第5話   逃亡のアウローラ

 まったく計算違いよ。どこで間違えたのしら。


 この間まで、反発していたリリアンは急におとなしくなるし、シェル様はリリアンを想っている。秋祭りの1ヶ月ほど前までは、確かにうまく事は運んでいた。


 リリアンに友達はいなかったし、生徒会室でも、毎日罵倒し合っていたはずなのに、別人になったように、言葉少なく、アウローラを避けているようだ。


 秋祭りは盛大に喧嘩をするつもりで、殿下が贈ったというドレスのデザイナーに魔術を使い従わせ、同じ物を作らせた。


 支払うお金はないから、木の葉を紙幣に見立てて騙して精算をした。


 お店からドレスが届いたときは、計画が上手くいって大喜びした。


 美しいドレスを着て大喜びをして挑んだ秋祭りのダンスパーティーでは一番に踊っていただくつもりでしたのに、リリアンが急に帰ろうとするから従者が転んでせっかくのドレスは葡萄ジュースで汚されて、もう二度と着られない。


 代わりにもらったドレスも可愛らしい物を選んだが、シェル様が選んだドレスの方が、質感もデザインもいい。


 全部リリアンのせいだ。


 あまりに頭にきて、うっかり「呪ってやるわ」なんて事を口にしてしまい、呪術のことを気付かれてしまった。


 ザクリナーニネ子爵は魔術が使える一家だ。ずっと秘密にしてきたのに、我が子のシェルの存在まで教えてしまって、これからどうしましょう……。


 馬車を止めて、我が家に帰ってみたが、我が家あった場所には家はなく一族の家まで綺麗になくなっていた。



「あのくそばばあのせいだわ」



 痛む足を引きずり、馬車を降りてみたが、くそばばあの家はこの集落から離れた山の中にある。とても歩けそうもなくて、また馬車に乗り、王宮の近くに戻ってきた。


 我が子のシェルは、久しぶりに母に会えて、喜び甘えている。


 シェルを抱きしめて王都に戻ると、警備が厳しくなっていた。魔術で姿を消して検問を通り抜ける。


 寄宿舎に戻ろうとしたが騎士が立っていた。


 行く場所がない。


 ピンクのドレス姿も目立つ。


 馬車を降りて、木の葉のお金を払い。


 シェルに手を借りて、足を引きずりながら、町でまず着替えを調達した。


 洋服屋でワンピースを購入してその袋にドレスを入れてシェルに持たせる。


 次は食べ物を探す。シェルに食事を与えなければいけない。


 パン屋で食パンを買い、一枚を自分で食べて、あとはシェルに食べさせる。


 大きく育ててしまったので、食べる量も多い。


 公園のベンチで痛む足を見ると、酷く腫れていた。


 折れているのかしら?折るつもりで攻撃したので、きっと折れているはずだ。


 魔方陣を消されたときは、少しずつ消されたので、防御魔法を使うことができたが、痛む足は突然痛みが返ってきた。


 防ぐ余裕がなかったほどの力を持つのは、やはりあのくそばばだけだ。


 殺しておけば良かったと悔やんでも、さすがに自分より力の強い長老に歯向かうことは難しい。


 家を追い出した後、肺を傷めて寝込んでいたから、すぐに死ぬと思っていたが、知らぬ間に元気になり、時々村に顔を出すまで体力もつけた。


 あの長老は幾つまで生きているつもりだろう。


 アウローラの魔術は、長老より弱い。


 両親は、魔術はほとんど使えないのだから、魔術の伝承はだんだん弱くなってきている。


 禁術を使ってやっと長老と戦えるほどの魔術だ。だから、アウローラの魔法はいつも禁術だ。



「アウローラ、お腹空いた」


「今、食べたばかりでしょう」


「足りない」


「シェル、足が痛むの。痛みを消す魔術を使える?」


「使える」


「一緒にかけて」



 ここよ、と手で痛む場所をさする。


 アウローラは、シェルと一緒に魔術をかけて、無理矢理痛みを消した。



「ご褒美に、お食事をしましょう」



 木の葉を数枚拾い、魔術でお金に換える。


 今度はレストランに入り、シェルに食事を与える。

 

 宿を取り、アウローラは、息子のシェルと宿で一服する。

 やっとゆっくりできる。魔術で痛みを消したので足の痛みはないが、腫れが酷く血色も悪くなってきている。


「シェル、これからどうしましょう」


 シェルをお風呂に入れて、自分もお風呂に入って、一度、すっきりさせる。

 シェル様はまだ操れるかしら?ばばあが出しゃばったのなら、アウローラの魔術は、すべて消されているだろう。新しくシェル様に魔術をかけようとしたら、火花が散って人型が消えた。それならリリアンにかけようとしたが、やはり火花が散って魔術はかけられなかった。


「目障りなばばあだ」


 そうか、ばばあに魔術をかけたらどうだろう。


 アウローラは、長老に魔術をかけたが、火花が散って消えてなくなった。やはり力の差なのだろう。


 魔術が使えないのなら、剣を使い殺めるしかないだろう。


 宿から出て、刃物屋に向かった。お金は溢れるほどできる。木の葉をお金に換えているので、容易く剣を買えた。


 剣はシェルの腰につけた。王子そっくりのシェルを見て、人々が頭を下げる。


 その中をシェルと腕を組み歩いて行く。


 どこに行こうか?


 目障りな長老を倒して、シェル様の婚約者のリリアンを殺したい。


 馬車に乗りリリアンの家に向かう。リリアンがいなくなれば、シェル様は私を愛するわ。


 毎日、腕を絡め、隣に置いてくれた彼は優しい。


 正真正銘の恋人になり、この国の皇太子妃になりいつか王妃になり、そのときが来たら、シェル様を殺めて、息子のシェルを国王にしたい。


「うふふ、あはは……」


 アウローラは、一人で笑う。近い未来を予想したら楽しくて仕方がない。


 リリアンの家の手前で、馬車を止めてもらった。


 騎士がリリアンの家の前に立っている。



「ここも騎士がいるのね」



 馬車でリリアンの屋敷を通り過ぎると、屋敷の前だけではなく、庭にも騎士がいる。


 アウローラは、馬車を降りて、林の中に入って行く。


 夜まで姿を消した方がいいだろう。


 町でパンをたくさん買ってきたアウローラは、息子がお腹をすかせる度に、パンを与えた。



 その夜、お金が木の葉になったと騒ぎが起きて、殿下がドレスを作ったお店からも被害届が出た。


 町は大騒ぎになり、国王陛下の騎士団が慌ただしく町を走り回った。



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