第四章 chapter4-3
そして身代わりを承諾してしばらくたった後、私は津々原から今後についての説明を聞いた。
「奴らが指定してきたのは明日の朝、私と雪声だけで町外れの工場跡まで来いとのことだ」
「工場跡……」
「人気はないし、交換場所としては最適だな。こういう事をするときはいつも同じような手口を取りやがって」
激しく文句を言った津々原だが、すぐに冷静になると着ているジャケットのポケットから小さなピアスのようなモノを取り出しテーブルの上に置いた。
「これは?」
差し出されたバッジを受け取りながら私は聞いた。
「発信器だ、これをつけていれば私達に居場所がわかるというわけだ」
まるで誘拐した相手の正体がはっきりとわかっているような態度を私はいぶかしがった。
「津々原先生達はみかさを誘拐した相手の正体を知っているんですか?」
「ああ、よく知っているよ『理性の英知』の連中だ」
「『理性の英知』?」
「ああ、我々の目指す魔術による真理の探究に見切りをつけて、科学による真理の探究などと言う事を標榜する我々から分派した組織だ」
津々原は忌々しそうにそう吐き捨てた。
「同じ所から生まれた組織……、兄弟みたいな物なんですね」
「一緒にするな」
津々原はそう叫んで忌々しそうに否定する。
「それから今日はここに泊まっていけ、クラスメイトの家に泊まると言えば家族も納得してくれるだろう、突然逃げられても困るからな」
津々原はそう言って立ち上がり奥の部屋へ消えていった。
呆然としたまま部屋に私と雪声は二人残された。
「ああは言ったけど、一応家族には連絡しておいた方がいいと思う……」
「う、うん、そうだよね」
雪声に言われてやっと事情を把握した私はスマートフォンを取り出すと母親へと電話を掛ける。
『うん、そう。今日は友達の所に泊まることになったから帰らないけど大丈夫。え?変なことをする訳じゃ無いから心配しないで、うん、そうただの勉強会みたいな物だから……、じゃあ切るね』
少し雪声は私が家族に電話を掛けるところを羨ましいと思いつつ、彼女の口から『友達』という言葉が出てきたことが何故か嬉しかった。
「よしこれで大丈夫……。ってどうしたの?」
電話をかけ終わりスマートフォンをポケットに戻しながら、自分に向けられた雪声の視線に気がついた。
雪声ははっとすると慌てて視線をずらし小さく呟いた。
「……な、なんでもない……」
******
「それじゃ電気消しますね」
「うん」
先ほどの今後についての話し合いがあって数時間後、雪声と同じ布団でTシャツ一枚で私は横になっていた。
「ごめんね、人が来ることを考えてなかったから布団とかがなくて……」
「ううん、大丈夫……」
お互い背中合わせになって横になりながら暗い部屋の中無言の時間が続く。
しばらく布団がずれる音だけが響いていた。
「ねぇ、桜夜もう寝た?」
雪声の方か小さい声で話しかける。
「まだ起きてるよ、なんだか眠れなくて」
「……ごめんなさい、なんだか巻き込んでしまって……」
「仕方ないよ、偶然こうなってしまったんだし」
「……それがね、偶然じゃないの……」
「……え?」
「私は実は桜夜と接触するためにあの学校に転校してきたの」
淡々と語りはじめた雪声の言葉を私は黙って聞いていた。
そしてその言葉の中で、ここ数日感じていた違和感の一部が自分の中で解けて消えていくのを感じていた。
『そうか……だから……』
「だから巻き込んでしまったのはある意味でいつか起こるかもしれないことではあったの、こんなに早かったのは想定外だったけど」
私は体を抱きながら黙って雪声の言葉を聞いていた。
「さっき私が人ではないって津々原は言ったけど、アレは本当なの」
間を置きながら雪声は少しずつ話を続ける。
「私は魔力と錬金術によって命を与えられた人間、ファンタジーの世界とかだと人造人間とかホムンクルスって呼ばれる存在なの。組織の命令であなたと接触しろと言われていたの、その理由は私も聞かされていないんだけどね」
大きく息をはくと雪声は言葉を続ける。
「アイドルをやっていたのも、樹を隠すには森の中、下手に隠蔽するよりもって事でやっていただけなの……」
「……なんで、そんな事を今……話すの?」
私は雪声にどう返して良いのか判らずに丸まったまま瞳をつぶって暗闇の中でそう聞いた。
「判らない……。でも桜夜には嘘はつきたくない……、何故かそう思ったの……」
「人造人間でも嘘をつきたくないって思うんだね……」
別に雪声は今まで嘘をついていたわけでも騙していたわけではない、しかし騙されたような気持ちになっていた私はつい吐き捨てるように言ってしまう。
その私の台詞のあと二人の間には再び無音の時間が流れる。
「……こんな私だけど、友達ができたみたいで嬉しかった……だから……、明日は絶対に桜夜とみかさの事は私が守るから……ごめん……」
雪声は私に話すと言うわけでもなく暗闇に向かってそう呟いた。
その小さな呟きを聞いた私はどうして良いのか判らず、何かを言いかけるが、言葉が出てこなかった。
その言葉の後、雪声は眠ってしまったのか何も言わなかったが、私は走馬燈のようにここ数日の出来事が頭の中を激しく巡っていた。
『雪声は私と接触するために転校してきた?それなら違和感の理由はわかるけど……なんで?』
私は暗闇をぼんやりと見つめながら一つ謎が解決する度に現れる謎に更に混乱していく。
『私は何を信じたら良いんだろう。雪声の事は信じたい……、でも本当に信じて良いの?』
私の脳裏に雪声と津々原の事が交互に浮かぶ。
『……津々原先生は正直、なんだか信用できないから注意しないと……』
そこまで考えて私はため息をついた。
『誰かを信用しなかったり疑ったりするの……嫌だな……』
これ以上考えていると自己嫌悪に陥りそうだった私は瞳を閉じ、小さく呟いた。
「頼りにしてるから、雪声……」
そして私も微睡みの中へと落ちていった。
******
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