第20話 最後のお別れ(1)バラバラ遺体

 大都市というわけでもないが、田舎というわけでもない。ほどほどに便利な所にあるほどほどに栄えた都市、それがI市だ。

 そしてそんなI市の、しかもそうそう注目されるような場所でもない所が、テレビで中継され、新聞や週刊誌の紙面に写真が乗った。

 市営斎場である。

 畑中夢運という小学校3年生の女の子が殺害され、バラバラ死体となって発見されたのがこのI市の隣のT市であり、T市には火葬場がないため、このI市の施設を利用する事になったのだ。

「凄い報道陣ですね」

 穂高が言うと、いつもよりきちんとメイクしてきた川口と少し余所行きの服を着て来た大場が、うんうんと頷いて同意する。

「バラバラ殺人だもんね。それも子供の」

「犯人、まだ見つかってないから心配だわ。T市なんて隣だから、犯人だってこの辺をうろうろしてるかもしれないじゃない。

 子供達には、外で遊ぶなって言っておいたけど」

 川口は眉をひそめて言い、

「だから早引けしたい」

と付け足し、大場も倉持も向里も聞こえなかったふりをした。

「葬儀の中継をするんだろう。親にインタビューもしているようだし、たまったもんじゃないだろうな」

 向里はそう言って、斎場の外にずらりと並んだ報道陣の方へ目を向けた。

「まあ、いつも通り、故人をお送りしましょう」

 倉持がそう締めくくり、それで一日の業務が始まった。


 泣いて棺に取りすがる母親と力なく項垂れながら妻に寄り添う父親。その姿には涙を誘われるが、それをカメラに収めようと斎場に入って来るカメラマンもいた。喪服を着て、表に出ている「今日行われる葬儀」の案内板から適当に名前を出して、参列者だと言ってガードマンを欺いて入って来るのだ。

「あ!ちょっと、何してるんですか!?」

 またそういう記者を見付けて声を上げると、その女は出しかけていたスマホをカバンに入れながら、

「何って、メールチェックしようとしてただけですけど」

としゃあしゃあと言う。

「どこの葬儀にいらっしゃったんですか」

「田中さんです」

「田中さんは向こうの棟の端です。

 因みに、もしあなたがどこかの週刊誌なり新聞社なりの方だったら、抗議の上訴えるって弁護士さんが仰ってましたよ。

 はい。あなたの顔もばっちり」

 言いながら大場が天井を指さすと、監視カメラかとギョッとしたように反射的に女は目を向け、その隙に大場は反対側の手でスマホを使って写真を撮った。

「あ」

「入って来る時に名前を書きましたよね。職業と。虚偽であった場合は法律違反ですよ」

 女は悔しそうに舌打ちをし、すごすごと帰って行った。

「新聞社の記者とかはちゃんとしてる人が多いんだけどね。報道協定を守る気が無いやつが厄介よねえ」

 大場は忌々しそうに、

「ホント、悪趣味」

と言った。

「警察に来てもらえないんですか?」

「ああ。何かね、事件が起こったのはT市でT警察でしょ。で、斎場はI市。どっちがどうするか話し合いができてないみたいよ」

「もう、早くT市も斎場を作れよ」

 文句を言いながら、大場と穂高は館内をひと回り巡回して、事務室へ戻った。

「あれ。向里さんは?」

 倉持がそれに答える。

「念のために、葬儀場入り口に待機しておくことにしたんだよ。

 ほかの葬儀もあるし、しっかりと頼むよ。ほかの遺族の方にとっても、これが最後のお別れなんだから」

「はい」

 穂高たちは殊勝に返事をして、真面目に仕事についた。


 向里は葬儀場の隅に待機し、緊張を押し隠しながら待っていた。

(変わった死人が好物というなら、バラバラ殺人の被害者になった小学生なんて、気になって仕方がないはずだ。来るだろうか、魂魄鬼は。来たら、今度こそ──)

 そして、ポケットに入れた蒼龍から預かった札をそっと押さえた。







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