戦いの狼煙

「なんで...」




綺麗に装飾された公園の中,その派手さを活かし上手くその場に溶け込んでいるように見えたが、あれは溶け込んでいるのではない、遊具という無機物ですらも無理やり支配しているように感じ取れた。あぁ、あれはこの世界とは似つかしくない生物だ、と思った時。




   「ん?なんかそこにいるのか」




   「!!!」




気づかれたか、もしあの生物達が人間じゃないのならば、目とかではなく生命体を感知できる触覚を持っていてもおかしくはない。



   「いるわけないでしょ、いたとしても小動物ぐらいでしょ」



   「まぁ確かに、人間は夜行性とは聞いてないからなぁ」


なんだ、あの言い方。それじゃまるで....本当に人間じゃないか、と言う前に慌てて口を塞いだ。


   「別に今人間がいようがいまいが、この惑星の再構築することには変わりないんだがねぇ」



   「全くお父様もちゃんとエデンと連携を取って、対象の排除だけに力を注げばいいのに」




惑星の再構築、エデン?意味が分からず、つい言葉を反復しそうになった。



   「全く本当だよ。そうすれば俺らのやることも減って自由な時間も増えるのに」




   「まぁ仕方ないか、あれでも私達を救ってくれたことには、変わりないんだから」



   「どうだかねぇ~」


何を言っているかは相変わらず分からないが、一つ分かったことは、あの人達を放ってはおけない。このままじゃ俺だけではなく、この地球が壊れてもおかしくないとこの身体がそう叫んでいる。


   「じゃ、始めるか」


   「私、ここの文明好きだったんだけどなぁ」



緋色の髪の男がクレーターに手を置き、何やら不審な言葉を唱え始めた。唱えると同時に、地盤が歪みクレーターが光って見えた。恐らくその再構築とやらを始めるのだろう。もう遅いのかもしれないでももう見てられない.....



  「何...やってるんですか」



つい体が反応してしまった、恐怖よりも止めなければならないという思いの方が勝ってしまった。正確に言えば、このまま放置すれば取返しの付かないことになると悟り、その恐怖が俺を後押ししたのだった。しかし怖いことに間違えはない、その証拠に今でも足が震えている。



  「あぁ、お前昨日の」



「こんな夜に出歩いてたら危ないよ」



俺を見るなり、昨日と同じ態度で喋ってきた。恰好はさっきとは違い、派手ながらもシンプルといった見た目をしていた。恐らくは動きやすいように無駄を省いているのだろう。


  「一つ聞きたいことがあるのですが?」


俺はこんなにも緊張し、声も震えているのに、あの二人は昨日とは何ら変化のない様子で立っている。もしかして俺の方がこの公園の異端なのではないかと錯覚してしまうほどに。



  「うん、いいぞ」


俺の緊張した雰囲気と男のサバサバした雰囲気がこの場を上手く中和してる。



  「今何してようとしてました」



またもや震えた声で問う。



  「うーん...難しいなあ」



額に手を置きながら、真剣に悩んでいる。何故だか、その仕草は男である俺を魅了するほどに綺麗と感じた。しばらくしてから....



  「簡単に言うと、この惑星を新しくするってことかな」



男は隠そうともせず、自分達の目的を言ってくれた。



  「それが再構築ってやつですか。その...再構築とやらは具体的に何をするんですか?」



  「理解早いなおい。でも再構築の話を具体的にすると難しいよ?」



  「それでもいいんです。昨日俺を救ってくれたあなた達が、何者で、何をしようとしてるかが気になるんです」




  「俺が君を救った?」




  「はい、あなた自身そう思ってないでしょうが、俺からしてみれば救われたんです」




  「そっか良かったちゃんと救えてるんだな」




  「?」




  「おほん...話が脱線して申し訳ない。じゃあ簡潔にかつ分かりやすく説明するよ」




  「その必要はありませんよ、エネル」




俺が、男の話を聞こうとした瞬間だった。後ろから、この場には似つかわしくない人物の声がしたのだ。




  「誰かと思って見てみれば、これは久しぶりだな、久遠のマナ」




  「嘘.......」




俺の後にいる戦闘服を靡かせている人物は、紛れもないく先輩だった。




  「あなたがここまで任務の遂行に時間がかかるとは予想外でした。」




「いやぁ、これが意外にもこの惑星がおもしろくってさあ」




「随分怠けているようですね、過去の自分が今の自分を見たらその豹変っぷりに腰を抜かすでしょう」




「それは、お互い様だろ」




先輩と男の話はそれっきりだった。二人が静かに佇む公園。それは公園としての本来の機能を見失う程に歪に感じられていた。滑り台やブランコその他諸々の遊具たちがこの男とこの少女に恐怖してるのが伝わってくる。恐らくこの公園で一番映えている造形物は悔しいがあのクレーターだろう。公園の中にいる人物は4人いるのにも関わらず、恐ろしく静かであった。互いに冷え切っている目線をぶつけ合っている氷のようにもかかわらず、少しでも火を近づけたら今にも燃えそうな燃料のようでもあった。静寂しているが騒がしいと言った異常な空間の中で、その異質さを断ち切ったのは俺だった。




  「先 輩......」




やっとの思いでふり絞った声があまりにも弱かった。それでも先輩は答えてくれた。




  「茨木君、ここはもう少しで戦場になります。生きていたいなら、ここから逃げてください」




しかし、そこにはいつもの先輩はいなく、いるのは冷酷な声をした少女だけだった。




  「戦場になるって、先輩、この人と戦うって事ですか?」




  「はい、そうです」




ただえさえ俺を助けてくれた人がこの地球を変えようとしてるのに、先輩が戦うなんて、とてもじゃないが脳がそれらの情報を受け入れようとしない。




  「そうですって、なんで先輩はこの人と戦うんですか?後この人達なんなんですか?先輩のその服も、仕草も、俺の知ってる先輩じゃない」




少し涙交じりながらそう叫んだ。誰だってこの場面に直面すれば叫びたくもなる。いつも笑顔で少し天然な人が、鎧を身にまとい、武装してるのだから。




  「そうですね。学校の姿とは真逆ですから、でも私はこれが本来の姿。もちろん学校にいるときの私も本物ですが...」




  「.......」




言葉が出ない、あまりにも突然過ぎる出来事に思考が追いついていかない。目の前にいる先輩のような物を否定したい。それでもこれは先輩だ、と現実を脳が突き付けてゆく




  「話は終わりです。茨木君早く家に帰りなさい、明日も学校がありますし、病院も行かなければならないのでしょう。ならこんな所にはとどまらずに、早く」




  「なんで、俺が病院行くこと知ってるんですか?」




先輩が俺の誰にも言ってない事情を知っていたので、この殺伐とした雰囲気のなか普通にツッコんでしまった。何故か向こうにいる男は、あちゃ~と言った雰囲気で少し微笑みながら額を抑えていた。




  「たまたま、聞いただけです(汗)」




  「でも、先輩さっき断言してたじゃん」




  「むぅ~」




うん、恰好や雰囲気はいつもと違うけれど、この可愛らしい反応は間違えなく先輩だ。けれどその事を知ってなお、今も胸が締め付けられる。確かに、先輩なのかもしれないけど、その姿でいつもの調子でいられても、さっきの先輩が脳裏をよぎり混乱する。




  「遊びはここまでです、ここからは戦闘。一般人が介入できる余地はありません」




  「戦闘は避けられないのですか?」




  「はい、絶対に」




  「なんでですか?」




  「それは、明日の部活が終わってからでも話しましょうか。」




  「今知りたいです」




今ここで知らなくちゃ、止められないかもしれない。恩人である人達の戦いなんて見たくない。




  「無理です」




  「いやだ....」




先輩は冷静なのに対し、俺は感情的になっていた。




  「はぁ、しょうがないですね」




その溜息交じりの言葉とともに先輩は、俺に向かって手を伸ばした。




  「!?」




手を伸ばした瞬間、俺の周りには、新たな空間が広げられていた。




  「安心してください。その空間は、守りに徹してあります。Third Universeぐらいならきついかもしれませんが、直であなたを狙わない限り絶対に破壊されません」




  「ここで、先輩達の戦いを見届けろと?」




  「そうですね、それが嫌なら、家に帰ることを進めます」




ここぞとばかりに帰宅を促す先輩




  「こんなものすぐに........壊れない...だと」




その空間は俺がいくら叩いたり、蹴ったりしてもびくともする気配は無かった。




  「えぇ、そんな攻撃で壊されるんなら、最初からこんなことはしないでしょう」




  「確かに..そうですね」




先輩に正論を言われ、只々肯定するしかなかった。




  「逆にあなたはなんでこの人と戦うんですか?」




先輩に聞いても埒が明かないので、緋色の髪の人に質問することにした。




  「うーんなんていえばいいんだろうなぁ、まぁこれには深い訳があってなぁ」




苦い顔で返答する男




  「あなたも答えてくれないと」




  「まぁそういうことだな、答えがほしけりゃ、マナが俺に勝って明日お前に話すしか方法が無い」




  「あなたも戦闘をやめないと?」




  「そういうことだ」




お互いやめる気はない、俺が何を言ったて意味が無いのだろう、確かに互いに理由を持って戦いをする、それでも最後に...




  「話合いでは?」




「それができるのならとっくにしてる」「それができるのならとっくにやっている」




その場にいる俺以外の人全員が、俺に対し嘆きの言葉を集中砲火してきた。自分自身の発言が火種となりそれが戦いの合図となったのか互いに臨戦態勢をとった。


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