第2話 出会い。−2
自販機の前でジュースを買う二人、こっちを見つめる裕翔が先に話をかけた。
「あ、桐藤さんはいいな…」
「いきなり?」
「てか、お前…。本当に女の子に興味ないんだ…」
隣の窓から運動場を眺めてコーラを飲む、そして裕翔の話に答えた。
「勉強と結婚してますー」
「まぁ…、星さ。いつか可愛い女の子と恋愛したいとか…、思わない?」
「思わない」
裕翔みたいに裕福な家庭でもないし、バイトと勉強ばかり。そんなことしかできないんだよ…、俺の人生はこれだけで精一杯だ。すぐ崩れるかもしれない小さい世の中から、俺は生き残るためにずっとずっと頑張って夢を追いかけていた。
「たまには、遊んでもいいんだよ!お前は頑張りすぎー」
「成績88位が言うことか…」
「えへっ!ところで今日も放課後に勉強?」
「あ、うん。バイトに行く前にちゃんとやっておかないと…」
「困ってることがあったらすぐ言えよ。俺がついてるからさ!」
「ありがとう」
「それと、夜になったら吸血鬼が出るかもしれないからさ。気をつけろよ」
「何それ…、一応分かった」
それから俺は一人で勉強を続けた。
教科書とシャーペン、この四角の机を見つめて俺はノートに字を書く。時間がどれくらい経っても気にせず、俺は夢中になっていた。そしてテスト範囲まで一段落してから一息入れる。机を片付けて腕を伸ばした俺は窓側の席で、まだ勉強をしている桐藤さんに気づいた。
「……」
親しくないから声はかけられなかった。勉強の邪魔になるかもしれないし…
そろそろ日が暮れる、今日も勉強ばかりの普通の1日だった。たまにはさ、このままどっかに逃げ出したくなる日もあるけど、そんなファンタジーみたいな妄想はただの妄想だからな。でもたまには…、誰もいないところで一日中寝てみたい。
「んなわけ…、ないよな」
自分が考えても馬鹿馬鹿しいことだった。
「あ、あ、あ、あ!!!前、ま、ママママ、前!」
「えっ?」
スマホを見ていた俺の方にものすごい数の書類と本が散らばっていた。
気づいたら俺の前にある女の子が倒れていて「痛い…」と呟いていた。もしかして俺とぶつかって落としたのか…?急に起こってしまったこの状況に、俺はすぐ廊下に散らばっている書類と本を拾ってあげた。
「すみません…。ぼーっとしてて」
「ううん…、私の方が悪い。ちゃんと前を見ていなかった」
見た目でも量が多いのに、これを女の子が一人で運んでいたのかな。
目の前で一緒に拾っている彼女は黄色のセミロングで、人に可愛い印象を与える小さい女の子だった。同級生かどうかは分からないけど、この量を一人で運ぶのは無理だと思って話をかけてみた。
「これ手伝ってあげましょうか…?一人じゃ重いですよね?」
「本当に?手伝ってくれるの?」
「あ、はい。」
「ありがとう!」
そう言ってから俺は彼女に7割くらいの量をもらって、一緒に別館まで歩いた。
「実は…、今日昔の本とか資料を捨てる予定だったのに、一応保管することになっちゃって…」
「あ、だからこんな量を…。それは大変ですね」
「ところで、井上は何で私に敬語なの?」
「えっ?同級生?」
「うん!そうだよー」
「なんか、ごめん。髪とか染めてて先輩だと思った…」
「何だよー、私は2年生!
初対面の人にもそれを言われるのか、一体どこまでその噂が広がってるんだ。でも、悪い子には見えないから適当に聞き流した方がいいかも。そういえば、こんな時間まで残っているなんて、どんな部活をやってるのかな…?そんなことを考えながら俺たちは別館の資料室に着いた。
その中に入って本と書類を整理しながら花守に聞いてみた。
「花守って、部活何やってる?」
「私?私は生徒会だよ」
「……」
「あ…、生徒会ってやっぱ仕事が多いんだ」
「そうだよー、会長は勉強熱心だから書記の私がこまごました用件を片付けてるの」
「へえ…。会長のことを考えてるんだ…。生徒会長はいいな、こんな優しい書記がいて」
「へへへ…」
そして最後の資料をまとめて本棚に入れる。
「はい。これで終わり!ありがとう、井上!」
「どういたしまして」
「あのね!ちょっとだけでもいいから生徒会室まで付き合って!お礼をしたいから」
「え…?」
生徒会室、血蘭学院の最も怖い場所の一つ。そこで生徒会長を務めている人がクラスメイトの桐藤白羽さん、桐藤財閥の桐藤白羽…。それを思い出したら一気に怖くなるけど…、花守からお礼をしたいって言うからちょっとくらいはいいんだろう。
そう決めた俺はスマホの時間を確認してから花守に答えた。
「じゃあ、ちょっとだけなら」
「やったー!」
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