第33話 俺が足を洗った理由

 実は、俺は振り込め詐欺の架け子をやってたんだ。そう、電話をかけて相手を騙す訳だよ。でも、もうキッパリ足を洗ったんだ。もちろんやめるにあたってゴタゴタはあったけど、俺の決意は固かった。

 やめた理由? 何もまっとうな手段で幸せにしてやりたい女ができたわけでも、尊敬できる人物に説教されたわけでもない。

「もしもし、おばあちゃん? タケルだけど!」

 その時も、俺は一人暮らしの婆さんに電話をかけた。

 はっきり言って、罪悪感はなかった。だって、家族のためとはいえ即金でポンと何百万も出せる奴は、それなりに金持ちだろうから、貧乏な若者に金をまわすべきなんだ。

「ああ、タケルかい。どうしたんだい?」

「実は、妊婦を轢いちゃって……今すぐに示談金が必要だんだ」

「ああ、なんてことを! ああ、ああ」

 婆さんは、泣きながら怒鳴っているようだった。

「本当に、なんて事を……まだ、ジイさんを山に埋めて半年も経ってないじゃないか! それなのに警察に目をつけられるようなことを……!」

 言葉の意味が分かった時には、携帯を切ってたね。

 それから、警察に連絡をしようかどうか、迷った。結局やめた。だって、こっちが詐欺をやってたのがばれるもんな。

 まあ、あれだ。こんなことあったら、やる気失せるだろ、普通。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る