第14話 獲物は洞窟の中に入る
あの夢のような出来事があっても、俺のルーティンは変わることがない。上級モンスターの討伐依頼を受け、それらを退治し、報酬をもらうという流れは定着しつつある。
今回は村を襲撃するレッドドラゴンをやっつけるために、辺鄙なところに行かなければならない。
ルアというギルド会館の案内係の話をざっくりまとめると以下の通りである。
・国境付近にある辺境地であるライデン村に強力すぎるレッドドラゴンが現れて町や人々を襲撃している
・ライデン村を支配する辺境伯の力じゃ太刀打ちできないため、高額の報酬をちらつかせてレッドドラゴンを退治してくれる冒険者を募集している
・王都からかなり離れている上に、モンスターが強すぎてクエストを引き受けてくれるものがいない
この三つの経緯からルアさんが俺にこのクエストを薦めて、俺は快く引き受けたというわけである。
だから、俺は地図と羅針盤をギルド会館側からもらい、王都から少し離れた荒野に来ている。
「うん……ここならいけるはず」
周りに人がいないことを確認してから俺は目を瞑って呪文を唱える(ノリで)。
「1/2tトラック……召喚!」
すると、目の前に軍用車両が現れた。
「やっぱりすごいな……車まで……」
実は昨日、アンデットネフィリムを倒したことで感極まった俺は、試しに誰もいない街中で乗り物の召喚を試してみた。結果は見ての通り。
俺はこの車両の運転席に乗り、エンジンをかける。
「これならあっという間だ!」
そうドヤ顔で言ってから俺はアクセルを思いっきり踏む。
X X X
ライデン村
「きううううううう!!!!」
俺が放った91式携帯地対空誘導弾を食らったレッドドラゴンがあえなく落ちた。そして、俺は91式携帯地対空誘導弾を消して、周りに人がいないことを確認してから、強い破壊力を持つ対戦車ミサイルを召喚し、それを躊躇なく発射する。
「これで終わりだ!」
「キャうううううううううううう!!!」
レッドドラゴンは叫びながら赤い炎に包まれ儚く散って行く。
「す、すげ!!!レッドドラゴンがあんな簡単に?!」
「なんか物凄い魔法弾だったな!」
「うん!速度もさることながら、レッドドラゴンをたった二発で殺せるほどの破壊力……これは間違いなくクラス5の魔法使いだな」
「ライデン村を守ってくれてありがとう!」
「ありがとう!」
「やっと平和が訪れたわ……本当にありがとう……」
先端技術が使われた現代兵器でレッドドラゴンを倒した俺に村人たちが褒め言葉を述べる。
特殊部隊だった頃も同じだが、人々からこのような言葉をいただくのは本当に嬉しい。特殊部隊は市民と触れ合う機会が少ないので、彼らの言葉が俺の心を喜ばせている。
誰かを守って、俺の心は満たされる。
けれど、
メディチ家の人を助けて好意を向けられた時の俺は、今とは違う感情を感じていた。
もっと俺の心の奥深いところが刺激されるような気がしてならなかった。
一体なんなんだろう。
ふとそんなことを考えていると、突然一人の男が俺にやってきて話しかけた。
「冒険者様!此度はレッドドラゴンを退治してくださり誠にありがとうございます!私、この領地を治めるザクセンと申します」
「は、はい」
X X X
ザクセン辺境伯は俺を家に招き手厚く持てなしてくれた。一つ印象的なのは、彼も奥さんも子供もとても幸せな表情をしていたこと。
その光景を今、トラックを運転して帰路についている俺の頭に浮かんできた。
「そういえば、俺にもああいう時期があったな」
とても仲睦まじいお父さんとお母さんと、愛をいっぱいもらって育った俺。だが、お父さんは訓練中に死んでしまった。功績が認められ勲章をもらったが、亡くなったお父さんはもう見れない。
お母さんはお父さんの死をとても悲しんでいた。俺がいないところではお父さんの写真を見て涙を流したが、俺がいるところではいつもニコニコして、俺を優しく抱きしめてくれた。
国から支給される年金とパートタイマーとして稼いだお金で俺を養ってくれたありがたい存在。
だから、俺はお母さんを守りたかった。お父さんのような強い男になって、お母さんが悲しい思いをしないように守りたかった。
だけど、お母さんも病気で亡くなってしまった。
「……」
顔を顰めて、ハンドルを握る手に力を入れる俺。
すると、3人の姿が浮かんでくる。
父を亡くしたカロルとアリス。そして、二人をとても大事にするアニエスさん。あの美人母娘もきっと辛い思いをしてきたことだろう。
もちろん、俺はあの3人のことを詳しく知らない。思い上がりと言われても反論できない。
けれど、
俺に会いに来てくれたカロルとアリス、そして俺を大きな胸で優しく包み込んでくれたアニエスさん。
あの母娘の生き様は実に
無意識のうちに、そんなことを思ってしまった。
X X X
「おお!タコ焼きのにいさん!」
「よ!今日は商売やってないな!」
クエストの報酬をたんまりもらって家路に着く俺に声をかけたのはいつもの厳つい二人の冒険者。
「今日はクエストがありまして……」
「なるほどなるほど。ところでにいさんよ」
「はい?」
「何かあったのか?なんだか表情がいつもと違うけど」
「俺の表情って変ですか?」
「変ってわけじゃないけど、いつもより明るさが足りないような……」
「何か、悲しいことでもあったのか?」
「悲しいこと……」
悲しい?今日はレッドドラゴンを退治してお金もいっぱいもらったし、村の人々からも感謝の言葉をいただいた。良いことづくめだと思うが……
「そんなことはありませんでしたけど」
「そ、そうか、じゃ、明日はタコ焼き売ってくれるのか?」
「はい。明日は普通に営業をやる予定なので」
「おお!それはグッドニュース!にいさんよ、材料はいっぱい用意してくれ。にいさんの売るタコ焼き、有名になりつつあるからよ!ちょっと悲しいな」
「は、はい」
「それじゃがんばれい!」
「何かあれば言ってくれよな!にいさんよ!」
そう言って二人の冒険者は手を振って歩き去る。
体は俺の部下や上司と同じく体育会系である上に、顔は完全にヤクザのアレだが、いい人たちだ。
そう思いながら俺も宿に戻るべく足を動かした。
「俺が、悲しい?」
謎すぎる二人の言葉に意味を見出そうとしても、それっぽい答えは見つからない。
そんな感じで、俺はスローライフを楽しんだ。ここでの生活は日本と比べると緩い。そう頻繁に上級モンスターの討伐依頼がくるわけではなく、あったとしてもそんなに時間がかかるわけでもない。
そして時間があれば屋台を出し、みんなに日本の美味しいものを味わってもらう。そんなルーティンをこなしていくうちに、1週間が経ち、気がつけば、パーティー当日である。
メディチ家の美人母娘が俺のために開いてくれるパーティー。何が俺を待っているのかは分からない。まあ、別に深い意味はないだろう。ただ単に助けられたことへの恩返し以外のなにものでもない。別に返さなくてもいいのに……
本当に優しい人たちだ。あんなに綺麗で美しくて性格も良くて……きっとメディチ家の美人母娘と結ばれる男は前世で国でも救った英雄か何かだろう。
3人とも幸せになってほしいものだ。
そう思いながら俺は息を深く吸って吐く。
それから足を動かし、メディチ家の屋敷に繋がる門の前にやってきた。
門番の人は、俺の顔を見た途端に目を見開いて、急に部下のものに耳打ちする。そしたら部下らしきものはいそいそと屋敷の中へと全力で走る。
門番の人はドヤ顔でサムズアップし、俺にキラキラとした視線を送ってきた。だから俺もペコリと頭を少し下げて無言の挨拶をする。
しばしの時間が経つと、見慣れたメイド二人が俺にやってきた。
「お待ちしておりました晴翔様」
「お待ちしておりました晴翔様」
大人しいリンゼさんと少し子供っぽいエリゼさんは格式整った挨拶をし、俺の両側に来た。そして大人しいリンゼさんが口を開く。
「アニエス様とアリスお嬢様、カロルお嬢様は今回のパーティーをとっっっっても楽しみにしておられます。晴翔様もぜひこのパーティを心ゆくまで堪能してください」
するとエリゼさんが
「ふふ、美味しいものもいっぱいありますので、そう緊張しなくてもいいですよ!気楽に行きましょう!」
「は、はい」
俺は二人のメイドに導かれ、
中に入った。
追記
余白に深い意味はございません(汗)
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