第12話 長野千人風呂
結局降りそうで降らないまま夜は明けた。
曇ったままではあるが、グッスリ眠って爽快な気分だ。
ツーリングの途中で
「野宿では全く体力が回復しないですよね」
という人に会ったことがあるが、私は全くそうは思わない。
家で寝るのと同等、は言い過ぎだが、充分に休息できる。
体力が回復しない人というのは、キチンと眠るための準備を怠っているのではないかと思う。
私流のキチンと眠る準備とは、以前にも書いたのをまとめると、
1.デコボコがなく平らなところ
2.場所が斜めの場合は頭を高いほうへ
3.下に敷くロールマットはアルミ側を下に
4.北枕は避ける
こんなところか。
使っている寝袋自体はホームセンターで2000円くらいで売っていた安物なので、
寝具というよりは寝る場所が大事な気がする。
ちなみに今は7月、夏である。
朝ごはんのルーティンである味噌雑炊をこなし、食べられるだけキレイに食べたら、
川に降り、飯盒やフライパンをキレイに洗った。
ついでに顔も洗った。
割とキレイな川ではあるが、流石にそのまま飲めるレベルではない。
ただ飯盒などは今日の料理の際には水でゆすいでから使えば問題ないレベルだ。
実は爽快な気分には訳がある。
昨日の夜のうちに素っ裸で川に入り、身体や頭を洗っておいたのだ。
転倒してえぐった左肘は心配だったので、川の水ににつけないように気をつけたが、
非常にスッキリした。
まああちこちアザが出来ていたが、たいしたことはない。
夏の川はこういうことが出来ていい。
海だと入って洗ってもベタベタになってしまうし、夏以外では寒くて川に入れない。
今朝は汗も流してスッキリ走り出せる。
実はここから東京までは目と鼻の先であり1日で着いてしまう距離であるが、
友人たちの予定がまだ空いていない。
となれば、最近不足気味の林道オフロード成分を混ぜ、時間を稼ぐことにしよう。
太平洋側を東に進むのをやめ、長野方面に北上することにする。
そうそう、昨夜川に入ったとはいえ、たまには広い風呂にも入りたい…。
という訳で、今日の目標は林道を走ること、広い風呂に入ること、にした。
地図を広げていつもよりルートを念入りに検討する。
公共事業対策もあって、全国的にオフロードは減っている中、
あえて人が来ないであろう不便な道を探すという真逆感が良い。
トコトコと走って適当な山の中に入って、
あたりをつけてダートの砂利道に進入した。
割と狭い道幅だが、軽トラ一台は通れる。
両脇は杉林であり、転落などの心配はない代わりに景色が良くない。
薄暗い林道をひた走り、ブラインドになっている右コーナーを抜けると
道に倒木が斜めに立てかかっていた。
少し驚いたが頭を振ってバイクを立てたまま、倒木の下をくぐる。
倒木が下に落ちていたら、これまた大転倒だったかもしれない。
こんなところで動けなくなると、昨日の比ではない。
いつ人が通りかかるか分からない中、
動かないバイクの側で怪我をして待っているのはツライ。
運が良いと自分でも思う。
少し調子に乗っていたと反省し、ゆっくり走っていると、
舗装路に合流した。
地図と照合するが、多分の位置しか分からない。
こういう時は時間を確認して、太陽の方向から方角を確認する。
そろそろ正午になるので、中天にかかる太陽が作る影は北である。
キーにつく方位磁針でも確認し、北に向かう方面にハンドルを切った。
程なく「茅野」という地名が出て、方向が間違っていないことを教えてくれた。
もう1つの目的地である「大きな風呂」であるが、
茅野市の向こうにある諏訪湖の湖岸に「千人風呂」という
地域住民たちの福利厚生の一環で1度に1000人入れるという大きな風呂があることを
地図で確認しておいた。
観光地なので、普通の銭湯と比べると割高であるが、時間には余裕があるし、
話のタネに良いだろうと思い立ち寄ることにしたのだ。
程なくして千人風呂に到着した。
コンビニで買っておいた食料を食べ、腹ごしらえをしてから、
入館料を払って風呂に入った。
久しぶりの広い風呂は大変に気持ちが良かったが、
どう考えても1000人入れるような風呂ではない。
確かに広い風呂ではあるが、ここに1000人入れたら、
全員立って隙間なくギュウギュウに風呂に浸かることになる。
確かに風呂桶自体は1.1mの水深と深く、
座って入る風呂ではないのだが。
実際には「広い」というアピールのためのものだろう。
内容通り100人風呂でも充分な気はするのだが。
久しぶりに気持ちと時間に余裕があったため、
いわゆる諏訪湖の付近を観光してみることにした。
こうしてみると観光地というのはやたらと土産物屋があって
ゴチャゴチャして見える。そして人が多過ぎるとも思う。
無駄に商品単価も高い。
土産物屋に売っているもので心から欲しくなるものなんてあるだろうか。
土産物屋さんに大変に失礼なそんなことを考えながら歩いていた。
実は既に15時を回っており、
いつもであれば野営地を決定していなければならない時間だが、
今日は野宿しない予定なのだ。
親から譲り受けた林野庁ゆかりの宿泊施設に安く泊まれる権利を使って1度、
施設に泊まってみようと思う。
2食付きで6500円と通常の宿としては安いが、
今回の野宿旅としては破格の単価(高価側)である。
ゆっくりと用意して宿に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます