第26話
それから、ライリーは現在の詳しい状況について、滔々と語り始めた。
今から約一週間前のこと。
王城にて次期聖女認定のセレモニーを行い、新しい聖女が選ばれた次の日に、それは起こった。
王都ガストネスの、広大な外壁の内側――人々が暮らす街中に、突如、空間の裂け目が出現し、中からわらわらと魔物たちが出てきたのだという。
いかに堅牢な城塞都市と言えど、防御壁の内部に突然大量の敵が現れては、大混乱は必至。背後から隙を突かれ、持ち場についていたベテラン聖騎士たちはほとんどが全滅。先程ライリーが述べた通り、新米聖騎士たちが頑張って、なんとか王城や、国の内部への侵攻を押しとどめている状況とのことだ。
私は事態の深刻さを知り、青ざめた。
「空間の裂け目って……私が聖女の任に就いていたこの三年間……ううん、先代も、そのさらに先代の時代も、一度だってそんなこと、なかったはずよ」
「その通りです。古い文献によると、何百年か前にもこんなことがあったようですが、所詮はるか昔の話。皆、二度とそんなこと起こるはずがないと、油断していたのでしょう。それでこの有様です」
「……そうだわ! 聖女! 現任の聖女はどうしてるの? どこかで新米聖騎士たちの指揮をしているのかしら?」
こう言っては何だが、あのエグバートに兵の指揮ができるはずがない。ベテラン聖騎士がほぼいなくなってしまった現状では、聖女が皆をまとめ上げ、指揮をとるしかないだろう。
私の質問に対し、ライリーは瞳を閉じ、深くうなだれた。
「彼女は、駄目です。とてもじゃないですが、『聖女』という器じゃない」
エグバートからの手紙にも、『後任の聖女はまるで使い物にならん』と書いてあったが、そんなに駄目なのだろうか? でも、『聖女』という存在は、聖王国の賢者とでも言うべき大神官たちが、一ヶ月にわたる長い祈祷の末、神様の啓示を受けて選ぶわけだから、まったく適性がない人が『聖女』になるなんてこと、ないはずだけど……
そこまで考えて、ハッとした。
私をクビにしてから一週間かそこらでは、どんなに急いだとしても、大神官たちの祈祷が終わるはずがない。と、言うことは、現任の『聖女』は、神様の啓示を受けていない人物を、無理に連れてきたということなのだろうか?
そんな私の思考は、ありありと顔に出ていたのだろう。
ライリーは頷き、苦虫をかみつぶしたような顔で、語りだす。
「お察しの通りです。現任の『聖女』は、正式な方法で選ばれたわけではない、上流階級の女性です。それでも、魔力は人並み以上ですし、やる気も充分でしたから、何とか役割を果たすことができるかもしれないと思っていたのですが……」
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