第12話 疑惑(2)他殺の疑い

 その後どこからか大場が仕入れて来た情報で、清治は普通ランクの大学を卒業後、就職に失敗。どうにか派遣で収入を得ていたが、そこも派遣切りでクビに。それ以降、家に引きこもり、部屋を出る時は家族やものに暴力を振るう時か深夜に入浴する時くらいという生活になっていたらしいと聞いた。

 今回清治は、大量の睡眠薬を飲んで風呂に入り、湯船の中にコード付きのひげそりを引き込んで感電死した。

 警察は結局自殺としたが、家族の誰かによる他殺の線をかなり疑ったという。

 それについて、葬祭係は何もしない。火葬許可が出ており、警察が解剖だとか言っていない以上、火葬するだけだ。

 向里は淡々とそう言い、皆も真相が気になるものの、そうする以外にはなかった。


 谷口家では、父の英輔、母の真澄、妹の聖良が、片付けをしていた。

 傷だらけの壁や床、へこんだ冷蔵庫、割れたガラスなどを見回して聖良がぽつりと言う。

「リフォームしなきゃね。冷蔵庫やテーブルも買い替える?」

 それに真澄も、

「ああ……そうね。ええ」

と言いながら、リビングの清治を寝かしていた床を拭いていた手を止めて、周りを見回した。

「そうよ。もうこれで、これ以上暴れて壊される事もないんだから」

 それに、英輔がピクリと肩を揺らした。

 英輔は、密かに妻と娘を窺った。

(睡眠薬を飲んだ上に風呂に入って感電死だと?清治が自殺なんてするか?

 考えたくないが、どっちかが、清治を……)

 真澄も考えていた。

(清治は気が小さい子で、暴れるのもその裏返しだったわ。自殺なんてするかしら。それも、睡眠薬を飲んで入浴中に感電死だなんて方法、苦しそうじゃないの?

 まさかこの人が、父親としての責任を感じたとかで?

 いえ、聖良も変だわ。いくら皆困っていたとは言っても、葬儀もしていないうちにリフォームの話なんて)

 聖良も同じく考えていた。

(あのお兄が自殺なんて、考えられない。ちょっとでも痛いとか苦しいとかでギャアギャア騒ぐし、怖がりなのに。

 お父さんかな。もうすぐ定年なのに引きこもりの息子がいるから、この先どうしようか悩んだ末とか。

 お母さんかも知れないわ。睡眠薬を飲ませるのは、料理に混ぜられるお母さんが一番怪しいもの)

 お互いにお互いを疑っているとも知らず、彼らは黙々と掃除をし、明日の葬儀の準備を進めた。


 警察では、刑事達が話をしていた。

「自殺にしてはおかしくないですか?睡眠薬を飲んだなら、致死量を超えていたんだからそのままで死んでいた。感電死するような細工はいらなかったでしょう」

「致死量だとはわからなかったのかも知れないぞ」

「動機だけはあるからな。3人共、ガイ者にはさんざん手を焼かされていたらしいからな。真澄は2度も骨折してるし、聖良はガイ者のせいで恋人に振られ、友人を無くし、学校で孤立してるそうだ。英輔も退職金を前借りしていて、これ以上引きこもりの無職の息子を養うのは難しいと思っていたんじゃないのか」

「ただ、誰にしても、証拠がない」

 そうして、ううむと唸った。


 近所でも、

「もしかしたら、とうとう」

と噂のタネになっていた。

 どれだけ隠そうとしていても、清治が引きこもりで家庭内暴力を繰り返していたのは隠せるものではない。

 清治の霊は人知れず漂いながら、そんな彼らの話を聞いて回っていた。





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