第14話 俺は玲とキスをしてみたい…もう我慢できそうもないんだ…

 実の妹とキスがしてみたい……。

 悠はそんな衝動欲求を抑えきれなくなっていた。


 なんで、こんなにも気持ちを抑えられないんだろ……。

 やっぱり、互いの気持ちを伝え合ったからだよな。


 火曜日の朝。

 悠はいつもよりも早くに起床していた。

 カーテンから薄っすらと入り込む、朝の陽ざし。

 鳥の囀りが聞こえる。

 一度、深呼吸をして、心を落ち着かせた。


 衝動的に行動してしまったら、何もかもが終わってしまいそうだ。

 だからこそ、自身に胸に手を当て、冷静に心を落ち着かせていた。


 よし、これで準備万端。

 悠は真剣な顔つきで、妹の顔を見た。


 玲は今、瞼を閉じ、寝ている。

 対する悠は、ベッド前に佇み、妹を見下ろしていたのだ。


 眠っている玲の表情。

 今、悠は妹の部屋に勝手に侵入していた。

 悪い事かもしれない。

 超えてはいけない一線かもしれないとはわかっている。

 けど、そんな想いを我慢するのは無理そうだ。


 それにしても、寝顔も可愛いな。

 好きな相手だからこそ、見惚れてしまうほどだ。

 兄妹同士で、そういう行為をやること自体、ありえない。

 引かれてもおかしくないのだ。


 悠は背徳を感じつつ、ゆっくりと、玲の口元へと顔を近づけていく。

 妹がスヤスヤと寝ていることで、軽い息や胸の鼓動が少しだけ聞こえた。

 普段はそんなに緊張しないのに、いざとなると気恥ずかしい。

 胸の高鳴りを抑えきれなくなる。


 俺は……。

 昨日は口移し行為を最後までできなかったことで、その不満が心に残り、未だにモヤモヤした感情に苛まれていた。


 こんな気持ちのままで今日、学校には行きたくない。

 できるならば、心の悩みを解消してから行きたいのだ。

 多分……玲もキスされることは望んでいるはず。


 それにしても、綺麗な顔だな……。

 可愛さの中に麗しさがある。

 口元へ近づけ、寝ている姫を起こすように、王子のようなキスをしようとした。

 が――


「……」

「……」


 なぜかわからないが、妹が目を見開いてしまったのだ。

 玲は眠たいようで、目をこすり、まだ事態を把握していない。


「……ん? 誰? ……って、な、なッ、なんであんたがここにいるのよ、バカッ」

「うわッ、ご、ごめん……」


 いきなり浴びせられる妹の怒号。

 玲はベッドから状態を起こし、部屋の床でしりもちをついている悠を睨んでいた。


「な、なんで⁉ い、いつ入ったの⁉」

「さっきだけど……」

「き、気が付かなかったんだけど……」


 妹は今も動揺を隠せず、状況を理解するのに戸惑っているようだった。


「というか、あんた、私にキスをしようとしてなかった?」

「ああ」

「もう、何よ、いきなりなんて……」

「いきなりじゃなかったらいいのか?」

「ち、違うし……でも、そういうのは……ちゃんとしたところで……」

「え? なに?」


 玲の最後の言葉が小さくて聞き取りづらかった。


「な、なんでもないわ。それより、私の部屋から出てよ、もうー……」

「ごめん……でもさ、どうしてもキスしてみたくて」

「んん……」


 嫌そうに睨んでいるが、頬は赤く染まっている。


「それより……朝なんだけど、まだ私、朝食作ってないし……早く食べたいなら、昨日の肉じゃがとか食べてよね」

「え、ああ、わかったよ」


 悠はそう言い、立ち上がるなり、部屋を後にした。

 妹の扉近くの壁に背を付け、悠は一旦、重い溜息を吐く。


 あともう少しでやれそうだったと思うと、心臓の鼓動が止まりそうもなかった。

 それどころか、熱いくらいだ。

 先ほどの玲の寝顔を見れただけでもいいと思うことにした。






 階段を降り、朝食の準備をすることにした。

 妹の言う通り、昨日の残り物の肉じゃがを鍋に入れたまま温める。

 程よい感じになってから皿に分けて、食事用のテーブルに置いたのだ。

 その頃には、妹の玲が制服姿でやってくる。


「あんたが準備してるの?」

「ああ。普段は玲にやってもらってばかりだからな」

「へえ、気が利くじゃん」

「どこから目線なんだよ」


 悠は冗談っぽく指摘した。


「……というか、今日も一緒に学校に行くつもり?」


 玲は隣にやってくるなり、顔を合わせず、照れながら聞いてくる。


「え? 一緒に登校するんじゃないのか?」

「そうだけど……なんか……」

「恥ずかしいってこと?」

「そ、そうよ。別にいいでしょ……お兄ちゃんのことが好きなんだから……」

「え? 今、お兄ちゃんって言った?」

「う、うん……」

「ど、どうした急に?」


 悠はいきなり過ぎる妹の口ぶりの変化に衝撃を隠しきれずにいたのだ。何があったんだと、悠は玲の体を嘗め回すように見ていた。


 雰囲気にはさほど変わりはない。

 ただ、女の子らしく、そして、恋人のように恥じらう表情を見せていたのだ。

 これは、恋愛をしている時の、メスのような仕草。

 妹がここまで積極的に自身の意思を伝えてきたことに、正直驚いている。


 こんなことがあってもいいのか?

 今日は朝からサプライズ的なことが多く、悠は表情には出さなかったが、内心、ワクワクしていたのだ。


「私ね……恥ずかしいんだけど……その……あんたを、お兄ちゃんって呼ぶようにするから。毎日、意識していっていれば、緊張も柔らかくなるんじゃないかなって思って」

「多分な。でも、玲はそれで本当にいいのか?」


 確認のために問う。


「別にいいし……やるって言ったら、私、やるから」


 玲からの必死さが伝わってくる。そんな話し方だった。


「へえ、凄い変わりようだね」

「別に、あんたにそういわれたくないし」

「というか、もう、玲が自分で決めた約束破ってんだけど?」

「んッ、今のはなしなんだから……今のはなしッ」

「まあ、いいよ。それより、一緒に食事をするか」


 悠は頬を膨らませ、少々不機嫌そうで、肌を絡める妹の頭を軽く撫でてあげた。


「う、うん……」


 玲はただ頷く。

 可愛らしい恋人のように――

 悠はそんな妹をさらに愛したくなった。


 もともと好きだったが、やはり、恋人として、もっとデートをしたいと感じていたのだ。

 二人は席に座り、テーブルを挟んで対面上に食事をする。


「お兄ちゃん……私が、食べさせてあげよっか?」

「なんだよ急に?」


 玲は肉じゃがのジャガイモを、手にしている箸で掴む。


「だって、付き合ってるんだし……私、一応、今日から頑張るし」

「今日からか。じゃあ、俺も協力するからさ。今日も一緒にさ、デートしに行こうよ」

「う、うん……」


 妹はただ一言呟く。

 悠は玲からジャガイモを食べさせてもらったのだ。

 そして、恋人のようになれた朝に心底感謝するのだった。

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