試験とモモ級回復ポーション 6

「では、みなさんテントを立て終わったようですのでー。今からお昼ご飯にしたいと思いまーす! お好きな人と、二人から四人くらいのグループを組んでくださーい」


 ご飯を食べるのにグループ?

そういえば、講義の後にお昼を作るって言っていたな。

 怪訝に思うも、先ほど言われたことを思い出し、納得する。


「組もうぜぃ」

「おっけー」


 当然のように私は陽夏とペアを組む。

ひとまず二人のペアは組めたため、このままでもいいのだけれど。


「あの子、あぶれているね」

「な。タイミング逃したぽい?」


 未だに誰とも組めずに彷徨っている女の子。

パッと見て、彼女と仲のいいグループがあるようだけれど、人数的にあぶれてしまったらしい。


「陽夏、誘っていい?」

「もち。おーい、そこの人ー」


 陽夏が声をかけると、彼女はきょろきょろと辺りを見渡し、自分の方を指さして首を傾げる。

迷わずに頷くと、彼女はこちらの方へ駆けてきた。


「あたし、ですか?」

「うん、そー」


 こちらに来てから、もう一度確認を取る彼女は、眉を下げて困った表情を浮かべている。


「もしグループが決まっていないなら、どうかなって思って」


 私がそう言えば、見て分かるほどに彼女の顔が明るく輝く。

その勢いのまま、彼女は思い切り頭を下げた。


「もちろんです! 不束者ですが、よろしくお願いします……!」

「うん、それ嫁入りの挨拶な?」


 陽夏は苦笑し、私は彼女が入る場所を空ける。

すると彼女はおもむろに携帯を取り出し、よく見るSNSのアイコンをタップした。


「『いつメングループに入れなかったピエン。だけど親切な人たちにグループ入れてもらったヤッタネ』……っと」

「え、それ……?」

「はい? 携帯ですよ?」

「試験中、出してたらマズくない?」

「大丈夫ですよー! 出してても何も文句言われませんでしたし。そもそも、ここ中庭だから使えているようなもんで、室内入ると一気に圏外になるんですよ! だからカンニングもできません!」

「それ堂々と言うこと違うっしょ」


 呆れたように言う陽夏に同意する。

どうやら、同じグループになった子はいわゆるSNS中毒の子だったらしい。


「とりま、試験中はそれ使うのやめてくれん? なにが不合格になんのか分かってないしさ」

「え、でもでも、電波通じているってことは使っていいってことですよね? あたし、カンニングなんて絶対しません! 友達に報告するだけです!」

「あのね、その報告がダメって言われるかもしれないの。だから、せめて今日だけはそれを使わないでほしいんだけど……」


 でもーだとか、えー、だとか。ぶつぶつ文句を言うその子は、やがて無言の圧に負けたのか、渋々と携帯の電源を落とした。

私は心底ほっとした。


「ありがとう」

「いえー。……あたしも、資格もらえないのは困るので」


 言えばきちんと分かってくれる子だったことに、私はひどく安堵した。


「そいや、自己紹介してなかったね。ウチは相原陽夏。こっちは斎藤恵美」

「よろしく」

「あたしは後藤結衣ごとう ゆいです。よろしくお願いします」


 聞けば、彼女はいずれSNSでインフルエンサーになって有名になりたいのだとか。


「ダンジョンで珍しい発見をすれば、一躍有名になれるはずです! そして憧れの、通知止まらんを言ってやるんです!」


 頑張れとしか言えなかった。


「では、グループも決まったようなので―。お昼ご飯を作りたいと思いまーす」


 宮野さんは手をパンパン叩き、注目を促す。

しかし、そこには食材らしきものは何もない。

あるのは、ひとつのクーラーボックスと、コンパクトにまとまっている調理器具。

それから、ひとりずつに手渡された、少し厚めのレシピ本。

クーラーボックスは開け放たれていて中身が見えているが、そこにあるのは網に包まれているカプセルの様なもの。

少なくとも、食材ではないことはたしか。


「では、今から皆さんはをして、昼ご飯を作りますー」


 困惑したような空気が広がる。

宮野さんは、「っていう設定ですー」なんてのほほんと訂正する。

実際にダンジョンに入るわけではないようだ。


「このカプセルの中には魔物のお肉とか、お野菜とか、とにかく食べられる部位が入っているのですがー。これを今から中庭に放しますー」


 中庭に放します?


 その言葉が疑問として脳に到達し、その解をはじき出すよりも先に、宮野さんはよいしょー。と気の抜ける掛け声でクーラーボックスをひっくり返した。

すると。


「うわっ?! なんかこのカプセルめちゃくちゃ動くんだけど!」

「いてっ、いって! めっちゃぶつかるじゃんコイツ!」

「ちょっと、すり抜けていっちゃうんですがー!」


 バラバラ散らばるカプセルは、それぞれが自我を持ったように動き出す。

形状はガチャガチャのカプセルなのに、動きはまるで動物のよう。


「それはー、ダンジョン低階層にいる魔物の動きを模して動き回ります―。例えば、兎さんの動きをしているカプセルにはホーンラビットのお肉が入っていますー。カプセルに付いているボタンを押すと、魔物を絞めたってことになって、動かなくなりますよー」


 宮野さんはほのぼのと、阿鼻叫喚の惨状を見守っている。


「その魔物カプセルさんたちを捕まえて調理してくださいー。それが皆さんのお昼ご飯になりますー」


 魔物さんたちの調理方法はレシピの中にありますので、参考にしてくださいー。

彼女は終始のんびりと告げ、「あ、それからー」と思い出したように付け足す。


「お昼ご飯はー、こちらの方で食パンの一枚は保証しますぅ。何も食べられないってことは無いのでぇ、安心してくださーい」


 つまり、獲物が取れなかった場合は中々ひもじい食事になると、逆に言えばそういうことらしい。

彼女はもう一度手の平を叩く。


「では、開始ぃ」

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