第三章

殿下が優しすぎて怖いです

第1話   どうやら骨折ではなかったようです

 マリアンヌ先生が調合してくれたお茶を飲んで、眠るが、眠りが浅く、発熱もしていたリリアンをマリアンヌ先生は、毎日、見舞いに来てくれて、薬を飲ませてくれる。


 足は絶えず氷で冷やされて、固定されている。


 リリアンの食欲は落ち、マリアンヌ先生が持ってきてくれるケーキを口にする程度だった。



「もう、歩けないかもしれないわ。ずっと痛み続けるのかしら?」



 リリアンは弱気になっていた。



「元気を出して、炎症が落ち着けば痛みも落ち着くでしょう」



 マリアンヌ先生は、いつも励ましてくれる。


 ふとした瞬間に、頭の中に一人の老婆の姿が浮かび消えた。



「そういえば、あのお婆さんにお薬をお持ちしなくては……」と口にした瞬間、体から痛みが消えた。



「マリアンヌ先生、足が痛くないわ」


「え?先ほどは、赤く炎症をこして腫れていましたよ?」



 リリアンの隣に座っていたマリアンヌ先生は、リリアンの足を覗き込んで、「まあ」と驚いたような顔をした。



「赤みが引いてきているわ」



 体を起こそうとしたとき、モリーが支えてくれた。



「やっぱり痛みが消えているわ」


「不思議ね」



 マリアンヌ先生は氷を退けて、足を見つめる。



「徐々に腫れが引いていくわ」


「これは魔術だったのかしら?」


「魔術なら、誰かが解いてくれたのでしょう」


「アウローラではないと思うわ」



 掛布を取ってもらい、リリアンも自分の足を見つめる。


 メリーもモリーもその様子を見て驚いている。


 見ている間に、赤みも腫れも引いていく。



「まだ足は動かさない方がいいわよ」


「はい」



 今、奇跡の力で治していただいているなら、じっとしていた方がいいに決まっている。


 酷く腫れていた足は、左足と同じほどの細さに戻っていった。



「メリーさん、お医者様を呼んでくださるようにお願いしてください」



 マリアンヌ先生はマリーに指示を出すと、メリーは「はい」と答えて、部屋を出て行った。


 母に伝わり医師を呼びに馬車が出て行った。



「リリアン、足の痛みが治まったって本当なの?先ほどまでとても痛そうに腫れていたのに」


「ええ、急に痛みが消えたのですわ。そうしたらあっという間に腫れも赤みも取れてきたの」


「本当に驚きましたわ」



 マリアンヌ先生は、心底、驚いた顔をしている。



「奇跡が起きたのね」



 母は神に祈っている。



「お医者様に診ていただいて、治っていたら、本当に奇跡ですわ」



 マリアンヌ先生は嬉しそうだ。


 リリアンもマリアンヌ先生につられて、笑顔になる。


 数刻して医師が、連れられてきた。



「どうかなさったのか?」


「急に痛みが消えて、腫れが収まってきたのですけど、診ていただけますか?」



 掛布が捲られて、固定された足が晒されている。


 固定されていた包帯が緩くなっている。


 看護師と医師が固定包帯を解いていく。



「これはなんと!何かを使ったのか?」



 医療茶葉認定医の二人に、医師は聞いた。



「何もしておりません」



 医師はリリアンの足を掴むと動かしてみる。



「痛くはないか?」


「はい、痛くはありません」


「治っておるな。これは奇跡だ。足は折れていた。それが元通りに戻っておる」


「良かったわ」


「何はともあれ治っておる。神のお力か?」



 医師まで神に祈っているので、リリアンもマリアンヌ先生も神に祈った。



「もう歩いてもいい。転ばぬように、最初は気をつけなさい」


「はい。ありがとうございます」



 医師と看護師は帰っていった。



「どうしよう。とても嬉しいわ」


「私もとても嬉しいわ。リリアンの笑顔が見られなくなったら悲しいもの」


「マリアンヌ先生のお陰で、この数日、乗り越えられました」


「私が寝込んだら、リリアンが調合してくださいね」


「はい」



 二人は顔を見合わせ、手を繋いで喜び合った。


 モリーもメリーも目の前で奇跡を見て、神に祈っている。



「お母様、ご心配をおかけしました」


「本当よ。リリアンが歩けなくなったら、どうしたらいのか、ずっと考えていたのよ」


「もう平気です」


 母は喜んで、「お父様に伝えなくては」と部屋を出て行った。



「モリー、今日はお風呂に入りたいわ。髪もずっと洗ってなくて気持ちが悪いわ」


「準備をいたしますね」



 モリーとメリーは嬉しそうにリリアン専用のお風呂の準備を始めた。


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