第六章 chapter6-5
――バンッバンッ――
「あの音は……?」
私は少し離れた場所で響く銃声らしき音に足を止める。
「ねぇ、今の音って……」
前を走る雪声は私の問いに足を止め、見つからないように柱の陰に身を潜める。
彼女に従って私も同じように柱の陰に慌てて隠れた。
「銃声、でしょうね。多分私達以外の……多分津々原が撃ち合っているんだと思うわ」
「津々原先生が?なんで?」
「私にもわからないわ……」
雪声の頭に自分達を助けるために囮になったのでは?という考えが一瞬浮かぶが、彼に限ってまさかそんな事はないと首を横に振った。
「でも状況はよくわからないけど、これはチャンスよ。きっと注意は派手な動きをしている向こうに向いているはず……。しかもおあつらえ向きに、私達が向かう先とは真逆の方向よ」
「じゃ、じゃあこのまま抜け出せるって事?」
「たまたま敵と鉢合わせたりしなければね」
「……敵……かぁ」
敵という言葉を聞いて私は表情を曇らせ俯いた。
手にした拳銃を構えながら周囲を警戒して雪声が聞いてきた。
「どうしたの?」
「雪声は敵と言ったけどどういう意味で敵なのか私にはわからなくて……」
「あ、あいつらと仲良くしようとかそういう意味じゃないよ?単に私自身、今の状況に頭が追いついてないだけかも」
私は自分の言葉を笑って誤魔化した。
「それに……、今はここから出ることが最優先だよね」
「そうね、それが最優先ね」
「だったら……、ちょっと勿体ないけどごめんね」
私は立ち上がりスカートの裾を掴んで思い切り引っ張った。
ビリビリッと音を立てて、スカートが破れる。
「これで良し、と。今までスカートが長くて少し走りにくかったんだよね。これですっとした」
私の行動を呆然と見ている雪声の横にあるゴミ箱に破り捨てたスカートの切れ端をいれる。
その憮然とする雪声を見て私は笑いがこみ上げてくるのを抑えられなくなり腹を抱えてしまう。
「な、何よ。いきなり笑い出して」
「なんでもない、ただ雪声もそんな顔をするんだなって思ったら、なんだか面白くて」
「そんな顔って……何よ」
ますます憮然とする雪声だったが、今の状況はそんな談笑を許してくれる状況ではなかった。
「おい、そこで何をしている」
まだ状況をわかっていない様子の男が私達に声を掛けてきた。
「こちらの方で逃亡した奴らがいるという話なんだが……」
男は言葉を最後まで言う事が出来なかった、雪声が素早い身のこなしで男の鳩尾に膝蹴りを銜えそのまま手刀を首筋に一閃して黙らせたのだった。
「その様子を見てると雪声の言った言葉が改めて信じられるよ」
……怖い?」
「ん……どうだろ。少なくとも今、私は雪声の事を怖いとは思って無いよ」
「…………」
雪声は何かを言いたげであったが、私は彼女の背中をパンと叩いて、こう言った。
「何か言いたいことあるみたいだけど、まずはここを出てから、とにかくそれからね」
私はそう言って走りだした。
******
「三人とも大丈夫かな……」
二人が建物に向かってから、もう結構な時間がたち車の中で一人残ったみかさは小さくため息をつく。
「私が行っても足手まといにしかならないっていうのはわかるし、戻る場所も確保しなきゃいけないのもわかるけど……」
そしてみかさは手にした鞄の脇のポケットからノートの切れ端が飛び出しているのに気がついた。
「……これは……?」
その紙切れが何故か気になり悪いとは思いつつみかさはそれを手に取った。
「……なんだ、そう言う事なんだ」
みかさはその紙に書かれていることを見て、思わず笑みをこぼす。
そしてそのまま何もなかったかのように鞄に戻すと空を見上げた。
「二人とも、早く戻って来なよ。そうすればきっと元通りだよ」
空を見上げながら、みかさは二人の無事を祈ったのだった。
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