ふつうのあい

サトウ

第1話

 ぽたり、ぽたりと、わたしから、あふれた、血が、彼と溶け合う。わたしは、じっと、その様子を、眺めていた。

 混ざりあった、わたしと、彼。どうか、受け入れて。

 血が固まるのを見て、わたしは、拒絶されたと感じた。わたしの血を、彼は受け付けて、くれないんだ。

 彼の身体に、わたしの、血を流し込めば、確実に血が、凝固して、死んでしまう。

 なら、わたしの血を、飲ませてあげよう。

 いずれ彼の、文字通りの、血肉になってくれる。

 わたしと一緒。

 一緒になれる。そう言えばどうして彼はさっきから何も話してくれないんだろ。

 わたしだけが、ずっと、話している。

 ねぇ、どうしてさっきから黙ってるの。

 彼はずっと、ぐったりしている。運ぶのに、邪魔だったから、殴ったのが、いけなかったのかな? 分かんないけど、ゆるさない。

 仕方ないでしょ、暴れるんだから。嫌いになりそうな自分が、キライ。

 ねえ、わたしがわるかったから。お話しようよ。今日のごはん、カレーにしたんだ。好きでしょ? いっつもたのんでるから。じつはいつも混ぜてた。おいしいって、言ってくれてたじゃん。

 だまってないではなしてよ。寂しいじゃん。わたしを無視するひとじゃないでしょ。

 優しいから、あなたなの。でも、そんな訳ない。でも、でも。

 しゃべれよ。わたしが。こんなに。がんばってるのに。

どうして、

振り向いて、

くれないの。

 椅子にくくりつけた彼の、頭を掴んで、天井を向かせる。わたしは彼の口に、コップいっぱいの血を流し込んだ。そうだ、カレーも食べてもらおう。わたしはキッチンから鍋を持ってきて、彼にルーを流し込んだ。せっかく作ったんだから、美味しいとか、言ってよ。

 そう言えば、止まらない。深く、切りすぎたのかもしれない。自分なら出来たけど、彼にするのは初めてだったから。

 冷たくなってきちゃった。知ってたよ。でも、、、こうなるなんてわかんないじゃんか。そうだね。どうにかしなきゃ。でも、あ、そうだね。そうしよう。

 冷蔵庫。腐りにくくなるし。

 これで、安心だよね。


 彼がいない。どこに行ってしまったの? そもそも、ここは誰の部屋なの。何かしてたっけ。でも、彼がいない。カレー? それに、匂いが。彼の匂い。わたしは家から出た。ここは、いつも眺めていた彼の家だ。何かしてたんだ。カレー、誰が作ったの。わたし以外の女? そんなの、許せない。わたしはカレーをぶちまけた。あ、私が作ったんだっけ? そんな気がする。どうしよう。怒られちゃうよね。掃除をした。

 あ、よろこんでくれるかも。わたしは冷蔵庫を開けた。わたしは叫び声をあげた。かれが、そこにいたから。

 誰がやったの? その冷たい身体を抱き締める。触れて、感じた。あいつがやったんだ。そうでしょ? そうに決まってる。わたしは近くの包丁を持って家を飛び出した。

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