第21話 北海道初日の出会い

雄叫びを上げながら北海道に上陸!したものの…

道がわからないので勢い停車して地図を確認。


何となく左回りを選択することにし、

長万部、室蘭、十勝、帯広、根室、網走、宗谷、余市と回って行くことにした。


とはいえ、とりあえず函館である。


あまり観光などに興味がない僕であったが、

自走で初北海道ということで完全に舞い上がっており、

珍しく六花亭、函館山、キタキツネ…観光アイテムが脳裏に浮かんでいた。


地図を見ながらルートを考えていたら、


「熊本からですか?!」


と声をかけられて飛び上がる。


振り返ると細身のヤマハFZ250フェザーがいた。

高回転でステキな甲高い音を奏でるクオーター(250cc)4スト、マルチシリンダー(ピストンが3つ以上、今回は4つ)のバイクだ。


バイクの脇には細身の女性が立っていた。

黒の革パンツに赤いジャケット、

ロングの髪は痛まないようにか三つ編みにして一本に束ねられていた。


ヘルメットから流れる女性の髪は男性ライダーにとって癒しである。


正直ヘルメットを被っているとぱっと見、

男性か女性かが分からないケースは多いのだが、

彼女に関してはそれは当てはまらなかった。


細身にも関わらず彼女の胸はジャケットの上からでも分かるほどに大きく、

目を向けないようにしてもどうしても吸い寄せられる。


例えていうならナウシカ並みにデカい。

宮崎駿監督は母性を表現するため女性キャラの胸はデカく描く、

と仰られていた記憶だが、彼女の母性がどうなのかは初対面では分からない。


フェザーのタンデムシートには綺麗にまとまった荷物が載っている、

ということはツーリングライダーということだ。


「あ、は、はい、こんにちは。貴女はどちらからですか?」


なるべく胸から目をそらしながら話す。


「私は秋田からです。大間からフェリーですよね?」


弾ける笑顔がまぶしい。


こちらのテンションを上回るハイテンションである。

少し話すと4歳年上の24歳のOLさんで、短い夏休みをソロツーリングで

初めてのキャンプを北海道で!

ということでチョー盛り上がっているとのことだった。

名前はチカさんらしい。


「この後はどちらに向かわれるんですか?」


浅黒い肌が健康そうな彼女は美人タイプではないが、充分にチャーミングである。

人懐っそうな性格のようだ。


「そうですね、決めてないのですが今日は北海道上陸記念日なので、

函館観光でもしようかと…」


「わぁ!いいですね!ご一緒させて頂いてもいいですか?

1人だとつまらないなと思っていたんです!」


語尾に常に「!」がつくハイテンションで彼女は言った。


歳上のチャーミングなお姉さんと函館観光とは断る理由などない。

内心ムフフと思いながら負けずに喜んで!とこたえた。


大荷物を抱えて、トコトコと市内へ向かう。

とりあえずは函館山だろうか。

夜景がキレイだということだが、九州人である僕の夜景のキレイ基準は別府と長崎である。

アレを越える夜景だろうか。

バックミラーには長い髪をたなびかせるフェザーが映っていた。


長身であることもあるが彼女は脚が長いので、交差点などでワタワタしている素振りもない。

ちゃんとついてきている。


函館山の駐車場に到着し、彼女と並べてバイクを停めた。

辺りを見回すと駐車場の端の雑草が茂る場所に数人が集まっている。


「何でしょうね?何かいるのかな?!」


彼女は相変わらずのハイテンションである。

駆け寄る彼女のムネが揺れる…いかんいかん、見てはいけない。


広島にいる彼女と遠く離れているハタチの僕には目の毒だ。

ちなみに広島の彼女のムネはお世辞にも大きいとは言えない。


側に寄ってみるとキタキツネ!である。

目的1つ達成だ。


「わあ、可愛い!」


可愛い…いや僕には見すぼらしく汚れた毛皮の痩せたキツネにしか見えないが…、

その辺はまあいいだろう、わざわざ口に出すようなことではない。

ふと見ると横に看板がたっている。


【キタキツネにエサを与えないでください。

寄生虫がいることがありますので手を触れないでください。】


うーむ、現実は厳しい。


「せっかくなので、何かあげたいなぁ…」


看板は彼女の目には入らないようだ。20の僕には24のお姉さんに説教する度胸はない。


「あーん、何も持ってない〜何かありませんか?」


ないです、とにこやかに応えつつ薄汚れたキタキツネの写真を撮った。

ただの証拠だ。


後で調べたらキタキツネに寄生するのは

エキノコックスという虫で割と重篤な症状を引き起こすらしく、

生死に関わるときもあるらしい。


彼女のためにもぶった切っておくが吉であった。

僕は会ったばかりの底抜けに明るい巨乳のお姉さんのために

100m離れている売店まで走ったりはしないのだ。すまん、チカさん…。


とりあえず彼女とキタキツネとの写真を撮ってあげて駐車場を離れた。

ここは夜景を見に夜来るべきところなので、下見が出来ればいいのだ。


「吸いますか?」


ふと見るとチカさんがタバコを吸おうとしていた。


ふふふ、オレだって吸えるのだ、

西湘バイパス下の焚き火からタバコデビューした僕は、重いキャメルを止めて、

スッキリして軽いセイラムライトというメンソールタバコを持っていた。


ただし基本全く吸わないので、買ってからすでに1週間経つにもかかわらず、

10本以上残っていた。


「あ、持ってます、ありがとうございます。」


タバコを吸いながら海を見つつ、

お互いちゃんと自己紹介をしていないことに気づき、

お互いの出発場所や道中について話した。


お土産屋をちょっと物色したが、特に欲しいものは…と思った瞬間、

黄色い小さな旗が目に付いた。クマ出没注意!と書いてある。


ここまで来る間にもライダーと何人もすれ違い

おきまりのピースサインを出してきたが、何人かは荷物に小ぶりの旗をくくりつけていた。

なんとも北海道ライダーらしくアレは良いなと思っていたのだ。


布切れを棒につけてクマの絵を印刷しただけ…といえばその通りだが、

九州には「クマ出没注意!」の旗はない。


なにより九州にはヒグマはでないので、旗にするならツキノワグマになるだろう、

なんとも可愛くて締まらないな…と思った。


北海道上陸記念にこの旗を買って、荷物にくくりつけて走ることに決めた。

お上りさん上等でいいのだ。


なんたって熊本ナンバーであるから、

誰がどう見ても北海道を走りたくて来たライダーなのだから。


「あっ!そのデザインのグッズ、北海道限定ですよね!お揃いで買っちゃお!」


どうやらチカさんは勢いで生きているらしい。

まあコレとお揃いのライダーは北海道に山ほどいるだろうから、

あまり意識しないでおこう。


街中に降りて定食屋で一緒に昼ご飯を食べ、その辺を散策した。

函館の街は北の玄関口を感じる街だ。

建物が低く広く広がっていて、石畳みを路面電車が走っている。


路面電車は熊本にも走っているので、

バイクにはありがたくない存在ではあるが慣れていた。


しかしチカさんには脅威らしく、

クルマの何倍もある大きな乗り物が大きな音を立てながら向かってきたり、

交差点で警笛を鳴らしたりする様がとても怖いと言った。


「あんな大きなものが向かってきたら身体がすくんじゃう…

ハンドルも切れなくなるし」


じゃ、この後は路面電車がいるところではちょっとマージンとって先導しますね、というと


「やっさしぃ~モテるでしょ、キミ!」


と大声で言い放った後、ジッと顔をのぞき込んできた。


い、いやそんなことは…とドギマギして顔をそらす…が、

はっ、コレは…と思ってチカさんを見ると案の定ニヤニヤしていた。


それっぽいコトを言って反応を見る年上のオンナのそれである。

良いように手玉に取られている感じがムカっとしたが、

それ以上には悪い気もしなかった。


今晩の野営地を決めるにあたり、大き目の公園などを地図で物色した。

夜は函館山に登るつもりなので、アクセスが良いところがいい。そんなことを考えていると、


「ねぇねぇ、私も隣にテント張っていいかな?」


断る理由もないので、一緒に野営地を探すことにした。

市内では野宿など出来るところはあまりないので

テントを張っても怒られなさそうな海べりになる。


通りすがりに銭湯とスーパーを見つけておいた。

後で行こう。


山の中の野宿と違って街なので、この手のお店に困ることはない。


野営地を決め、テントを2張り張った後は夜までまだ間があったので

銭湯にいき洗濯をすることにした。


チカさんは秋田から出てきたばかりなので洗濯は不要だったが、

銭湯には行くと言ってついてきた。


「神田川って知ってる?あんな感じね!」


まあ知らぬ者はいないだろう、フォークの名曲だ。

しかしどんな感じなんだよ…、

僕は浮気してるわけじゃないぞ、と思いつつ2人別々の暖簾をくぐり銭湯に入った。


とはいうものの、僕は彼女がいるとも言ってはいない。

それは彼女が聞かないからだ。


僕も彼女に彼氏がいるのか?などと会ったばかりで無粋な質問はしない。

当たり前である、下心などない…と思う。


しばらくして風呂から上がり、洗濯物の始末をしているとチカさんがやってきた。


「さて何食べる?私食べたいものがあるんだ~」


こちらは特に希望などなかったので、

目星をつけておいたスーパーに一緒に行って買い物をすることにした。

食べたいものって何ですか?と聞くと


「これっ!」


と、アルミ鍋に入った冷凍うどんを持ってきた。

夏なのにうどんかよ、と思ったがコンロにかけるだけで

簡単に出来上がるので失敗のしようがない。


これを主食にするなら後はツマミとビールだけでOKだ。


「これ美味しいのよね~、

会社帰りに買って帰ってコンロにかけると直ぐできるから重宝するのよ。」


女性は毎日ちゃんと料理をするものと勝手に考えていたが、

仕事して帰って料理して…そりゃ大変である。

冷凍煮込みうどん、デンプンと肉と野菜が同時にとれて合理的である。


ただの面倒くさがりなのかもしれないが…。


後で函館山に夜景を見に行くので、ビールはお預けだ。

暗くなる前に夕飯を済ませてしまう。

彼女はメジャーなEPIのガスコンロだった。


コンパクトで扱いやすく、

1週間程度の旅程ならガスカートリッジを予備一つ持つだけで

大丈夫であるから良い選択だろう。


「一緒の夕飯食べるなんて、ミユキさんと一緒!みたいだね!」


当時、中島みゆきのオールナイトニッポンでは、「ミユキさんと一緒」

というコーナーがあって中島みゆきと同じものを食べて翌朝、

同じ●ンコをしよう!という企画があったのだが…


とはいえ何という例えをするのだ、このお姉さんは。


更にキャンプサイトではジャケットを着る必要もなくなり、

彼女の上半身へタンクトップのTシャツ一枚となっている。

先も話した通り、チカさんのムネのインパクトは強烈で目のやり場に困るレベルである。


もう少し胸元が詰まった服の方が良いですよと忠告したいくらいに、

フツーにしていても胸の谷間がガッツリ目に入る。


更に彼女が何かモノを取ろうとしたりするとムネの膨らみがまともに見えてしまい、

マジマジと見るわけにもいかず、どうにもこうにも目のやり場に困ってしまう。


どうすればいいんだ!


いたたまれなくなった僕は、そそくさとうどんを食べ、

少し明るかったが、せめて彼女にジャケットを着て頂くために函館山への移動を提案した。


そしてテントはそのままに、2人は函館山の夜景に向けて移動を始めた。

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