第17話 あなただわ
この先のトンネル、知ってるか? そう、俺が前よく通(とお)ってた所。実は、結構有名な心霊スポットなんだよ。
なに、よくありがちな話でさ。車で真中あたりまで来ると、ぬっと人影が現われる。慌ててブレーキを踏むんだが、自動車が止まりきらないうちにゴシャッと鈍い音がする。これはやっちまったかと思って外へでても、死体はもちろん血の一滴も落ちてない。
気のせいかと車に戻りかけると気づくんだ。自分の背後に誰かがいることに。そして消え入りそうな女の声が囁く。
「あなたじゃないわ」
なんでも、ひき逃げされた女が、今だに自分を殺した犯人を探し続けているらしいぜ。
でな、俺も遭ったんだよ、その幽霊に。本当だって! しかも俺の場合、聞いてた話とちょっと違ってた。
「あなただわ」
って言われたんだ! びっくりしたぜ! 俺、人ひいた事なんか無えもんよ! もう心臓バクバク、口カラカラ。何かの間違いだ、誤解だって泣きながら説明したら、その女、すうっと消えた。しかも、にっこり笑って。
それで、彼女の立っていた場所に、これが落ちてた。見えるか? おもちゃのペンダント。小さい時に死んだ、妹の形見でさ。いつも持ち歩いていたんだが、どっかで無くしてたんだ。ずっと探してのに、どうしても見つからなくて……
多分、落としたのあのトンネルだったんだな。で、幽霊が見つけたんだよきっと。それで、ずっと預かっていてくれたんだ。自分を殺した犯人のついでに、落とし主も探しながら…… あんな優しい幽霊もいるんだな。
でな、気になって、後であの女の事調べたんだ。ほら、大切な物みつけてくれたんだから、お礼したいじゃん?
彼女ひき殺したの、お前だろ。そういえば、ひき逃げ事件があったころ、お前なんか様子おかしかったもん。車も急に買い替えたし。それに、タイヤの所にも何か赤黒いのついてた。その時は泥だと思って気にしなかったけど、今考えたら、さ。
ああ、無理無理。チャイルドロックしてあるから後部座席、内側からドア開かないよ。ほら、もうトンネルが見えてきた。大丈夫、俺も一緒に謝ってやるから。もっとも、効果があるかは分からないけど。お前、生きて帰れるといいな。
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