アスランの思惑
アスランは辺りを見回した。盗賊たちは皆足元をスノードラゴンに凍らされて動けなくなっていた。盗賊のリーダーは大声で恨み言を叫んでいる。ただ一人痩せっぽちの魔法使いは、自身が魔法を使えるため、自分の足元を炎の魔法で溶かして逃げようとしている。たがとても弱い魔法のため、中々スノードラゴンの氷は溶けなかった。
アスランは痩せっぽちの魔法使いの所に行くと眠りの魔法をかけた。すると痩せっぽちの魔法使いはバタリと仰向けに倒れて寝てしまった。アスランは土魔法で紙とペンを取り出すと、何かを書きつけた。メリッサが気になったのか近寄ってくる。アスランは笑ってメリッサに説明した。
「城の騎士団に手紙を送るんだ。盗賊団を捕えたと、そうすれば騎士団が盗賊団たちを全員捕まえてくれる」
アスランは手紙を書き終えると、その手紙を二つに折って、両手で挟んだ。そして小さく呪文を唱える。アスランの手の中に、真っ白なハトが出現した。メリッサは突然現れたハトを可愛いといって喜んだ。アスランが説明をする。
「これは僕の魔法だ。手紙をハトに変えて、騎士団の元に飛んで行き、騎士団長の手にとまったら、元の手紙にもどるんだ」
メリッサは目をキラキラさせ、尊敬の眼差しでアスランを見た。そしてすごいアスランと言った。アスランは、僕よりもメリッサ、君の方がすごいよ。スノードラゴンを使役しているんだもの。と答えそうになってやめた。言っても、またメリッサに否定されるだけだ。すごいのは私ではなくスノードラゴンなのだと。
だがメリッサはちっとも自分のすごさがわかっていない。強い霊力を持つ霊獣と、自然界の王といわれるドラゴンに命令する事ができるのだから。アスランはフゥッとため息をついてから二通目の手紙を書き始めた。メリッサがまたのぞき込んでくる。今度は少し怖い顔をしてから言った。
「この手紙はメリッサ、君のご両親に向けてだ。勝手に家を抜け出して、きっとご両親は眠れずに心配しているよ」
アスランの言葉に、メリッサは不満げに頬をふくらます。アスランは言葉をやらわげ話を続けた。
「だけどメリッサがいなかったら僕たちは殺されていた。ありがとうメリッサ」
メリッサはハッとしは顔をしてから、真剣な目でアスランを見つめて言った。
「アスランは強い人だわ。きっと私たちがいなくったって、自分たちでこの盗賊団をかいめつさせたはずだわ」
アスランは、メリッサが慰めてくれたのだと思い、笑って礼を言った。後ろの方ではスノードラゴンと霊獣がギャァギャァと何か言い合っている。それに気づいたメリッサはドラゴンたちの側にかけて行った。ドラゴンと霊獣の会話は、アスランにはわからない。だがメリッサはしきりになだめている。虎の霊獣がギャウッとうなると、スノードラゴンがガォッと咆哮する。
『メリッサ、なんでトカゲジジイを呼んだんだ!こんな三下の盗賊団俺一人で片付けられたのに』
『だまれ毛玉!こんな連中に手こずりおって。メリッサがケガをしたらどうするのだ。メリッサ、危ない事があったらすぐにわしを呼ぶのだぞ。この毛玉ではなくわしにな』
「二人ともケンカしないで?二人を呼ぶとすぐケンカするでしょ?私は貴方達に仲良くしてほしいの」
霊獣とスノードラゴンにメリッサが一言言うと、途端に二人が慌てだした。
『な、何言ってんだメリッサ!俺とトカゲジジイはすっごく仲良しなんだぞ?なっジジイ』
『そっ、その通りじゃ!わしはこの毛玉と仲良しじゃぞ。それにな、何故メリッサは毛玉ばかり召喚するのだ?もっとわしを呼ぶのだ』
「だってグラキエース大きいんだもの」
『なんじゃ大きさの問題か、ならば簡単な事じゃ。わしが小さくなればよい』
アスランがドラゴンたちを見ていると、ドラゴンが急に小さくなった。犬ぐらいの大きさになったドラゴンが小さな翼でメリッサの周りを飛び回る。メリッサは感極まったように叫んだ。
「グラキエースなんて可愛いの?!」
メリッサは小さなドラゴンをさも愛おしげに抱きしめた。それを見ていた虎の霊獣は面白くないらしく、大人の虎の大きさから、小さな子虎に姿を変えた。メリッサは子虎も抱きしめると、二匹に頬ずりをした。そんな光景をアスランはただ見ていた。
アスランはこの年まで、自分の正義を信じて生きてきた。だがこの時ある考えが頭をもたげた。いわゆる悪魔のささやきというものだ。アスランは代々優秀な勇者を輩出する家系に生まれた。祖父も、父も、勇者の称号を得ている。
勇者の称号とは、国の王が勇者と認めたという事だ。王の依頼が、魔王討伐でも、盗賊退治でも、飼っていた猫が逃げたので探してほしいでも。王が依頼した用件を解決した者に、勇者の称号が与えられる。
アスランは勇者の称号が欲しかった、喉から手が出るほど。だがアスランでは王の依頼をやり遂げる事は難しい。そこであのメリッサという少女だ。彼女自身はどこにでもいる村娘に違いない。だがメリッサの使役する霊獣とドラゴンはとんでもなく強い。メリッサを手なずける事ができたならば、アスランは誰も傷つけずに勇者の称号を得る事ができるのではないだろうか。
頭の中では否ととなえる。メリッサは優しい少女で、アスランの命の恩人だ。危険な事には巻き込めない。だが別な考えも思い浮かぶ、メリッサは冒険を熱望している。アスランがダメだと言っても、いずれ一人でも旅に出てしまうのではないか。ならば自分がメリッサの保護者として側にいた方がいいのではないか。アスランは様々な事が思い浮かびかっとうしていた。
アスランたちは、メリッサの家に戻る途中、森の中で休憩した。もう真夜中だったが、メリッサは先ほどの興奮が冷めやらないのか眠くなさそうだった。アスランは枯れ木を集めて、炎の魔法で焚き火をした。そして自身が下げていたカバンの中から、マグカップ二つにポット、紅茶を取り出した。そしてアポロンに水を飲ませるバケツも取り出した。
メリッサは、小さなカバンから沢山の物が飛び出すので、目を白黒させて驚いていた。アスランはクスリと笑って、このカバンにも魔法をかけているから沢山の物が入るのだと説明した。アスランはスノードラゴンと霊獣のためにも水の桶を取り出し、アポロンのバケツと共に、水魔法で水をなみなみと注いだ。アポロンはバケツから美味そうに水を飲んだ。ドラゴンと霊獣も大人しく水を飲んでいる。
アスランはメリッサに温かい紅茶のカップを渡した。メリッサは喜んで礼を言って受け取った。アスランも紅茶を飲む。温かい紅茶が喉を通り、ホッと息をついた。アスランはメリッサに質問した。年は幾つなのかと。メリッサは自身の鼻をツンっとつついて自慢げに言った。
「私はもう十六才よ、立派なレディだわ」
アスランは苦笑した。メリッサの事は、もっと幼いかと思っていた。だが、メリッサは事あるごとに、実年齢よりも大人びている時がある。不思議な少女だ。アスランはメリッサにかんで含めるように話した。
「メリッサ、君は自分の事を大した事がないなんて言うけれど、そんな事はない。君は素晴らしいテイマーの素質がある。どうだろう、君さえ望むなら王都のテイマーの学校に入学してはどうだろうか」
メリッサの瞳が急にキラキラと輝き出す。どうやらアスランの話に食いついたようだ。だがその瞳は悲しそうに下を向いてしまった。メリッサは小さな声で言う。
「テイマーの学校に通いたいけど、そんな事無理だわ。私のお家は貧しくて、お金が無いし。それに私がいなくちゃ、畑の手伝いも弟の世話もしなきゃいけないもの」
「お金の事なら心配ないよ。今回の盗賊団退治はメリッサのおかげだから、報酬はメリッサの物だ。それに何件か依頼をこなせば学校の入学金なんですぐにたまるよ。それにご家族の事なら僕が力になれるかもしれない」
下を向いていたメリッサがまた目をキラキラさせてアスランを見た。すると急に、メリッサのお腹がグウッと鳴った。メリッサは恥ずかしそうに顔を赤くした。アスランはクスリと笑ってから、メリッサにりんごは好きかたずねた。メリッサがうなずくと、アスランはおもむろに大地に手をおいた。そして呪文を唱える。すると大地から小さな芽が出たかと思うと、その芽はグングン大きくなり、そしてりんごの実をたわわに実らせた大樹になった。
メリッサは口をあんぐりと開けて驚いていた。アスランの土魔法だ。アスランはりんごをもぐと、ナイフでメリッサが食べやすいよう小さく切って渡した。メリッサは甘くて美味しいと喜んで食べてくれた。アスランはアポロンにもりんごを食べさせてからメリッサに聞いた。霊獣とドラゴンはりんごを食べるのかと。メリッサが答える。
「ティグリスもグラキエースも食べ物は自然界の気なんだって。だけど人間界の食べ物も食べられるわ、りんごは大好きよ」
アスランはうなずいて、ドラゴンと霊獣の前にもりんごを置いた。ドラゴンと霊獣はギャァギャァ言いながら食べていた。アスランはりんごを数個もぎ取ると、カバンの中に入れた。すると今まで大きかった大樹がみるみる小さくなり消えてしまった。アスランは水魔法でしっかり火を消すと、片付けをして立ち上がり、メリッサたちをうながした。
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