閑話
閑話1 電化しない理由
「社長、そういえばなんで電化しないんですか?」
開業日の午後、アモリがそんなことを聞いてきた。
「する予定ないけど、なんで聞いてきたん?」
「だって、電車だったら折り返しが楽じゃないですか。」
「電化しなくても折り返し運転はできるぞ。まあ、関西だとキハ189系で運行されている特急はまかぜとか、気動車で運行していれば可能だ。」
大阪近郊でも関西本線の加茂~亀山間とか、北条鉄道や信楽高原鐵道、紀州鉄道などが非電化で気動車が走る。他にも、非電化区間が多い北海道や四国は気動車天国だ。
「でも、電化したらコストが下がるんじゃないの?」
「あー、それは、そうとは限らないんだよ。コスト削減するために非電化にした鉄道会社もあるからね。」
「え、そうなんですか?」
「ああ、コストには導入コストとランニングコストがある。導入コストはまあ簡単に言えば施設の建設と車両の製作だな。ランニングコストは施設・車両の整備、および車両を動かすための費用になる。電車なら電気代、気動車なら軽油代だな。一般的に電車の方がコストが安いというのは、主に電気代が軽油や石炭の購入費用より安いからなんだが、実はここに落とし穴があるんだ。それは、電化施設の整備費は運転本数に関わらずある一定量かかるということなんだ。具体的に言うと、発電所、変電所、架線柱、トロリ線。これらは電車や電気機関車が走っていようが走っていなかろうが整備にお金がかかる。電化するならこの辺りのランニングコストが非電化に対して上乗せでかかる。そのコストが軽油の費用より上回ると電化するよりも非電化の方がより効率的だということになる。列車の本数が少ないとより顕著に差が出るね。この国の人口密度や、それぞれの集落の距離とかを考えると、電化という選択肢はあり得ない。非電化単線で間に合うような輸送量なら電化はコストだけ食って割に合わない。」
それに、魔動機関車のコスパがものごっついいんだ。ゴブリン程度の魔石が簡単に手に入る上、魔石20個あれば丸一日走らせることが可能だ。もちろんそれより大きな魔石でも対応できるので、現在は冒険者ギルドにいろんな魔石を卸してもらっている。それまで捨て値しかつかなかった雑魚の魔石でも燃料に出きるので、最低でも銅貨5枚と言ったら、集まるようになった。雑魚過ぎて放置されていた魔石が結構あったわけだ。そんな雑魚の魔石でも50個で丸一日。燃料代がどれだけ安いか……。
「それに、電化したら発電所をどれだけ作らなくてはならないか……。直流だと最大10㎞間隔になり、王都からナンユウゲキまでに8ヶ所は作らないといけない、しかも、この間にある駅数は今は4つだ。駅数よりも発電所数が多いと話にならない。交流電化の場合60㎞~100㎞間隔で変電所を作れるが、その代わりに車両に直流に変える変電設備を作らなくちゃならないので、車両自体が高くなる。それに、発電所を作るとして発電方法はどうなる?火力発電、水力発電あたりが基本だろうが、ほとんど走らない電車のために作るのはコストが合わん。売電するにしても、これだけ魔道具があるんだ、あまり意味がない。それに、魔動モーターが使い勝手いいからなぁ。」
実は、魔石から電気を産み出すことを考えたことがあったんだが、魔動モーターを作ってしまったせいで魔力を電気に変える意味がなくなってしまった。魔動モーターの製造コストがアホほど安くなってしまったからだ。モーターを作るのにかなりの銅が必要だが、魔動モーターは軸を回転させる魔方陣を重ねるだけなので、鉄で事足りる。
「運転本数が激増したり、駅間距離が短くなったら考えるかもしれないけど、それはないと思うよ。」
「じゃあ、電車は走らせないってことですか?」
「まあね。中世ヨーロッパ風のこの世界に似合わないし、今は意味がない。まあ一番の理由は電化設備を作るのが面倒臭いからだな。」
実際俺は電車に乗りたかった訳じゃなく、鉄道に乗りたかっただけだからなぁ。
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本文中でキハ189と書くべきところをキハ183と書いてしまいました。訂正してお詫びします。
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