、『お賽銭安く一円や五円で済ませようと思ったら小銭百円玉からしか持ってねぇ』みてぇな顔してるヤツもいるが、一人ぐらい不安要素がいるのもスパイスだ。上出来だな」
そして夏介はショーの開始を高らかに宣言すべく、勢いよく立ち上がった!
その拍子に彼の膝が机の土台へ強かに叩き付けられた!
体育の授業で毎年一度は見掛けた、跳び箱と人間が正面衝突した時のような音が響く。
「おっ……! おぉぉ……!」
「大丈夫ですかぁ?」
「ま、骨が割れたりはするまいて」
夏介は左手で膝を抑えながら右手を前に突き出した。本来ならアニメの演説シーンなんかでありがちな決めポーズなのだが、今の彼のそれは助けを求めている人にしか見えない。
彼は蚊の鳴くような声で宣言した。
「さ……、さぁ、名付けて『愛と魂のカレシ飯・カノジョクッキング』……、すっすす、スタートだ……」
「カレシが作るのかカノジョが作るのかややこしいタイトルだね」
そう、彼らの共通点。それは全員カノジョがいるということだ。一名を除いて。
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