罪の行方



 飛ばされた先、そこは木漏れ日が差し込む森の中だった。


 先ほどまで居た場所よりも、なんだかこう温かい緑の力? 的なものが漂っている気がするな。


「ここは……」


『私の領域、その一部を隔離した場所だ。たとえ死のうとも、その魂魄は残る。安心して永劫の時の中で罪を受け入れるが良い』


「だから、誤解なんですって」


『ふむ。では貴様は、自分の行いをどう説明するのだ? 森一帯に強烈な毒をばら撒き、森の者を殺戮しようとしたその行いを』


「で、ですから──」


 必死に説明したよ。

 狼に追われて、殺され続け、攻撃は当たらず喰われ続けた時間。


 最後には耐えきれず、狼の嗅覚を利用してどうにか追い払おうとした……が、思いの外臭いが強すぎて死んでしまった、と。


「──と、いうわけがあるんですよ。無実、とまではいきませんが、せめて酌量の余地をください!」


 お父さんは犯罪者、なんて知ったら子供たちが周りにどんな目で見られるか!

 こうなったら、奥義DOGEZAを使うしか……いや、こっちじゃできないんだった。


『……本気で、そう言っているのか? 過程はどうであろうと森は荒れ、森の者が死にかけたのは事実だろう。終わりよければすべて良し、などというのは絵空事でしかない』


「そ、それは……」


 いやまあ分かるよ、ウサギの説明も。

 何気ない日常を過ごしていたのに、突然劇毒を撒かれる……どこのテロやミサイルなんだろうか。


 でもさ、俺にも生存競争という理由があるのだから、主張を止めることは無い。

 野生の生き物って、普通そういうのをやっているもんじゃないのか?


『では、裁定の時間だ。貴様によって被害を被った者の数だけ、この後光る球が出現するだろう。私はその数分、お前を殺す』


 ウサギがキュイッと可愛く鳴くと、本当に光る球が出現する。

 ──空間内に、眩しすぎるほどに。


『……お、多いな』


「な、なんだか、すいません」


 おそらくウサギも、多く見積もっても百ぐらい、とでも思ってくれていたのだろうか。

 実際の球の数は……そんなこと言えないぐらい、膨大な数であった。


『……どうやら、私は65535回殺す必要があるようだ。貴様、どれだけの者に迷惑をかけたかを理解しろ』


「これ、定義を間違えてるんじゃないですかね? 森の中に、そんなに生き物がいるんですか?」


 数字がおかしいだろ、俺はカンストした覚えはないぞ……臭いの被害が森に広がったとしても、微生物でも含まない限り、そこまでの数字が出るはずがない。


『魔力を持つ生き物、それがこの能力で定義付けられる。さすがに私も、貴様の所業には悪い意味で驚いたぞ』


「……ん? いやちょっと待てよ、たしか森全体に風を送ったって言っていたな。その風で飛ばした臭いはどこへやった」


『別の領域の者に迷惑が掛からないよう、空へ飛ばしたが?』


「――あの臭いさ、専用の魔道具で消臭しない限り消えないんだよ。空に飛ばされた臭いが、また別の場所まで飛んでいったら……」


「『…………』」


 素の口調が出てしまっているが、気にせずに説明する。

 嗚呼、俺たちは大量の魔物へ被害を及ぼしていたようだ。


 本来なら森だけで収まる刺激臭も、ウサギの森の住民を思ってのアシストによって被害が拡大。


 ……そんな悲しい理由を考えないよう、俺たちはただ黙殺した。

 誰も悪いわけじゃない、これは悲しい事故だったんだ。


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