第6話   アウローラ

 アウローラ・コアル・ザクリナーニネ子爵令嬢は寄宿舎から連れられて、王宮の取調室にいる。


 シェルとグラナードも一緒だ。取り調べをしているのは、騎士団長と騎士二人。一人は記録をしている。



「血の交換とはなんだ?」


「男と女がすることは決まっているでしょう」


「それが何か聞いているんだ」


「殿下と結ばれたのよ。そのときの子がいるの。二歳半になるわ」


「あの夜、グラナートと同じ部屋で眠ったが」


「眠り草を飲ませたのよ。シェル様と側近に。簡単な事よ。お茶にも食事にもたくさん入れたわ。シェル様も側近もすぐに眠りに落ちて、儀式をするのにちょうど良かったのよ」


「儀式とは何だ」


「永遠を誓う約束よ。処女を捧げ、シェル様からもいただいたから、子供ができたわ」


「僕にはまだ精通はなかったはずだ」


「魔術でどうにでもなるわ。呪いをかけることも簡単よ。私を見たら虜になるように、魔術をかけたわ。シェル様は私を見つめたらドキドキと胸が騒ぐはずよ」



 シェルはアウローラを見つめた。


 確かに胸が騒ぐ。


 愛おしい気持ちが芽生え始めたとき、隣に立つグラナートが視線を遮った。



「すまない。グラナート」


「いや、操られているだけだ」


「そうだった」



 アウローラは微笑む。



「シェル様の子供を見たくはない?どうせ一族全員捕まえてきたのでしょう?その中にいるはずよ」


「二歳くらいの子はいなかったが?」


「成長が早いのよ。そういう魔法をかけたの」



 アウローラは立ち上がった。



「紹介するわ。さあ、この扉を開けて」



 騎士団長は頷いて、アウローラの手錠に鎖をつけた。



 +



 牢の前で、アウローラは優しく「シェル」と呼んだ。



「アウローラ」



 出てきたのはシェル殿下そっくりな男性だった。とても二歳半には見えない。



「どっちが本物かわからないでしょう?」


「シェル、皆を解放して、お城を乗っ取るのよ」



 簡素な服を身につけた殿下にそっくりのシェルは、魔術を使い、鍵を開けた。



「取り押さえろ」



 騎士団が笛を吹いた。大勢の足音が聞こえる。



「シェル隠れて」


「はい、アウローラ」



 シェルは他の住人に紛れるように身を縮めた。見る間に存在感が消える。


 騎士団長は隠れるようにしたシェルの襟を掴むと、引っ張り出してきた。



「シェル逃げなさい」



 騎士団長が吹き飛ばされ、シェルは走り出した。



「すぐに追え。追って捕らえよ」


「どう?私とシェル様のお子は、なかなか強いのよ。騎士団を全滅させるかもしれないわ」



 アウローラは声をあげて笑う。


 護衛の騎士が、騎士団長を牢から出して、鍵を厳重にかけた。



「鍵など、私たちには無駄なのよ」



 アウローラは指先を弾いた。その瞬間、閉めたばかりの鍵が開いた。



「その女の目を塞げ」



 騎士は上着を脱ぐと、頭から上着をかぶせた。



「くさいわ」


「指先まで動かせないように拘束が必要だ」



 アウローラは取調室に連れて行かれ、分厚い布で頭から首まで覆われて、指は添え木をされ、指の1本まで布で厳重に巻かれた。



「こんなことをしても無駄なのよ」



 アウローラは平然と言葉を発した。


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